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QOD 生と死を問う 第3部

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[QOD 生と死を問う]意思決定(4)「看取り」医師と語り合う

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医療と考える「死に方」

[QOD 生と死を問う]意思決定(4)「看取り」医師と語り合う

住民研修会で、一人暮らしの高齢者の支援について参加者と語り合う石野医師(中央)=9月、京都府伊根町で

 「人生の終わりをどこでどのように迎えるのか」――。一人暮らしや夫婦だけの高齢者世帯が増えており、関心も高いが、医療や介護などの知識が不十分で、不安を抱く人も少なくない。高齢化が進む京都府伊根町では、地域の医師らが住民研修会を開き、人の死や 看取みと りの時期について語り合い、高齢者本人の終末期の意思決定を支えている。

  ■「住み慣れた家で」

 京都府北部の丹後半島にある伊根町は、人口約2200人で、65歳以上の高齢化率は44%。この町の公民館で9月に開かれた「伊根で生きて、伊根で逝く」と題した研修会には高齢者を中心に28人が集まった。

 まず講演したのは、石野 秀岳ひでたか 医師(42)。町内の診療所長で、顔見知りが多く、和やかな雰囲気で語りかけた。「高齢者が死ぬのは、三つパターンがあるといわれる。一つはがんで、比較的早く死に至る。もう一つは心臓や腎臓、肺の病気で、入退院を繰り返すうちに弱っていく。そして認知症や老衰は、何年もかかってゆっくり死へ向かう」と話した。

 石野医師はさらに、町内に病院がないことに触れ、「もし『家で死にたい』というなら、家で看取ってあげたい。まず自分がどうしたいかを考え、家族や周りの人に話してほしい」と話した。次いで、訪問看護師が、老衰やがんの人を自宅で看護した経験を話し、「私たちにもお手伝いさせて」と続けた。

 参加した向井令子さん(80)は夫(87)と2人暮らし。介護が必要になった時を考えると不安といい、遠く離れた娘の所への引っ越しを漠然と考えていたという。研修会後に、「住み慣れた家で過ごしたいね」と、夫と話し合うようになり、2人で町が作成したエンディングノートを書いた。

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  ■「自宅で最期」増加

 町が研修会を始めたのは2014年。「町民と一緒に医療や介護の問題を考えたい」というのが理由で、これまでに400人以上が参加した。

 初めての研修会で「どこで最期を迎えたいか」とアンケートすると、67%が「自宅」と答えた。一方、自身の介護や看取りについて、「とても不安」という人は65%に上り、「本当に家で死ねるのか」「子どもは遠くにいて、看てはくれない」との声が寄せられた。

 13年4月に赴任した石野医師は、アンケート結果を踏まえ、研修会での講話のほか、自宅への訪問診療や往診にも積極的に取り組んでいる。結果は徐々に表れ、自宅で最期を迎えた人は14年は2人(全体の5%)だったが、今年は1~8月だけで12人(同33%)に増えている。

 石野医師は「医療は『治し方』を考えてきたが、これからは『生き方』や『死に方』を一緒に考えることも必要だ」と強調した。

  ■住民も支え手

 町では約260人が要介護認定を受け、一人暮らしや高齢者だけの世帯も多い。一方、石野医師を除き医師は非常勤3人、訪問看護師3人、ケアマネジャー4人、ホームヘルパーは15人程度と、専門職だけでの介護には限界がある。

 そこで、研修会では、一人暮らしの高齢者を主人公にした寸劇を見てもらい、困っていることや、その解決法を考えるワークショップも実施している。町民からは「ゴミ出しを手伝ってはどうか」など助け合いの方法を提案してもらう。

 町地域包括支援センター管理者の梅崎智実さん(54)は、「伊根町を最期まで安心して暮らせる町にするには、住民一人ひとりが支え手になる必要がある」と話した。

病院から在宅へ転換

 医療関係者らが地域に出向き、「最期をどう迎えるか」の心構えについてアドバイスする動きは全国で広がっている。

 兵庫県のたつの市民病院は今年から、町内会などへの出前講座で、在宅医療や看取りについて分かりやすく説明する活動を始めた。

 「団塊の世代」が75歳以上になる2025年が近づき、医療費は増え続ける見込みだ。国は療養の場を病院から自宅や介護施設へ替えようとしているが、市民の間では、「病院で最期まで看てもらえる」という考えが一般的。医療関係者は、市民との認識のギャップを感じ、危機感を抱いている。

 同病院地域連携課の北川智恵子課長は、「これから医療がどう変わっていくのか。それを伝えるのも病院の役割では」と話す。

 厚生労働省の調査では、昨年8月時点で、全国の市町村の約3割が在宅医療などについての啓発活動に取り組んでいる。

 ◎QOD=Quality of Death(Dying) 「死の質」の意味。

 (手嶋由梨)

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