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虹色百話~性的マイノリティーへの招待

コラム

第62話 渋谷区同性パートナー証明1周年、条例に内在する問題点?

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条例制定の「これまで」をふり返るシンポジウム

 昨年の11月5日、東京の渋谷区と世田谷区で、行政が同性パートナーシップを公認し、証明書等を発行する制度が開始されました。現在に続く「LGBTブーム」のメルクマール(節目)ともなった日から1年。先日(3日)、渋谷区で条例制定を振り返り、今後の性的マイノリティーへの支援のあり方を考える集いがありました。

 はじめに 挨拶あいさつ に立った長谷部健区長が、同性パートナーシップ証明が現在まで15組に発行され、公正証書作成などハードルが高いなか、1年で5~6組と見込んだ予想を超える多くの利用者があったことに驚いていると述べました。また、区のLGBT支援の取り組みとして、イベント形式での交流スペースの開設と、区の花「ハナショウブ」を虹色にあしらったシンボルマーク制定が報告されました。思春期の子ども・若者の相談窓口設置への意欲も語られました。

渋谷区同性パートナー証明1周年、条例に内在する問題点?

右から中川さん、渋谷区男女平等・多様性推進会議会長で弁護士の大川育子さん、杉山さん、全体進行は男女平等・ダイバーシティ推進担当課長の永田龍太郎さん。右端が新制定のマーク。

 集いの前半では、全国的に話題となったいわゆる「同性パートナーシップ条例」について、関係者がその成立までを振り返りました。

 司会も務めたトランスジェンダー活動家で飲食店経営の杉山文野さんは、条例が突然、渋谷に登場したように思われているが、10年前の長谷部区議(当時)との出会いから始まったエピソードを披露。条例制定後、証明書発行のための区規則の制定にかかわった弁護士の中川重徳さんは、公正証書作成の現場を知るだけに、「遅すぎた一歩の開始は喜ばしかったが、同時に費用がかかることに悩んだ」と語り、軽費用でできる特例型(後述)を規則に盛り込むまでの苦心を語りました。

 会場からは、岡田マリ区議が「当事者でなければフツーにできることができないことに悩んでいることを知り、ショックだった。条例が周囲の理解を促進し、当事者へもそこで悩まなくていいよというメッセージになればいい」、条例制定を陰で支えた区職員も「反対意見が4000件も寄せられたことで、逆にこの条例を必要としている人がいることが確信できた」と語りました。

 渋谷区のLGBT支援はパートナーシップ証明が注目されがちですが、区長が表明したように若者支援、また一人暮らしの人も含めすべての人の人権の課題として取り組んでいくことが確認され、前半を終了しました。

書面で多様に備える自由さを、条例は阻害していないか?

 さて、この日の模様は他媒体でもいくつか報道されています。同時に編集長からは「当事者業界の長い永易サンには、他媒体で読めないことも書いてほしい」と言われています。べつに奇をてらう気はありませんが、法律家(行政書士)の端くれでもあり、私も何組か渋谷区在住カップルの公正証書を作成し、パートナーシップ証明申請のお手伝いもさせていただいた身として、この1年で感じたことをあえて書いてみたいと思います。

 渋谷区のパートナーシップ証明書は、「男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備える戸籍上の性別が同一である二者間の社会生活関係」(条例でのパートナーシップの定義)に関する証明をするもので、そのさい相互に任意後見契約を締結していることと、共同生活の合意契約を公正証書で作成していることを確認することになっています。任意後見契約は公正証書ですることが法律で決まっていますから、この2種の公正証書のあることが要件です。

 ところで、パートナーシップの定義にも出てきた「婚姻関係の実質」って、なんでしょうか。近代法の出発ともいえるフランス革命の1791年憲法は「婚姻は民事契約」と宣言し、婚姻を教会の統制から解放しました。婚姻には社会的承認やら愛の誓約やらいろいろな機能があるのでしょうが、やはり財産管理と世話(身上監護、ケア)についての取り決めが重要と言えるでしょう。

 私たち法律家は、契約と聞くと、そのとき判断能力はあるの? わかった上でハンコ押してるの?と気になります。判断能力(法律行為を行う行為能力)の有無で契約は違ってきます。

 婚姻の主要な目的として財産管理と世話について取り決めるときも、判断能力のある段階とそれが失われた段階(認知症や植物状態)とでは、契約の仕方が違ってきます。判断能力がない場合に備える契約は、本人がその後自由な更新ができないので、あらかじめガッチリした契約をしておく必要があり、それが任意後見契約です。判断能力がある間は、お互い自由に更新や改正ができるので、いろいろな契約の仕方が考えられます。

 渋谷区条例は、同性ふたりのあいだに婚姻関係の実質に準じるものがあるかどうかを、契約の有無で判断することにし、長いパートナーシップ期間中の判断能力のある時期とない時期とに対応して、共同生活合意契約と任意後見契約とを指定したのです(正則型)。

 ただ、証明発行の具体的規則を検討する段階で、2本の公正証書作成は費用負担も重く、若いカップル(若いに限りませんが)に任意後見の作成はいささか遠い話でもあることから、将来の任意後見契約の作成を約したうえで、共同生活の合意契約だけでも申請できるようにしました(特例型)。このこと自体は申請者の負担軽減にもつながり、よかったと思います。(図参照)

虹色百話グラフ-2

 その一方で、条例が特定の契約のみを指定したことは、私は法律家として問題があると思っています。

 同性パートナーシップの保証のために私もさまざまな書面を作成しますが、判断能力が失われたときに備える任意後見契約とともに、判断能力がある時期に対しては、共同生活の合意契約のほかにも、財産管理や世話についての代理権を明確にし、それを外部にも示した「委任契約」の作成を提案することもあります。

 合意契約は両人間での合意内容を記するのみで、法律論上、第三者を拘束しないとされています。最悪、病院などが「ウチはそれに従う義務はない」ということも法律論上、可能なのです(もちろんふたりが公正証書にまでしたものに従わないというのは、考えにくい話ですが)。

 また、合意契約にあまりあれこれ盛り込むと、公証人としては、「それは委任契約です、そこは遺言です、そっちは死後事務委任契約です、それぞれ書面を分けてください」となり、結局、書けるのは漠然とした2人のお約束にとどまり(家事や費用は分担するとか、不貞行為はしないとか)、法的保障の実益が薄くなる恐れがあります。

 委任契約は、財産管理や病院等での療養看護にかかわる代理権の内容を一つひとつ列記し、それを委任した明確な契約です。私がかかわらせていただいた渋谷区在住でパートナー歴20年余のある中年のゲイカップルは、老後に備えて遺言と任意後見契約のほか、家族(ふうふ)同様にお互いの事務を行うための委任契約を公正証書で作成されました。しかし、区の証明書も希望されたので、とくにいまさら必要ない共同生活の合意契約公正証書も作成せざるをえなかったのは、もったいないとの思いもあります。

 昨年2月に条例案を発表するまえに、検討委員会の公開やパブリックコメントの実施などもう少し多くの声が聞けていたら、万全の案で条例審議に臨めたかもしれませんが、そのときにはそのときの事情があったのでしょう。今後の改良は、また後日の機会を待つこととしましょう。

 他には、同時に始まった世田谷区のパートナーシップ宣誓書受領証が、特段、通し番号などは付していない一方で、渋谷区の証明書が第何号、第何号と付されている点が気になりました。「証明書」というものは、卒業証書のように号数が必要なのかはわかりませんが、卒業証書なら首席で卒業もありますが、かけがえのない個々のカップルに、首席も末席もないでしょうに……。なんらかの事情で証明が取り消し・返納された場合、その番号は今後欠番になるのもヘンな感じです。

 渋谷型証明書には、当初、費用の面から疑問の声が寄せられましたが、今回は、条例が作成すべき証書を指定することと当時者の自由なライフプランニングの点から、私見を述べてみました。

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永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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1件 のコメント

80歳の区長が推した条例

カイカタ

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条例成立時点の区長は80歳の方でした。実をいうと、私はこの区長とある会合で同席をしたことがあります。条例成立の2年前でした。その時、地元国会議員と市民との集会の場に出席していました。その時に私が、アメリカでのゲイの体験談を語り、アメリカ人は自分がゲイでなくても、自らの権利擁護のため他の権利を侵害しないことを信条としているから、そのために同性婚に賛同すると語りかけました。そして、その場にいた夫婦別姓に向けた訴訟を準備していた活動家の女性も、その考えに理解を示し、区長も、これからは夫婦別姓やゲイなど様々な家族観を尊重すべき時代ではないかと意見を述べていたことを思い出します。年老いているから保守的で頑固とは限らないのですね。現区長はもとより前区長に畏敬の念を表したいです。

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