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命に関わるストレス、「『考え』のコントロール」で解消…精神科医が解説
◆「考え」をコントロールする方法
では、どうすれば良いのか? 人は様々な体験をしますが、実は同じ出来事でも、人によって感じ方や行動は違います。それは出来事の判断が違うからで、これをうまくコントロールできれば、気持ちや行動のコントロールも可能になります。
私の専門は認知行動療法です。認知とは判断であり、ある瞬間に頭に浮かんだ考えやイメージ、記憶などに目を向け、もう一度出来事を見つめ直すと、ほどほどのストレスに持っていきやすくなります。くよくよ悪い方に考えず、その時パッと自分が何を考えるかです。人はマイナスに考えやすいのですが、自分を守るため、まずマイナスではないと考え、現実を見る必要がある。そうできれば気持ちは楽になってきます。
例えば、1人で部屋にいる時に外で物音がした。ふつう最初に考えるのは、何か悪いことではないかということで、確認して友達だったり、ただの風だったりして安心します。悪いことが起きた可能性もありますが、それに応じた対応をするのが自然な心の動きです。ところがストレスを感じやすくなっていると、周りは危険だらけと考えてしまいます。どうしてもマイナスに引っ張られた考えになりやすく、それが気持ちや行動にも影響してくるのです。
街の声を聞いてみると、例えば70歳代のパート女性は、「夫と死別して一人暮らしになり、この先どうなるか不安で眠れない」。30歳代の主婦は、「夫に育児の手伝いを頼んだら、俺も疲れていると言われてイライラした」。20歳代の会社員の方は、「上司から叱責されて落ち込んだ」という声があります。
図6の真ん中の部分が重要になります。確かに一人暮らしになり、一人ぼっちというのは自然な考えですが、実は家で一人ぼっちでも、サークルや地域の活動があればそうとは言い切れません。一人ぼっちと考えると心配で眠れなくなりますが、実はそうではない状況を同時に考えることができれば、気持ちが楽になります。
同様に、「育児を手伝って」と言ったら「俺も疲れている」と返されたら、イライラするのは自然な感情です。ただ、冷静に考えると、時には手伝ってくれることもあるはずで、それが見えてくると気持ちは和らぎます。失敗して叱られた時、「だめな自分だ」と感じるのも間違ってはいませんが、そこばかりにフォーカスすると、できる自分を見落としてしまいます。考えていることは間違いではないが、焦点を当て過ぎるとそれしか見えなくなり、良い部分が見えなくなって辛(つら)くなるのです。
要するに、普段はできている考え方が、ストレスを感じていると悲観的になってしまう。ふだんからそう考えがちな人もいますが、一概に否定するのではなく、そう考えながらも、どう生かしていくかが大事です。いろんな人がいてこそ、様々なグループが成り立つ。例えば骨折した時、落ち込むことはやむを得ませんが、同時に「これからは注意しよう」と教訓にする両面が必要です。
これはある種のスキルのようなもので、私たちが本来持っている心の技術です。元気な時にはそれが普通にできますが、ストレスを感じるとうまくいかなくなる。そこで、ちょっと思い出してスキルを使うと、うまくいくのではないでしょうか。自分はこんな考え方しかできないと思わずに、誰でも持つスキルをトレーニングすれば良いのです。
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