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在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活

医療・健康・介護のコラム

通院できなくても、安心して医療を受けるために

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私が所属するクリニックのスタッフとパチリ。中央が院長の村田幸生先生です

私が所属するクリニックのスタッフとパチリ。中央が院長の村田幸生先生です

 みなさんは「訪問診療」と「往診」の違いをご存じでしょうか。

 私は、在宅医療に関わる前は、お医者さんが家に来て診てくれるのはすべて「往診」だと思っていました。しかし、「在宅療養支援診療所」で勤務する中で、改めて在宅医療のしくみを学び、この「訪問診療」と「往診」の違いが理解できるようになりました。

 「訪問診療」は医師が訪問する日をあらかじめ患者さんに伝え、定期的に診察を行うことです。この「訪問診療」に加え「24時間対応」が現在の在宅医療の基本的な構成要素とされています(※1)。

 「往診」は、急性疾患に対して「患者さんに呼ばれて訪問する」というのが前提であるため、定期的な往診とは異なります。例えば、寝たきりの患者さんに原因不明の皮膚発疹が生じて、ひどいかゆみがある場合、「皮膚科の往診」を受けることができます。

 私は仙台市内の「むらた日帰り外科手術・WOC(ウォック)クリニック」という在宅療養支援診療所に所属しています。祝日以外の日は、ほぼ毎日外来診療で「日帰り手術」を行っています。日帰り手術のメリットは、日々の生活を大きく変えることなく手術が可能であることです。 鼠経そけい ヘルニアや下肢静脈 りゅう などの手術を受けることができます。

 院長の村田幸生先生が在宅医療を始めたきっかけは、東日本大震災でした。当時石巻市の病院に外科医として勤務していた村田先生は、自らも被災者でありながら、医師として各地の避難所を回り、長い避難生活の中、通院したくてもできない患者さんを多く診てきました。

 そこで、「病院に行けない患者が自分を必要としているのなら、自分が患者の元へ行こう!」と決意したのです。

 現在は、毎週火曜日は「在宅診療の日」として、私も診療に同行しています。そして、様々な外科的な処置を患者さんのご自宅などで行っています。

 さて、私が訪問している患者さんには、大学病院などの急性期病院から退院すると同時に訪問診療を受けることになった方や、しばらくは自力で通院をしていたけれど、通院介助をするご家族が高齢になるなど、様々な理由で訪問診療に切り替えた方もいらっしゃいます。付き添いのご家族が、車椅子を押しながら転倒してしまったら大変です。

 通院するのが困難で、治療を受けるたびに本人も家族もひどく疲れてしまうのに、通院先の医師からも、担当のケアマネジャーからも訪問診療を勧められないために、無理をして通院している方もいらっしゃいます。

 また、隣の市まで往復何千円もかけてタクシーで通院し、心身の疲労に加えて交通費の負担が大きい患者さんもいました。

 以前、地元の新聞に在宅訪問栄養指導について記事が掲載された時のことです。その記事を見た、ある慢性期の長期療養型病院に入院中の患者さんのご家族から、掲載紙の記者さんを通じて、「在宅医療を受けたいのだけれど、どうしたら在宅でも食べることを支えてくれる医師を見つけられるか」という質問を受けたことがありました。

 その患者さんには、のみ込むのが困難な 嚥下えんげ 障害があり、胃ろうからの経管栄養を受けていたそうですが、詳しい病状、それにその地域の状況もわからないため、私は以下の三つのアドバイスをしました。

  1. 退院して在宅医療を受けたいことを、担当の医師に相談する
  2. 『少しでも口から食べたい』という本人の希望を関係者にしっかりと伝える(本当に口から食べられるかどうかの正しい評価とサポート体制が必要です)
  3. 現在入院している病院の地域連携室、ソーシャルワーカーらに相談し、本人の希望を理解し支えてくれる在宅医を探してもらう

 新聞社を経由してわざわざ私に質問をしてきたということは、よほど相談できる人が身近にいなかったのでしょう。誰にどう相談していいのかわからないため、きちんとした見通しが立たないまま退院してしまったり、相談すること自体を遠慮したりする方がいらっしゃいます。

 在宅医療や介護を受ける方は、自ら地域の情報を集め、可能であればすでに在宅医療を経験された方に話を聞くなどして、どのような療養生活が待っていて、どんなことに注意すればいいのかなどのアドバイスを受けることをお勧めします。

 また、地域包括支援センターでは様々な相談に応じてくれます。在宅で受けられる医療については保健師さんが答えてくれるでしょう。経験豊富なケアマネジャーが、介護保険サービスのプランや申請方法について詳しく教えてくれます。社会福祉士は、障害者支援制度などにも精通しており、日常生活に支障がある人への福祉に関して、様々な相談に応じてくれます。

 今後、高齢社会が進むと医療と介護が一体化する場面は増えていきそうです。在宅医療の重要性はますます高まっていくはずです。

 誰もがいつか介護を受ける時が来るかもしれません。それが自分ではなくても、大切な家族や友人が突然介護が必要になることもあります。「介護」を他人事ではなく、自分事として考えて心の準備をしておくことも大切なことだと思います。

 ※1「在宅医療テキスト」 企画・編集 公益財団法人在宅医療助成勇美記念財団 在宅医療テキスト編集委員会

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塩野崎顔2_100

塩野崎淳子(しおのざき・じゅんこ)

 「訪問栄養サポートセンター仙台(むらた日帰り外科手術WOCクリニック内)」在宅訪問管理栄養士

 1978年、大阪府生まれ。2001年、女子栄養大学栄養学部卒。栄養士・管理栄養士・介護支援専門員。長期療養型病院勤務を経て、2010年、訪問看護ステーションの介護支援専門員(ケアマネジャー)として在宅療養者の支援を行う。現在は在宅訪問管理栄養士として活動。

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