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QOD 生と死を問う 第3部

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[QOD 生と死を問う]意思決定(3)終末期、葛藤する家族

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「自宅でゆっくり」 「入院して長生きを」

[QOD 生と死を問う]意思決定(3)終末期、葛藤する家族

「これで良かったよね」。塚本さんは仏壇の前で思わず妻・公江さんに語りかける時があるという

 人生の最後の時期をどこで過ごし、どんな医療や介護を受けるかを決める際、本人よりも重視されがちなのが家族の意向だ。本人と異なる希望を持っていたり、家族間で意見が分かれたりすることも多い。葛藤を抱えつつ、決断した家族の思いを取材した。

 「妻は、口にはしなかったけど、病室ではつらそうで……。その姿に、私も切なくなりました」。千葉県松戸市の塚本悠策さん(81)は、2年前に亡くなった妻の公江さん(当時77歳)が、子どもたちの勧めで入院した時のことを振り返った。

 公江さんは、2013年秋に末期の脳腫瘍と分かり、余命6か月と宣告された。夫婦で「つらい延命治療は受けたくない」と話し合っていたため、残された時間を一緒に自宅で過ごしたいと考えた。だが、3人の子どもたちは「治療するのが当然。あきらめるなんてひどい」と、同年12月、公江さんを放射線治療で有名な病院に入院させた。

 病院では、治療の他にマッサージや歩行訓練もあり、周囲の人には「頑張って」と励まされる。「長生きが勝者だと言わんばかりで、それを押しつけられる妻の気持ちはどんなものか」。悠策さんは、ゆっくり休むこともできない妻の様子を見かねて、1か月もたたないうちに家に連れ帰った。

 自宅では、訪問診療の医師らの支えで、天気のよい日は車椅子で散歩し、春には満開の桜を一緒に眺めた。退院から半年、公江さんは、遊びに来ていた息子一家と悠策さんに見守られて、息を引き取った。

 「つらくても治療を続けるべきだったのかと思うこともありますが、家に戻ってからの妻は笑顔が増えました。子どもたちも母親のことを一生懸命考えてくれたんですが、私たち年寄りとは感覚が違っていたようです」と、悠策さんは話す。

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 離れて暮らす家族や親戚が、本人の希望に反して、積極的な治療を求めることは少なくない。

 昨年末、千葉県内の自宅で肝臓がんの父親(当時87歳)をみとった女性(58)は、亡くなる数日前に東京から見舞いに来た叔母が「なぜ入院させないの」「救急車を呼びなさい」と声を荒らげるのに困惑した。「父自身が『最期まで家で』と望んでいると説明しても納得せず、私たちが見殺しにしているかのように責められました」。この経験をインターネットに書き込むと、「私も同じ目に遭った」との声が寄せられたという。

 できる限りを尽くしてでも生きていてほしいと願う家族にも、迷いは残る。

 東京都八王子市の男性(71)は、認知症の母の症状が進み、ものが食べられなくなった際、胃に穴を開けて栄養剤を流し込む「胃ろう」の手術を受けることを決めた。「医師は『自然にしたらどうですか』と手術に賛成ではなかったが、重ねて頼んだ」と話す。

 母親は、男性が若い頃に事業に失敗した際、自宅を売って助けてくれた。「ダメな息子に文句一つ言わずいつも支えてくれた。せめて少しでも長生きしてもらうのが親孝行だと思った」

 介護施設に入ってからも毎日、面会して「100歳まで頑張ろうね」と語りかけた。今年7月、心肺停止で救急搬送された際も「何とか助けてください」と頼んだが、母は93歳で帰らぬ人となった。男性は、「大切な母親に一日でも長く生きていてほしいという一心だった。ただ、今になって、母が本当はどうしたかったのかと考えてしまうこともある」と打ち明ける。

「本人が決定」1割強

 厚生労働省の研究班が2013年、終末期のケアを主に誰が決めたのかを調査したところ、「家族」が最も多く、療養場所にかかわらず半数以上を占めた。療養場所が自宅の場合でも、本人が決めたのは1割強だった。

 終末期の医療などについて本人の意思表示の重要性を訴えている長寿社会開発センターの石黒秀喜理事は「家族だから、どんな選択をしても悩み、後悔の念を抱く」と指摘する。実際、親や配偶者が亡くなってから「自分の選択が命を縮めてしまったのではないか」などと思い悩んだ末、うつ病を発症してしまう人もいる。

 石黒さんは「家族に重荷を背負わせないことが、最後の子ども孝行、配偶者孝行だ。本人の意思表示があってこそ、『本人の希望がかなえられたのだから』と納得できる」と話している。

 ◎QOD=Quality of Death(Dying) 「死の質」の意味。

 (飯田祐子、大広悠子)

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