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突然発症、1型糖尿病…「自転車のプロ」12歳の夢
「患者だけのチーム」に胸躍らせ
1型糖尿病 の選手だけが所属する自転車ロードレースのプロチームがアメリカにある。「チームノボノルディスク」だ。チームの理念は「糖尿病になっても夢をあきらめない」。10月下旬に宇都宮市で開かれたアジア最大のロードレース「ジャパンカップ」に出場し、同じ病の自転車少年の前で、その理念を実現した。
神奈川県逗子市の中学1年生、大原 慎人 君(12)はレース前日、チーム代表のフィル・サザーランドさん(34)と共に約10キロのコースを走った。2人とも1型糖尿病の患者だ。
慎人君は10歳で階段を上るのにも苦労するようになり、病気が分かった。毎食前にインスリン注射で血糖値を調整する方法を学ぶ中、「もうみんなと同じ生活はできないのかな」と落ち込んだ。トライアスロンが趣味の父、寛昭さん(38)から患者だけの自転車プロチームがあると教えられ、2014年の同レースを観戦に行き、チームと交流が始まった。
アメリカ人のサザーランドさんは生後7か月で発症。12歳で自転車競技を始め、「途中で力が出なくなるなど数々の失敗を重ねた」が、インスリンの使い方を試行錯誤しながら、アマチュア選手として活躍した。23歳で前身のチームを設立。「糖尿病患者がプロとして成功できるわけがない」と言われながら、12年には世界初の患者だけのチームを作った。
チームは、世界の15~18歳の患者から選手をスカウトするキャンプを開いている。今春から本格的に自転車競技を始めた慎人君はキャンプに参加し、チームのプロ選手になるのが目標だ。今は週約7時間練習する。「練習距離を伸ばして絶対強くなる。英語も勉強しないと」と話す。
スペイン出身でチームのエース、ハビエル・メヒヤス選手(33)の発症は15歳。血糖のコントロール法を学ぶと、「病気で自転車ができなくなるとは考えなかった。普通の人より健康に気をつければいいだけだと思った」と振り返る。レース前に血糖値を測り、インスリンを打ってから自分に合った食事量を取る。レース中に低血糖にならないよう、こまめに補給食を取るが、これは普通の選手でも同じだ。
サザーランドさんもメヒヤス選手も「糖尿病の選手と普通の選手に、運動能力の違いはない」と口をそろえる。目標はインスリン発見から100年の節目となる21年に、世界最大のレース「ツール・ド・フランス」に出場することだ。
メヒヤス選手は宇都宮でのレース当日、厳しい上り坂を軽々と駆け上がり、最終盤まで先頭集団に残った。144キロを走りきり、ゴール前でリオデジャネイロ五輪自転車男子ロード日本代表の新城幸也選手に競り勝って8位に入賞した。「チームのメンバーが助けてくれて良い結果を残せた。来年は表彰台を目指したい」と笑顔を見せた。
ジャパンカップでのチーム過去最高成績に慎人君は大興奮し、「勇気をもらった。自分も病気の人たちを励ます選手になりたい」と語った。
1型糖尿病 血糖値を下げるインスリンが 膵臓 から分泌されなくなり、のどの渇き、体重減少など様々な問題が起こる。生活習慣の問題で起こる2型と違い、突然発症する。厚生労働省の調査では患者約320万人のうち、1型は1~数%とみられる。食事前のインスリン注射などで血糖値調整が欠かせない。(石塚人生 写真も)
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