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知って安心!今村先生の感染症塾

医療・健康・介護のコラム

冷凍メンチ事例から学ぶ「O157」の落とし穴

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O157が検出された冷凍メンチ(神奈川県提供)

O157が検出された冷凍メンチ(神奈川県提供)

 ある加工会社が製造した「冷凍メンチ」によって、腸管出血性大腸菌O(オー)157の集団食中毒が発生しました。さらに、同じ加工会社が製造した商品を発売している有名メーカーからも、関連製品を自主回収するとの発表がありました。

 みなさんは、なんとなく冷凍食品は安心だと思い込んでいませんか? その思い込みは大間違い。実は、冷凍でも食中毒が起こることはあるのです。今回は、この食中毒事例のポイントを解説しましょう。

O157って何者?

 みなさんの腸の中には、多くの菌が「常在菌」として共同生活をしています。そして、そのひとつとして大腸菌も () んでいます。しかし、この大腸菌は、人の腸の中にいる限りは悪さをしません(尿路や血液など、他の場所に入ると感染症を発症してしまいます)。

 大腸菌には多くの種類があり、牛などの腸の中にも症状を起こさない様々な大腸菌がいます。しかし、牛には悪さをしない大腸菌でも、人に対しては病原性をもってしまう菌もあるのです。このような大腸菌の代表が腸管出血性大腸菌です。腸管出血性大腸菌は、その血清型で多くの種類に分けられ、その中でも最も有名なのが「O157」なのです(最初の「O」はアルファベットの「オー」です)。

O157はどうやって感染するの?

 腸管出血性大腸菌は、もともと牛などの腸の中にいる菌です。このため、食肉として処理する時に、肉の表面に菌が付着する可能性があります。この大腸菌は感染力が強く、ごくわずかな菌の量でも発症してしまいます。したがって、この菌によって食材が汚染されると、規模の大きな集団食中毒を起こすことも多いのです。

 O157に感染して発症すると、下痢・おう吐・発熱などの食中毒症状を起こします。また、乳児や高齢者は重症化しやすく、脳炎や溶血性尿毒症症候群を合併して死亡することもあります。

こんな集団感染もあります

 O157といえば肉が多いわけですが、菌数が少なくても発症することから、間接的に土壌や水が汚染されることで集団発生を起こすこともあります。たとえば、野菜を扱う時の水が汚染されてしまい、感染源となってしまうことがあるのです。最近の事例でも、「白菜の浅漬け」や、花火大会の露天で販売された「冷やしキュウリ」でも、大規模な集団食中毒が発生しています。

 さらに、保育所でのプールが感染経路であると疑われたO157の集団感染事例の報告もあります。これは、保育所での小さなプールが塩素消毒されていなかったため、感染した園児からプールの水を介して二次感染が起こったものと考えられています。

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今村顕史(いまむら・あきふみ)

がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長

石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。著書に『図解 知っておくべき感染症33』(東西社)、『知りたいことがここにある HIV感染症診療マネジメント』(医薬ジャーナル社)などがある。また、いろいろな流行感染症などの情報を公開している自身のFacebookページ「あれどこ感染症」も人気。

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