文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

知りたい!

ニュース・解説

がん免疫治療薬「オプジーボ」 なぜ高額?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

当初の想定患者数が影響

がん免疫治療薬「オプジーボ」 なぜ高額?

 がん免疫治療薬「オプジーボ」に代表される高額な薬に対し、安倍首相が値下げ策の検討を求めるなど、薬の適切な価格設定の方法について議論が活発化している。なぜ、薬剤は高額になるのだろうか。

 「早期に大胆な引き下げが必要」「50%以上下がってもしかるべきだ」。今月中旬に開かれた政府の経済財政諮問会議で、オプジーボの値下げを求める声が民間議員から相次いだ。安倍首相は高額な薬剤の価格設定について「対応策を具体化してほしい」と塩崎厚生労働相らに指示した。

 オプジーボは日本の小野薬品工業が開発した。2014年の皮膚がんに続き、15年12月に肺がんで保険適用された。肺がんの場合、体重60キロの患者が1年間使うと約3500万円かかる。年40兆円超の医療費をさらに増大させて公的医療保険に打撃を与える、と関係者の懸念は強い。

 新薬の価格は作用の似た薬と同じにするが、オプジーボのような全く新しいタイプの薬は、研究開発費や製造費などの経費に営業利益を加え、想定される使用患者数に応じた販売数量で割って算定する。患者数が多ければ安く、少なければ高くなる仕組みだ。

 近年、新薬の開発は非常に困難になり、研究開発費が高騰している。オプジーボは、抗体と呼ばれるたんぱく質を使った薬で製造費も高い。それに加え、14年に最初に保険適用されたのが、想定患者数が470人(ピーク時)と少ない皮膚がんだったため、薬価が非常に高額になった。

 それが、15年に肺がんの患者にも使えるようになった。想定患者数は約1万5000人と30倍以上に増えたが、薬価はそのままだったため、巨額の薬剤費が懸念されるようになった。

 今月上旬の中央社会保険医療協議会(厚労相の諮問機関)では、「肺がんで先に保険適用されていれば価格は低くなったのでは」との質問も出た。厚労省は明確な回答を避けるが、京都大学の柿原浩明教授(医療経済学)は「想定患者数が多ければ経費もかかり単純に30分の1にはならないが、少なくても数分の1になった」とみる。

 オプジーボは今年、腎臓がんで保険適用され、ホジキンリンパ腫で承認を申請している。また、胃、食道、肝臓などのがんで治験が行われている。

 これまでも、最初に患者が少ない難病を治療対象にして高い薬価で保険適用され、その後リウマチなど患者の多い病気に使える範囲を広げた薬はあった。

 東京大学の五十嵐 あたる 特任准教授(薬剤経済学)は「保険財政への影響が今回より小さかったこともあり、十分に議論されてこなかった」と指摘。医師、歯科医師らで作る全国保険医団体連合会は「保険適用の範囲を広げる薬に対応した価格設定のルールを作ってこなかった国の責任は重い」と批判する。

 オプジーボの薬価が高くなった要因には、皮肉にも、世界に先駆けて日本で最初に発売された点もある。革新的な効果が評価され、価格は高くなった。海外の価格を参照して、薬価を下げることもできなかった。

 同連合会によると、後から発売した英国が日本の5分の1、米国が5分の2の価格だ。柿原教授は「世界初の薬でも海外の価格が出そろった時点で調整する仕組みが必要だ」と訴える。

 政府は今年度、売上高が予想外に伸びて年1000億円を超えた「ヒット新薬」の価格を下げる制度を導入。高額な7種類の新薬で、効果に薬価が見合っているか分析を始めた。高い薬価を隔年の改定時期を待たずに下げる検討もする。

 相次ぐ値下げ策に、製薬業界からは「日本でどう収益をあげるのかの見通しが立ちにくい」(欧州製薬団体連合会)など反発の声が上がる。五十嵐准教授は「製薬会社の開発意欲をそがないよう、薬の価値も考慮して価格を決めるルール作りが重要」と話す。(米山粛彦)

 (2016年10月30日 読売新聞朝刊掲載)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

知りたい!の一覧を見る

最新記事