文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

知りたい!

ニュース・解説

臓器移植、伸び悩む日本…法施行来年20年

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

子から提供慎重 病院体制整わず

臓器移植、伸び悩む日本…法施行来年20年

 臓器移植の低迷が深刻だ。提供数の少なさは先進国の中で際立っており、今なお海外渡航を余儀なくされる人がいる。必要な臓器は自国内で確保するよう求める国際合意に国内の現実が追いつかない中、臓器の仲介を巡るトラブルも相次いだ。来年は臓器移植法施行20年を迎える。改善に向け、国民的な議論が必要だ。

 2012年に日本で初めて6歳未満の脳死臓器提供を手がけた富山大学病院で、ドナー(臓器提供者)となった男児の主治医の一人だった種市 尋宙ひろみち 医師は10月、東京や青森などで開かれた市民講座で訴えた。

 「日本の移植医療は大きな矛盾を抱えている」

 米国で心臓移植を受ける女児の渡航に付き添った経験もある種市医師。提供する側と受ける側の両方に立ち会った上での実感だ。

 体の小さい子どもの心臓移植では、子どものドナーからの提供が必要になる。10年7月に15歳未満の脳死臓器提供を可能とした改正臓器移植法が全面施行されたが、それ以降、15歳未満の提供は12件。日本心臓移植研究会によると、18歳未満の海外渡航移植は10年~16年6月で29件と、国内の提供数の倍になる。

 体への負担が大きい渡航移植は、重症患者にとって命がけだ。億単位の費用を募金で賄うことも関係して患者への中傷が問題になっている。

 種市医師は「必要な人がいる限り渡航移植もやむを得ない。ただ、渡航移植の募金には親身になれる人が多い日本で、なぜ国内での移植は進まないのか、こうした矛盾への疑問は消えない」と話す。

id=20161101-027-OYTEI50013,rev=2,headline=false,link=true,float=right,lineFeed=true

 そんな日本に各国が厳しい目を向けているのも事実だ。どの国にも臓器提供を待つ患者はいる。外国人が海外で臓器提供を受ければ、その国の患者の機会が減ることにつながる。国際移植学会は08年、移植が必要な患者の命は自国で救うという「イスタンブール宣言」を出したが、日本の現状は追いついていない。

 15年の人口100万人当たりのドナー数を見ると、日本は0.7人。最多のスペインは39.7人。主要国では、米28.5人、仏27.5人、英20.2人と、日本との格差は大きい。

 それでも10年以降、脳死臓器提供は徐々に増え、15年は58件と過去最多だった。ただ、例えば心臓の移植希望者は今年9月末で528人と、不足は明白だ。

 不透明な脳死判定が問題になった1968年の和田移植以来、移植医療への不信が根強い。脳死を人の死と認めるかを巡り議論になった経緯が、現状の低迷につながっている。

 臓器提供に関わる医師、看護師などの負担も問題になっている。厚生労働省の担当者は「費用増など経済的負担もあるが、心理的負担の方が大きい。特に子どもからの提供の場合、負担感が一層増す」と見る。

 嘆き悲しむ親に臓器提供を切り出しにくいという医療関係者が多い。また子どもは、虐待がなかった確認を必要とすることがハードルになっている。

 関東地方の総合病院では、これまでに2件、子どもの臓器提供の申し出があったが、実現しなかった。このうち1件は転落によるもので、警察は事故と認定したが、目撃者がいなかったため虐待の可能性が排除できないとして断念した。

 この病院の救命救急センター看護師長は「子どもの臓器提供は、一点の曇りもない状況でないと批判を受けるので、慎重にならざるをえない」と話す。

 成人も含め、提供体制の整っている病院はむしろ少数派だ。救命救急センターを持つ病院など臓器提供が可能とみられる862病院を厚労省が調査した結果、成人も子どもも「体制が整っている」としたのは28.4%に過ぎなかった。

 厚労省は、病院の体制整備費用を補助するなどの支援をしている。臓器をより公平に配分するため、子どもの腎臓や肝臓は、子どもに優先提供されるよう患者選定ルールも見直された。

 とはいえ、特効薬と言える対策はない。世界でも特異な現状を改善するには、国民の理解が欠かせない。現状の矛盾を知ってもらい、関心を高めることが大切だ。

  当事者以外でも幅広い議論必要

 生命倫理が専門の粟屋剛・岡山商科大教授の話「臓器移植は患者と医師だけで完結できない医療で、元々倫理的な課題を抱えている。移植の低迷は、死生観など日本人の精神性にも関連性があるとみられる。意識を変えてまで推進する必要があるかも含め、更なる幅広い議論が必要ではないか」

 <和田移植> 札幌医科大学で和田寿郎教授(当時)が1968年に行った国内初の脳死移植。心臓移植を受けた少年が死亡し、和田教授が殺人容疑で告発された。臓器提供者が本当に脳死状態だったのかが問われ、死の定義を巡って大論争となり、30年以上、脳死移植が行われない空白期間が続いた。

移植ネット、ミス相次ぐ

 臓器移植ではドナーと患者の仲介が重要な役割を果たす。国の委託を受け、臓器の橋渡しを行う日本臓器移植ネットワーク(本部・東京)の運営に問題が続いたことも、移植医療の安定に影を落としている。

 移植ネットは一昨年11月と昨年3月、腎臓の提供を巡り患者選定ミスを起こした。システムの問題などから移植を受けられたはずの人が受けられなかったという深刻な事態に、厚労省は業務の改善を指示。移植ネットは昨年12月に問題に関する報告書を提出した。

 そのさなかの昨年11月、肝臓提供の患者選定でもトラブルが起きていた。提供者の血液検査データから移植に適さない脂肪肝が疑われたため、待機者リスト上位の患者がいる病院が確認しようと検査画像を求めた。移植ネットのコーディネーターは「ない」として提供せず、この病院は移植を断念。この後、求められた画像はあり、脂肪肝ではなかったとわかった。肝臓は優先順位が下位の患者に移植されたが、画像が提供されていれば、より重症な患者が移植を受けられた可能性がある。移植ネットは「後から新情報が出てきても、辞退した医療機関に改めて意向を聞くことはない」と説明。「手続きミスはない」として事態を公表しなかった。

 移植医らからは「臓器の仲介は、患者の人生を大きく左右する。そのことへの意識が欠如しているから、問題が繰り返されるのではないか」と批判が出ている。実効性ある組織改革の達成が急務だ。

 (医療部・高梨ゆき子、佐々木栄)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

知りたい!の一覧を見る

最新記事