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知って安心!今村先生の感染症塾

コラム

マイコプラズマ肺炎が過去10年で最大の流行に

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 マイコプラズマ肺炎が流行中です。秋から冬にかけて増加傾向となる感染症ですが、同時期では過去10年間で最大の報告数となっています。

リンク  https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20161026-OYTET50005

 マイコプラズマという名前は、これまでにも聞いたことがあるかもしれません。けっこう身近なのに意外と知らない感染症――。今回はマイコプラズマ感染症について解説しましょう。

オリンピックとマイコプラズマ

 今年はリオデジャネイロ・オリンピックが開催されました。マイコプラズマ肺炎は、かつては周期的な大流行を繰り返し、その流行のタイミングが4年に1度のペースとなっていました。それが、ちょうど夏季オリンピックの開催年に重なっていたことから、一部では「オリンピック病」と呼ばれたこともあったのです。しかし、ソウル・オリンピックが開催された1988年を最後に、このような規則性はなくなっています。それでも、小さな流行を繰り返している状況は続いており、現時点では過去10年間で最大の報告数となっています。

子どもや若者に多い肺炎

 マイコプラズマ肺炎は、一般的にみられる肺炎の中でも、特に子どもや若者に多くみられる代表的な肺炎のひとつです。近年の報告では、全体のうち約80%が14歳以下で発症しており、そのピークは小学校低学年となっています。

 マイコプラズマという病原体は、ごく一般的な病原体であるため、成人までには多くの人が感染しています。しかし、軽症のことも多くあるため、自分がマイコプラズマに感染したことを自覚しないこともよくあります。マイコプラズマに一度感染すると、ある程度の免疫は残りますが、その抵抗力は一生続くものではありません。したがって、成人や高齢者であっても、マイコプラズマ肺炎を発症することがあります。また、免疫が低下してしまうことで、何回も感染する可能性もあるのです。

発症までに2~3週間

 マイコプラズマは、感染してから発症するまでの潜伏期間が長く、約2~3週間(最大1か月程度)もあります。たとえば、家族がインフルエンザや風邪を発症しても、せいぜい1週間くらい様子をみて発症しなければ、うつらなかったと判断する人が多いと思います。しかし、マイコプラズマの場合には、それよりも長く経過してから発症する可能性があります。このため、人が多く集まる保育園や学校、会社、病院などでは、施設内で流行が始まると、それが落ち着くまで何か月もかかってしまうこともあるのです。

マイコプラズマ感染症の症状

 マイコプラズマによる症状で代表的なのは「発熱」と「 (せき) 」です。咳は、 乾性咳嗽(かんせいがいそう) と呼ばれ、 (たん) を伴いにくい傾向があります。そして、発熱から数日遅れて出現することもあり、熱が下がっても頑固な咳が長く続くことも多くみられます。また、体のだるさ、頭痛、筋肉痛、関節痛などを伴うこともあります。

 マイコプラズマ肺炎という名前でもわかるように、この感染症では「肺炎」が有名ですが、実際には肺炎を起こさずに軽症で終わることも多くあります。特に、大人よりも子どもの方が、軽症例の多い傾向があり、 咽頭(いんとう) 炎、気管支炎だけで終わることも多いのです。しかし、気管支炎では 喘息(ぜんそく) のような症状となることもあります。さらに、初期は軽症であっても、その後に肺炎となって重症化することがあるので注意が必要です。

呼吸器以外の合併症も多い

 このようにマイコプラズマ感染症では、気管支炎や肺炎などの呼吸器症状が中心となります。しかし、その他にも多彩な症状を合併することが知られています。例えば、中耳炎や鼓膜炎によって、耳の痛みなどの症状が起こることがあります。また、吐き気や下痢などの消化器の症状を起こしたり、皮膚に発疹が出ることもあります。さらに (まれ) ではありますが、脳炎、肝炎、心筋炎、あるいはギランバレー症候群という神経の 麻痺(まひ) 症状など、様々な合併症を起こしてしまうことがあるのです。

診断の参考となる情報

 マイコプラズマ肺炎は、「非定型肺炎」という名前で分類されて、一般的な「細菌性肺炎」と区別されることがあります。日本呼吸器学会が作成した「呼吸器感染症に関するガイドライン」から、このような「非定型肺炎」を診断するための基準(一部著者修正あり)をご紹介しましょう。これは、診療現場で成人の肺炎をみたときに鑑別の参考にするもので、以下の6項目のうち4項目以上があてはまった場合には、「非定型肺炎」である可能性が高くなるというものです。若い人に多く、 (たん) がでない頑固な咳を起こすという、マイコプラズマ肺炎の特徴が含まれていることがわかると思います。

1.年齢60歳未満

2.基礎疾患がない(あるいは軽微)

3.頑固な咳

4.聴診の所見が乏しい

5.痰がない(あるいは原因菌が証明されない)

6.白血球数が10000未満

診断を確定させる検査

 診療現場での診断確定には、ペア抗体、IgM抗体迅速検査、遺伝子検査など、いくつかの検査方法が利用されています。ペア抗体というのは、感染初期と2週間以上経過した時の血液の抗体を測定するものです。抗体というのは、病原体と闘った時に体の中に作られるものなので、その数値が高くなっていれば感染していたということがわかります。

 しかし、これでは診断までに時間がかかってしまいます。そこで、次に広く利用されるようになっていたのがIgM抗体迅速検査です。この検査は、すぐに結果がわかることが利点ですが、やや検査結果の信頼度に問題がありました。そこで近年は、2011年に保険適用となった遺伝子検査が使われるようになってきています。今回ご紹介したマイコプラズマ肺炎の過去10年間を比較したグラフをあらためてごらんください。2011年の報告数が多くなっていますが、これには新しい検査方法が加わったことが関与しているかもしれません。

マイコプラズマ肺炎が過去10年で最大の流行に

ウイルスと細菌の違い

 わたしたちがよく知っている代表的な病原体に、「ウイルス」と「細菌」があります。「ウイルス」は自分だけでは増えることができず、人などの細胞の中に寄生して、その力を利用することで増殖します。そのためウイルスは非常に小さい病原体となっています。また、ウイルスは一般的な抗菌薬で治療することができません。その一方、「細菌」は比較的大きく、その外側には細胞壁という壁があり、自分で増えることができます。そして、抗菌薬で治療することが可能です。

不思議な微生物……マイコプラズマ

 マイコプラズマ肺炎の原因となる病原体は、「肺炎マイコプラズマ」と呼ばれる、少し特徴的な性格をもった微生物です。マイコプラズマは、このウイルスと細菌の中間的な病原体となっています。マイコプラズマは、細菌に分類されているにもかかわらず、ウイルスに近いほど小さい病原体です。さらに、その外側には細胞の壁がなく、アメーバーのように一定の形をしていません。

マイコプラズマ治療の問題点

 マイコプラズマ感染症は、軽症であれば未治療でも治ります。しかし、肺炎を起こした場合など、症状が重くなれば抗菌薬による治療が必要となります。

 抗菌薬の中には、細菌の壁に作用することで効くものが多くあります。ところが、マイコプラズマの細胞には壁がないので、このような種類の抗菌薬は効かないことになります。したがって、マイコプラズマに効果があるのは、抗菌薬のうち一部の種類に限られています(マクロライド系、ニューキノロン系という種類の抗菌薬が選ばれます)。

 さらに近年は、通常使用されるマクロライド系という抗菌薬の効かない、「耐性菌」の増加が大きな問題となっています。「もともと薬の選択肢が少ない上に、耐性菌が増加している」――これも、マイコプラズマ感染症における重要な情報のひとつです。

予防のための咳エチケット

 マイコプラズマは、くしゃみや咳によって出る 飛沫(ひまつ) によって感染します。発病する数日前から感染させる可能性がありますが、症状が出た頃から1週間くらいが特に感染しやすい時期となります。その後は、感染力は徐々に低下していきますが、咳が続く1か月以上は人に感染させる可能性があります。

 くしゃみや咳によってうつる感染症では、本人が人にうつさないように気をつけることが、最も効果の高い予防策となります。感染している本人が気をつけることから、この予防を「咳エチケット」と呼んでいます。咳エチケットでは以下のような対応がすすめられています。

・くしゃみや咳をする人がマスクをつける。

・マスクをつけていなければ、ハンカチやティッシュで口をおおう。

・ハンカチがなければ、肘の内側でブロックする。

 子どもは、手のひらで口を覆うと、汚れた手のひらをなめてしまうことがあります。また、病原体のついた手で触れることで、環境を汚染してしまうかもしれません。そのため、手のひらではなく、肘の内側で口を覆ってブロックするのです。

手洗いも大切です

 飛沫感染する感染症も、自分の口に触れたりして、病原体が手につくことがあります。「感染した人の口や鼻→手→環境→他の人の手→口や鼻」……このように、手を介して、人から人へと感染していきます。したがって、くしゃみや咳でうつる感染症でも、「手洗い」は大切な予防策なのです。また、日頃から口や鼻をあまり触らないようにすることも、感染を少なくする方法のひとつといえるでしょう。

「ゴホンとしたら、咳エチケット」

「たかが手洗い、されど手洗い」

 これからは、インフルエンザもやってきます。それでも日常的な対応は変わりません。まわりの人にも声をかけ、日常的な感染対策を再確認しておきましょう。

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今村顕史(いまむら・あきふみ)

がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長

石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。著書に『図解 知っておくべき感染症33』(東西社)、『知りたいことがここにある HIV感染症診療マネジメント』(医薬ジャーナル社)などがある。また、いろいろな流行感染症などの情報を公開している自身のFacebookページ「あれどこ感染症」も人気。

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