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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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信用できる? 野球中継と病院ランキングの意外な共通点

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 日本の野球は日本ハム・ファイターズが頂点に立って終わりました。第6戦に広島が勝って、翌第7戦で黒田博樹投手と大谷翔平投手の投げ合いを夢見ていましたが、それは幻に終わりました。

 娘が突然に、「野球を見たい」と言い出したので、開幕戦のチケットを手に入れ、そして野球観戦にハマった1年間でした。娘のお陰で良い思いをさせてもらいました。去年までは日本の野球にはまったく興味はありませんでした。朝に原稿を書きながら、メジャーリーグを英語の音声で楽しむのが僕のちょっとした趣味でした。

 イグ・ノーベル賞を頂いた2013年9月、ハーバード大学での授賞式とマサチューセッツ工科大学での講演会の間に空いた日があり、フェンウェイパークでボストン・レッドソックスとニューヨーク・ヤンキースの試合を見たのもついこの前のようです。僕は運が良いので、また運が良いと思うようにして生きているのですが、その日は黒田博樹投手が先発で、イチローがライトを守り、田澤純一投手と上原浩治投手が投げて、ボストン・レッドソックスが勝利という試合でした。ライトのブルペンに接したシートでしたので、投球練習中の黒田博樹投手に娘がサインをお願いしましたが、試合直前でそれはかないませんでした。

「データ主義」と「解説者の意見」

 この1年間、野球は面白かったですね。東京ドームに何回か通いました。最初は読売ジャイアンツも首位を走っていました。その後は多くの野球評論家が予想もしなかった赤ヘル軍団、広島カープの“ぶっちぎり優勝”でした。一方、10ゲーム差以上をつけて独走していた福岡ソフトバンク・ホークスに日本ハム・ファイターズが追いつき、最後に追い越したのは驚きでした。野球が気になると、忙しい合間にも、ラジオを聴いたり、テレビをちょっと見たりと、野球が頭から離れない7か月間でした。楽しい思いも、たくさんしました。

 さて、野球のテレビやラジオ番組で解説を聴いていて思うことは、アメリカは淡々と実況中継をします。基本的にアナウンサーが的確な実況をして、解説者はあまり (しゃべ) りません。また臆測で物を言うことは少ないと思っています。一方で日本のテレビやラジオの中継は、実況中継をしているというよりも、解説者がたくさん喋ります。そして全員ではありませんが、多くの解説者は、論理的に話すのではなく、自分の経験からいろいろなことを話してくれます。それは、ある時は合っているのでしょうが、「本当にそうなの」と思うこともあります。「ただの、あなたの意見じゃないの」といった感じです。

 一方でアメリカはデータ主義です。日本の何倍ものデータが実況中継中にも、また新聞やネットにも登場します。個人の推測をあまり入れずに現状と今までのデータを説明して、そして後は視聴者がそれらを総合して考えるという文化です。そんな立ち位置で野球を楽しむアメリカスタイルと、解説者が複数いて、それぞれがいろいろな意見を言って、それに対して、「確かにそうかな」、「いや、違うんじゃないの?」といったことを楽しむ日本のスタイルに思えます。

 僕は日本的な解説は耳障りで、むしろ嫌いなので、野球場の音声だけを選べるときは、そちらを選んで、アナウンサーや解説者の音声は外しています。これは僕にはとても気持ちいいテレビ観戦方法なのです。

「ランキング」にも限界が…

 さて、病院ランキングも僕には同じように思えます。ネットで「病院 ランキング」とでも入力して下さい。たくさんのサイトがあります。10個もザッピングしてください。いろいろな分野で、そして総合力で病院がランク付けされています。しかし、そのランキングの基本となるデータはあまり多くはありません。ランキングもサイトによってまちまちです。そしてどのようにしてランキングを決めているのかも実は判然としません。

 一方、ネットで「hospital ranking」とでも入力してください。アメリカの病院ランキングが見られます。こちらも10個ぐらいザッピングしてください。通常は部門別になっていて、総合スコアに続いて、いろいろな数字が登場します。患者数、入院死亡数、再入院率、患者の安全、看護師の評価、先端技術、評判などなどです。またそこをクリックすると詳細なデータが出てきます。そしてどうやってランキングをしているかも詳細に記載されています。多くのデータに基づいて、その道の専門家が評価しています。最後はある程度の主観が入るのでしょうが、データをまず集めて、そこから結論を構築するという作戦です。

 自分や家族が病気の治療をお願いする上で、ランキングが上位の病院が本当にその人にとって良いかどうかは実はわかりません。治療をする「器」の総合評価であって、実際に入院するときは、その病院のある部門の、ある病棟で、そして主治医がいて、そのチームがあります。そこまでの評価は、どんなに詳細に行おうとしても無理なのです。最後は自分を診てくれる医師と医療チームの能力と、彼らとの相性ということになるのです。

医療の向上をめざして…

 病院がランク付けされることはとてもいいと思っています。病院の経営者がよりよい病院を目指すからです。そのためにも、できればいろいろな視点から評価されるといいと思います。それを改善するように経営者側が対処するからです。

 病院の大きさ、廊下の広さ、患者1人当たりの面積、共有スペースの広さ、患者数、病床利用率、医者・看護師・事務職員・パラメディカル・薬剤師などの数と質、そして彼らの平均勤続年数も有効な情報と思っています。自分が働きたい病院が通常は自分が診てもらいたい病院です。そんな病院ではなかなか職員は辞めません。手術数、手術時間、手術死亡数なども参考になるでしょう。電話の応対、訴訟の数、異常死報告の数、院内感染の頻度などなども参考になるでしょう。

 メディアの力で、さまざまな病院をランク付けして、そして病院がそのランキングを無視できない雰囲気をつくり、日本全体で医療の質が上がることがなにより大切と思っています。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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