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医療部発

コラム

「マインドフルネス認知療法」開発者へのインタビュー

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 最近、テレビ番組や書籍でも目にすることが増えた「マインドフルネス」。ごく簡単に説明すると、 瞑想めいそう によって心を上手にコントロールできるようになる「心の鍛錬法」です。

 マインドフルネスはその効果が認められ、医療、教育、社員研修、スポーツ、刑務所など様々な分野で導入されるようになりました。このうち医療分野では、「マインドフルネス認知療法(MINDFULNESS-BASED COGNITIVE THERAPY=MBCT)」が開発され、うつ病の再発予防に効果があることが科学的に証明されています。

 このMBCTを開発した一人が、マーク・ウィリアムズ博士(オックスフォード大学臨床心理学名誉教授)です。今年7月には、日本マインドフルネス学会の招聘しょうへいで来日し、都内で講演を行いました。私はこの講演の後、別室でインタビューする機会を30分弱与えられましたので、今回はその内容をご紹介したいと思います。(医療部長 山口博弥)

「マインドフルネス認知療法」開発者へのインタビュー

講演するウィリアムズ博士

 それにしても、「講演は7月なのに、なぜ今ごろ?」と思われる方もいらっしゃるでしょうね。

 ごめんなさい! 日々の忙しさにかまけて、書くのをすっかり失念しておりました。

 私たち新聞記者は、締め切りに間に合うように原稿を書く習性がありますが、特に締め切りのない原稿については、ついつい後回しにしてしまう……などと、職業のせいにしようともくろむのは見苦しいですね。「あさって書こう」「ま、来週でいいか」と先延ばしにしているうちに、忘れてしまいました。すみません。

 今週の土日(11月5日と6日)、日本マインドフルネス学会の第3回大会(大会長=熊野宏昭・早稲田大学人間科学学術院教授)が東京・西早稲田の早稲田大学国際会議場で開かれます。私も行きますが、この大会に参加される方々の気分を盛り上げるためにも、いま書かなければ!と思い立った次第です。

 前置きはこのぐらいにして、インタビューの内容をこれからQ&A方式で紹介しましょう。

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インタビューに答えるウィリアムズ博士

Q・ウィリアムズ先生は、瞑想はどのぐらいの頻度で行っているのでしょうか。

A・原則、毎日行っています。1回30分から40分ぐらい。たまにできない日もありますが、できなければそれでもかまわない。自分を責めたりしないようにしています。瞑想を始めたころは、まるで神様の訓戒のように「毎日やらなければ」と厳しく考えていましたが、瞑想をそのようにとらえてしまうと、自分の栄養になりません。

Q・瞑想はいつから始めたのですか。

A・1992年か1993年からです。

Q・瞑想を続けて、どのような変化がありましたか。

A・その問いは、私の妻に聞いてもらった方が正しい答えが得られるかもしれません。自分では「素晴らしい」と思っていても、彼女はそう考えないかもしれない(笑)。

 そうですね……。どう変わったか、一つ言えるのは、「自分にはもっと時間があるんだ」と感じるようになりました。私ぐらいの年齢になると、普通は人生の時間が過ぎるのがとても早く感じられます。しかし私の場合、時間のペースがゆったりとしてきた感じがあります。おそらく瞑想を続けたおかげで、一日の中の瞬間瞬間に気づくようになったからだと思います。この変化はとても素晴らしい驚きでした。瞑想によって得られたプレゼントだと思っています。

 そう言えば、私がどう変わったか、ある人が妻に質問した時、妻は「人の話をよく聞くようになった」と言っていましたね。自分ではその変化に気づいていなかったのですが。

Q・私は、2009年ごろにマインドフルネスのことを知り、取材して時々記事にするようになりました。瞑想はたまにしかやっていないのですが、マインドフルネスの考え方を知るだけで、怒りやネガティブな感情をコントロールできるようになり、生きるのが楽になった気がします。そこで、あえて極端な質問をしますが、瞑想は必ずしも行わなくてもいいのではありませんか。

A・今の質問には、とても大切なことが含まれています。たしかに、瞑想は役に立つけど、必ずしもやらなくてもいい。ある意味、やらなければならないことが少なければ少ないほど、役に立つとも言えるわけです。好奇心を持って発見する感覚を大事にする。そういった瞬間を少しずつ持てればいい。

 瞑想は、短くても、途切れ途切れでもいいんです。たとえば、1週間のうち5日間は短い瞑想を行い、週末の2日間は長くやってもいい。一つ言えるのは、瞑想は慣れてくると、短い時間でも十分にできるようになります。例えて言えば、同じパートナーと長年暮らしていると、笑顔だけでお互いのことが理解できるようなものです。

 マインドフルネスは、優しさと思いやりを持って続けることが大切で、そうでないと、練習自体が「やらなくてはいけない必須のもの」になってしまいます。もちろん、持続性がなくて優しさだけだと、「今日はもうやらなくていいや」となってしまう危険性はありますが、100%やろうとは考えないことです。「20%でいいからやろう」と考え、とりあえずやってみることが大事です。

 机に向かって、休憩する時に数分間やってもいい。Eメールの送信ボタンをクリックした後に一呼吸でもいい。一日の中で、短い時間を見つけて何回もやる、という方法でいいのです。

Q・マインドフルネス認知療法のプログラムの中に、「3分間呼吸空間法」があります。(1)まず、心に浮かんでいる思考や感情、体の感覚に気づく(2)次に、呼吸に意識を集中させる(3)最後に、呼吸に気づきを向けながら、体全身の感覚にまで気づきを広げていく――という、この短い練習は、忙しい人たちにはとても効果的な瞑想法だと思います。この3段階のプロセスにした理由を教えていただけますか。

A・本来は、「呼吸しましょう」だけで良かったのかもしれませんが、それは危険性を伴う、と考えました。ストレスがある時、人は物の見方・感じ方の焦点が狭くなってしまいます(筆者注:うつ状態に陥りやすい人は、柔軟な物の見方・考え方ができずに、「自分はダメな人間だ」「私はみんなから嫌われている」などと、狭く偏った考え方をしてしまう傾向があります)。そんな時に、呼吸に意識をフォーカスさせるのはよくありません。焦点を当てる対象が変わっただけで、狭いフォーカスの仕方は変わらないからです。

 そこで、まずは、そこにあるもの(思考や感情、感覚)を、あるがままに受け入れる練習をするのです。人によっては、目の前にあるものに圧倒されるかもしれませんが、まずは、心と体をオープンに見つめることが大事です。これにより、自分の経験に対する立ち位置や物の見方が変わってきます。

 そして第2ステップでは、呼吸に狭くフォーカスすることで、より落ち着いて、安定することができます。

 最後の第3ステップは、日常生活に戻るためにあります。様々なことに対応できるように、再びオープンになって全体に気づきを広げていくのです。

Q・日本では自殺者数が多く、自殺予防対策は重要な課題になっています。マインドフルネス認知療法による自殺予防のエビデンス(科学的根拠)はあるのでしょうか。

A・効果を検証するには大規模な(比較)試験を行わなければなりませんが、そのためには症例数が必要です。現実的にはこうした試験はできず、したがってエビデンスはありません。

 ただ、自殺の8割は、うつの症状が表れている時に起きます。うつを防ぐことができれば、それによって自殺率を下げることができます。マインドフルネス認知療法を受けることで、うつ気分になった時に、うつ気分そのものによって自殺念慮は起こらない、ということが分かっています。うつ、やるせなさ、ネガティブな思考、自殺念慮といった思考のリンクが断ち切られるのです。

 マーシャ・リネハンが開発した弁証法的行動療法(筆者注:認知行動療法の一つで、パーソナリティー障害などの治療で使われている)は、自傷行為や自殺念慮を減らすことが分かっていますが、この治療法の中でも、マインドフルネスは重要な要素になっています。

Q・自殺予防のために行うマインドフルネス認知療法は、標準的なものと違いはあるのでしょうか。

A・似ていますが、自殺予防に使う場合は、ヨガの部分が増えます。自殺念慮がある人は、体を動かした方がいいからです。それ以外はほとんど同じです。

 また、自殺念慮がある人は、自殺するイメージを浮かべることが多い。こうした人たちは、自殺することをイメージとして描くことで快感を得ており、同時に苦しんでいます。頭の中の自殺の画像を止めることができないのです。

 ちょうどPTSD(心的外傷後ストレス障害)の患者に起こるフラッシュバックに似ていますが、自殺念慮がある人の場合、私たちは「フラッシュフォワード」と呼んでいます。

 しかし、こうした人たちの多くは、そのことを恥ずかしく思い、第三者に話そうとはしません。このため、頭の中でどういうことが起こっているのかについて、治療者はよく認識していないといけないのです。

 インタビューは以上です。

 ウィリアムズ博士は、さすが20年以上瞑想を実践している方だけあって、私のぶしつけな質問に対しても、終始おだやかな表情で答えてくださいました。頭脳の明晰めいせきさはもちろん、誠実さとユーモアも兼ね備え、とても魅力的な人でした。本当にありがとうございました。

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インタビュー風景(石井康智・早稲田大学教授撮影)

 私は博士の言葉を受け、あれ以来、毎朝たった5分ではありますが、瞑想をするようになりました。たまにできない日もありますが、今も何とか続けています。

 最後に、今年発売された本の中から、マインドフルネスについて参考になる書籍を紹介しましょう。

 自分でできるマインドフルネス 安らぎへと導かれる8週間のプログラム(マーク・ウィリアムズ、ダニー・ペンマン著、創元社)

 実践!マインドフルネス 今この瞬間に気づき青空を感じるレッスン(熊野宏昭著、サンガ)

 マインドフルネスの教科書 この1冊ですべてがわかる!(藤井英雄著、Clover出版)

 スタンフォード大学 マインドフルネス教室(スティーヴン・マーフィ重松著、講談社)

 「今、ここ」に意識を集中する練習 心を強く、やわらかくする「マインドフルネス」入門(ジャン・チョーズン・ベイズ著、日本実業出版社)

山口 博弥(やまぐち・ひろや) 読売新聞東京本社医療部長

【略歴】

山口 博弥(やまぐち・ひろや) 読売新聞東京本社医療部長

1962年福岡市出身。1987年読売新聞社入社。岐阜支局、地方部内信課、社会部、富山支局、医療部、同部次長、盛岡支局長を経て、2016年4月から現職。医療部では胃がん、小児医療、精神医療、痛み治療、高齢者の健康法などを取材。趣味は武道と瞑想めいそう。飲み歩くことが増え、健康診断を受けるのが少し怖い今日このごろです。

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医療部発12最終300-300

読売新聞東京本社編集局 医療部

1997年に、医療分野を専門に取材する部署としてスタート。2013年4月に部の名称が「医療情報部」から「医療部」に変りました。長期連載「医療ルネサンス」の反響などについて、医療部の記者が交替で執筆します。

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