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泌尿器科医・小堀善友の新オトコのコト

妊娠・育児・性の悩み

男性不妊症…検査を受けない理由

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 9月中旬、秋の気配がし始めた軽井沢で日本受精着床学会が開催されました。不妊治療に携わるドクター、ナース、エンブリオロジスト( (はい) 培養士)が、患者さんの妊娠する割合を上昇するために行っている独自の研究について発表し、議論しあう貴重な機会です。

 私はその中で、この「新オトコのコト」でも紹介しました「 スマートフォンによる精液検査 」について発表してきました。

 その発表に関わる話なのですが、横浜市立大学の湯村寧先生が中心となって昨年、「我が国における男性不妊に対する検査・治療に関する調査研究」について全国調査が行われました。そのデータをお借りして、現在の男性不妊症に関する情報を共有していただきたいと思います。

射精障害の患者も増加

 まず、図1をご覧になってください。2014年に国内の男性不妊症外来を受診した患者7253人の疾患別内訳が示されています。1996年と比較すると、性機能障害の患者割合が増加していることがわかります。

男性不妊症…検査を受けない理由

 これは、勃起障害だけでなく、射精障害の患者も増加していることがわかります。我々の施設でも、男性不妊外来にてマスターベーションでは射精できるにもかかわらず、 (ちつ) 内で射精できない重度の遅漏(膣内射精障害)が近年増加しています。

 ただ、原因の大部分は「造精機能障害」、つまり精子の数や運動が悪いという状態であり、精液検査をしなければ診断できない状態であることがわかります。

 図2では、精巣因子で男性不妊症になっている人たちの原因についての結果です。半分は原因不明の「特発性」ですが、約3分の1は「精索静脈 (りゅう) 」であることがわかりました。

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 精索静脈瘤を手術した結果を評価したところ、約7割の人に効果があった(精液検査が改善した)ことがわかりました。男性不妊症の人たちの中にも、治療ができる群があることがわかります。

「パートナーに言い出せない」「時間がない」

 次は、図3をご覧ください。これは不妊治療中、治療経験者、もしくは不妊の不安をかかえる男女に対して、インターネットを用いたWebアンケートの結果の一部です。このように、不妊治療をしたり、不妊の不安を抱えていたりしているにもかかわらず、精液検査を受けたことがない人がいることがわかります。

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 この人たちは、なぜ精液検査を受けなかったのでしょうか?

 なぜ精液検査を受けなかったか、ということを調べた結果が図4になります。この回答の中に、「パートナーに言い出せない」という人が男性にも女性にもいることがわかります。

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 また、「婦人科や泌尿器科を受診し検査を受けることに抵抗がある」という人も多くいることがわかりました。「その他」の回答の中には、「時間がない」「お金がいくらかかるかわからないから不安で受診できない」といった回答も含まれていました。

 WHOの調査では、不妊症の48%は男性因子の問題が関わってきていることが知られています。男性の 妊孕性(にんようせい) を調べるには、精液検査は必須であるので、現在のように精液検査が受けられない人が多くいると、不妊治療の開始が遅れるために、治療の結果が悪くなってしまう可能性があります。

 そのため、私はより簡易な精液検査が可能となるシステムが必要であろうと考えています。

意識改革…まずスマホで自己観察

 現在、市販されている球体の「ボールレンズ」を使用することで、スマートフォンを使って精子を容易に観察することが可能になっています。不妊治療を専門としている医師や看護師、培養士にも、この道具に興味を持ってもらえました。ご興味のある方は、「メンズルーペ」で検索をしてみてください。

【参考】 http://dr-kobori.com/survey/

 精液検査を受けることができない人は、まずは自分で精子を観察してみることをお勧めします。そして、精子の状態が悪いと思われた方は、できるだけ早くに専門の治療機関を受診してください。

 早期の精液検査は、必ず妊娠につながる可能性を上昇させると信じています。そして、男性から自分の精子の状態を調べて、積極的に不妊治療へ参加していく世の中になっていくことを期待しています。

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小堀善友(こぼり・よしとも)

泌尿器科医 埼玉県生まれ

2001年金沢大学医学部卒、09年より獨協医科大学越谷病院泌尿器科勤務。14年9月から16年3月まで米国イリノイ大学シカゴ校に招請研究員として留学。専門分野は男性不妊症、勃起・射精障害、性感染症。ホームページは「Dr.小堀の男の妊活ガイド」。略歴の詳細はこちら

主な著書に『泌尿器科医が教えるオトコの「性」活習慣病』(中公新書ラクレ)。

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