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虹色百話~性的マイノリティーへの招待

医療・健康・介護のコラム

第61話 企業のLGBTへの取り組みを評価し、表彰する動きが開始

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あるゲイサラリーマンの思い出

第61話 企業のLGBTへの取り組みを評価し、表彰する動きが開始

 1990年代はじめ、日本でも性的マイノリティーの運動が勃興し、ゲイとしてのプライドをもち一生をゲイとしての自覚をもって暮らしていきたいと願った若者たちが、いろいろな活動を始めました。

 若かった私も、そのようなうねりのなかにいたわけです。

 あるとき、会社でのサバイバルを考える、みたいな会合に出た記憶があります。四半世紀もまえのことですから細かいことは忘却の彼方となりましたが、会社でのカミングアウトについてあるゲイの参加者が発言したことが妙に記憶に残っています。

 「人の3倍も5倍も働いて、あいつはデキるやつだという認知や実績が確立して、はじめて会社でカミングアウトできる。それができないなら、するべきじゃない」

 ゲイバーなど、はじめからそうだとわかるところならともかく、それ以外の場所で自分がゲイだと告げるなんて、まだまだありえない時代。とくに家族と会社は2大難関でした(今でもでしょうが)。しかし、自分らしく生きたいという思いが、会社でのカミングアウトへと目を向けさせたとき、出てきた答えが「人の3倍も5倍も働いて」だったのです。

 ゲイだということを「受け入れてもらう」ために、なんでそんなに「強大」になる必要があるのか。若い私たちは一斉に反発しましたが、たしか、入社数年だというその人は、頑として自説を撤回しようとはしませんでした。

 86年には男女雇用機会均等法が施行されましたが、そこに染み込んだ「女性は男並みに働いてこそ平等」という影のメッセージがフェミニストから批判されていました。おまけに女性は、家庭で家事・子育てなど無償労働を完璧にこなしたうえでなければ職業生活を持つことさえままならなかった。

 「男」でないものが労働者としての場所を得ようとすれば、「男」以上の働きを見せなければ認めてもらえない時代でした。女性もさることながら、若いゲイの労働者がゲイを表明するには「人の3倍」「実績を出して」という信念を抱いたのもむべなるかな、です。

LGBTが働きやすい職場作りへの指標を発表

 そんな古いことを思い出したのは、近年はむしろ会社の側が、「ゲイであること、性的マイノリティーであることをあなたの個性の一つとして尊重します。福利厚生においても平等な取り扱いに努めます」と変わってきたニュースに接し、いまさらながら時代の変遷を思わされたからです。

 企業において性的マイノリティーにかんするダイバーシティー・マネジメント(多様性を尊重する経営管理)の促進や定着に取り組む任意団体「work with Pride(以下、wwP)」は、2012年以来、企業向けセミナーを開催。5回目の今年は600人もの参加者が集まり、第一生命ホールで10月26日に開催されました。このセミナーでは毎年、基調講演や当事者の声、また各社の先進的な取り組みが報告され、人事やダイバーシティー担当者の好評を博しているとのことです。

  work with Pride ホームページ

 今年は従来の講演やシンポジウムに加え、性的マイノリティーが働きやすい職場環境作りへの取り組みを採点する「PRIDE指標」が発表されたことが注目されました。6月に指標を発表、応募のあった82企業・グループを審査して、53の企業・グループを最高の「ゴールド」と認定して表彰したことが、新聞や経済誌、ネットメディアで報じられています。

 wwPのホームページによれば指標は5項目からなり、「企業全体でこの課題に取り組む宣言をしているか」「社内に当事者が相談できる体制を整えているか」「啓発活動に取り組んでいるか」「人事や福利厚生で平等な取り扱いとなっているか」「社会への発信や外部との連携にも取り組んでいるか」などから構成されています。

 こうした指標の制定や表彰は海外ではすでにあり、 第59話 でも名前を紹介した米国のヒューマン・ライツ・キャンペーン(HRC)などが有名ですが、日本では初めてとのこと。公正・公平な観点から、企業内で性的マイノリティー当事者の働きやすさの改善に具体的に役立つものとなる指標を策定するには、多くの議論と時間が必要だったことと思います。また、今回はじめてにもかかわらず多くの企業等が応募をしたこと(そのなかには、日本を代表する企業も多数含まれています)は、wwPのこれまでの活動が信頼され、企業との確かなネットワークが形成されていることの証しでもあるでしょう。

 現在、採用時の対応も含めて、企業の側から社内の性的マイノリティーへ配慮や取り組みがなされるようになったことには、隔世の感があります。はじめに紹介したゲイサラリーマンの彼なら、なんと思うことでしょう。

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永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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1件 のコメント

当事者には負担になるかも

カイカタ

ある元在日コリアンの方で、現在、帰化をした人が言っていましたが、帰化する前に勤めていた会社を退職した時に、雇い主から「国籍のことがあるからもっと...

ある元在日コリアンの方で、現在、帰化をした人が言っていましたが、帰化する前に勤めていた会社を退職した時に、雇い主から「国籍のことがあるからもっと頑張ってくれると思っていた」と言われ、いい気分がしなかった経験があるということです。

なので、このようなことが、いいこととばかりといえないと思います。

ピンクウォッシュに関していえば、プライドイベントで沖縄の米軍新基地建設反対運動をしている人が、そのことで米大使館のブースに、ピンクウォッシュをしないで欲しいといういうメッセージを渡す試みをしていました。

難しいですね。

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