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医療・健康・介護のコラム

心房細動の新外科治療で「抗凝固薬やめられる」

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心房細動の新外科治療で「抗凝固薬やめられる」

大塚さんとウォルフさん(都内のホテルで)

 1年前に「 心臓切断!?でも大丈夫…人体の不思議 」を書きました。都立多摩総合医療センター心臓血管外科部長の大塚俊哉さんが取り組んでいる心房細動の新しい外科治療の話です。先日、その基になった治療法を開発した米・テキサス大学重症心不全センター心房細動外科部門教授のランダール・ウォルフさんが来日した際、お話を聞きました。

 心房細動は、心臓の一部である心房が細かく震える不整脈の一種。最も怖いのが、心房内で血流がよどんで血栓ができ、脳に飛んで脳梗塞を起こすことです。命にかかわりますし、重い後遺症が残ることも多いからです。その予防のため、通常、血液をかたまりにくくする抗凝固薬を服用します。従来はワーファリンという薬が中心で、食事制限があったり、処方量の調整が難しかったりと欠点がありましたが、近年、そうした問題を改善した新しい薬が次々と登場し、急速に普及してきています。

 そうした状況は日本も米国も同じですが、抗凝固薬を飲んでも脳梗塞が完全に防げるわけではなく、副作用で出血が起きやすくなります。ウォルフさんは「心房細胞の怖さは過小に評価されている。抗凝固薬さえ飲ませておけばいいということでなく、もっと積極的な治療を考えるべきだと思う」と主張します。最近、たとえ脳梗塞にならなかったとしても、心房細動が認知症やうつ病を合併しやすいことも分かってきたそうです。心房細動は心臓の病気ですが、同時に「脳の病気」とも言えるのです。

 ウォルフさんや大塚さんが行っている手術では、心房細動の原因となる電気信号が出ている部分を焼く「アブレーション」に加え、血栓ができやすい「左心耳」という心房の一部を切除するのが最大の特徴です。左心耳と血栓の関係は以前から知られていましたが、安全かつ確実に左心耳を切る手術方法を開発したのがウォルフさん。「10年余りで1500人以上に実施しました。アブレーションをしても心房細動が再発することはありますが、左心耳を切ることで脳梗塞はほぼ100%予防できており、抗凝固薬は一生不要になります。万一、脳梗塞になった場合の医療費なども考えると、1回で済む私の方法が抗凝固薬より費用対効果も優れている」と自身の治療法のメリットを強調します。

 このウォルフさんの方法を改良して日本に導入したのが大塚さん。ウォルフさんの方法は少し胸を切り開きますが、大塚さんは患者の体への負担をさらに減らすため、すべて内視鏡下で行う方法を開発しました。これまで600人以上に行い、ウォルフさん同様、良い治療成績を収めています。とはいえ、こうした治療法はまだ知る人ぞ知るという状況で、すべての心房細動の患者が適応になるわけでもありません。ウォルフさんは「薬物療法を行っている医師は、私の治療法を知らなかったり、知っていても興味を示さなかったりすることが多い」と言います。それでも、ウォルフさんのもとには世界中から、大塚さんのもとにも日本全国から、この治療法を知った患者がやってくるそうです。

 今後の課題はウォルフさんも大塚さんも、同じ治療をできる医師を増やすこと。見よう見まねでできる治療ではないので、信頼できる外科医に少しずつ広めていきたいということです。ウォルフさんは米国のほか、スペインにも治療の拠点を設けていますが、「将来は大塚さんと協力してアジアをカバーする心房細動の治療拠点も作りたい。また日米共同研究として、たとえば左心耳切除組織を利用した遺伝学的なリサーチも考えている」と展望を語っていました。遺伝的に心房細動になりやすい人が事前に分かれば、効果的な予防策や早期治療につながりそうです。

藤田勝

2008年から医療部。終末期医療、大腸がん、皮膚疾患、耳・鼻の病気などを取材。アホウドリとアムールトラが好き。

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医療部発12最終300-300

読売新聞東京本社編集局 医療部

1997年に、医療分野を専門に取材する部署としてスタート。2013年4月に部の名称が「医療情報部」から「医療部」に変りました。長期連載「医療ルネサンス」の反響などについて、医療部の記者が交替で執筆します。

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