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医療部発

コラム

「病気があるから今の自分がある」 てんかんと就労取材で感じた光

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医療部・原隆也

 10月25日から11月1日まで掲載した医療ルネサンスは「てんかんと就労」をテーマにしました。てんかんは私自身の持病で、以前に発症からこれまでの経過と病気に対する思いをヨミドクターのコラム「 原隆也記者のてんかん記 」として連載しました。

 このコラムをきっかけに、同世代の他の患者さんと知り合うことができました。ほかの患者さんとの交流を通し、いつ発作が起きるか、という不安を抱きつつも、服薬で発作を抑えれば健康な人と変わらずに仕事はできるんだ、という自信など自分と思いが共通することを知りました。

 コラムでは自分の体験にとどまっていたため、他の患者さんとの交流で得た蓄積を記事にできないかと考えてきました。医療部には、てんかんの患者さんや家族から、就職や仕事への影響を心配する声が寄せられます。そこで、働く患者さんの姿を通して、悩める患者さんへのエールにしたいと思い、取材に着手しました。

 患者が自分らしく生きられるよう支援している名古屋市のすずかけクリニック院長の福智寿彦先生や、私とほかの患者さんの橋渡しをしていただいた新宿神経クリニック院長の渡辺雅子先生、渡辺先生を通じて知り合った作業療法士の浪久悠さんの協力で、全6回の連載で8人の患者さんに登場いただきました。

 まず、全員に共通して印象に残ったのが、表情が明るく、輝いて見えたことです。

 連載1回目の会員制リゾート会社に勤務する前田直行さん(47)は、中学時代、病気を理由に陰惨ないじめに遭い、自殺を図ったこともありました。3回目の結婚相談所を営む水谷啓伸さん(33)も前田さんと同様、アルバイト先などで同僚の心ない言葉や態度に繰り返し傷つけられました。2回目に登場した、車の運転中に初めて起きた発作で事故を起こしてしまった男性(37)は、人に迷惑をかけた罪悪感に今も苦しんでいます。

 取材時にそうしたつらい経験があったことは表情からはうかがえず、話を聞いて驚くばかりでした。現在の仕事や生活が充実していることが今の生き生きとした表情につながっていました。そうなるまでには、病気と向き合い、共存しようとする姿勢や周囲の理解と協力があってのことでした。

 前田さんは「病気があるから今の自分がある。逆になかったら何も努力しないろくでなしになっていたかもしれない」と語りました。

「病気があるから今の自分がある」 てんかんと就労取材で感じた光

仲むつまじい水谷さん夫妻

 水谷さんは何と言っても奥さんの実佐子さん(35)の存在が欠かせません。連載で登場したエピソードで、交際を始めたばかりの頃に、水谷さんがデートの待ち合わせ場所を間違えました。実は脳の手術の後遺症で物事を忘れやすくなっていることが原因だったのですが、実佐子さんは水谷さんの間違いを責めることもなく、慌てて駆けつけました。このエピソードが、連載の中で一番気に入っています。

 記事中の水谷さんの誠実な姿からか、実佐子さんとの仲むつまじい様子からか、「水谷さんの結婚相談所を紹介してほしい」という声が社に複数寄せられたのもほほ笑ましい後日談となりました。

 取材では、同じ患者同士ということもあり、話が弾んで当初の予定時間を大幅に上回ることもしばしばでした。前田さんからは取材後、「話しやすくて、もう少し時間がほしかった」「(記事で)新しい思い出が一つ増え、過去の つらおも いが一つ消えました」とメールをいただきました。

 連載後、反響の手紙やメッセージも寄せられました。自分も患者という方からは「持病と戦いながら頑張って仕事をしている姿に心を打たれました。会社の中で理解をいただけるというのも患者にとって何よりうれしいことです」と評価いただきました。この方は周囲に持病を隠しているため、「いつ、ばれるだろうという不安がつきまとい、『私はてんかんです』と言えばどんなに楽かと思うが、家族などに差し障りがあると思い、言い出せずにいます」と複雑な心境をつづっています。

 別の患者の方も勤務先で持病を告げると辞職を迫られた経験を明かしたうえで、医師でさえ病気を知らずに偏見を持つと指摘し、「偏見に苦しむ人は多いと思います。自分が(患者だったら)身内に(患者がいたら)と考えて接してもらえたら(カッコ内は原補足)」と締めくくっています。

 今回は私が患者ということもあり、取材対象者に感情移入できた面があります。ほかの病気でも悩む患者さんに光が差すような記事を発信していきたいと思います。

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原隆也(はら・りゅうや)

感染症や先端医療を担当。横浜支局では大学医学部の博士論文を巡る謝礼金授受問題を手がけた。

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医療部発12最終300-300

読売新聞東京本社編集局 医療部

1997年に、医療分野を専門に取材する部署としてスタート。2013年4月に部の名称が「医療情報部」から「医療部」に変りました。長期連載「医療ルネサンス」の反響などについて、医療部の記者が交替で執筆します。

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1件 のコメント

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やっぱりだめなのかな

みっーらー

  就活しているとき正直に言うと採用されない。だまっていると採用される。これこれって差別ですよね!診断書を提出してもやっぱりだめなのか。どうすれ...

  就活しているとき正直に言うと採用されない。だまっていると採用される。これこれって差別ですよね!診断書を提出してもやっぱりだめなのか。どうすればいいのか何処にぶつければいいのか解からない。これが現実で、理解してもらえない。口では、色々と言ってもらえるけど、やっぱり駄目なんだ。何とか生活できるように、胸を張って生きていきたい。」

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