文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

虹色百話~性的マイノリティーへの招待

医療・健康・介護のコラム

第60話 LGBTにとってのライフプランの意味

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

当事者による、当事者の事情に即した老後セミナー

 先週金曜日(21日)、 一般財団法人ゆうちょ財団 「金融相談等活動助成」報告会で、私が仲間とともに運営しているNPO法人「パープル・ハンズ」(HPは私のプロフィル欄にリンクされています)の活動についてご報告させていただきました。

 財団事業の一つである金融相談等活動助成は、高齢者や大規模災害の被災者、障害のある人など向けのお金にかんするセミナーや相談事業を助成するものです。「障害のある子の金銭管理教育」とか、「ひきこもりの人のためのライフプランセミナー」など、「なるほど、こういう人たちこそ、お金にかんする学びが必要かも」という事業が、毎年選ばれています。

 じつはパープル・ハンズでも、「性的マイノリティ高齢者のためのライフプランセミナー」へ昨年度から助成をいただき、今年度はセミナーのほかに「HIV陽性者のための無料ライフプランニング相談」にも、あわせて助成をいただいているのです。

 この「にじ色あんしん老いじたく」講座は、上野駅に近い貸し会議室を借り、全3回の構成で開催しています(以下、タイトルとチラシのコピー文)。

 第1講 老後のお金と住まい、こう考える

 高齢期ならではのお金、貯金、保険、年金、そして高齢者用住宅などの情報と考え方のコツを、私たちバージョンでご紹介します。

LGBTにとってのライフプランの意味

 第2講 シングルでも、同性二人でも、入院や介護、認知症、どうする?

 一人暮らしや、家族と認知されづらい同性パートナーとの暮らしで、高齢期にはつきものの入院や介護。病院面会や財産管理の代理など法律的な知識を正確に理解しておきましょう。

id=20161026-027-OYTEI50013,rev=2,headline=false,link=true,float=left,lineFeed=true

 第3講 遺言や相続、お墓や片づけ、いつかかならず来る日のために

 人として亡くなることはさけられないけれど、一人だったり、同性の相方が残る場合、相続や片づけはどうしたらいいのでしょう? 遺言などの法律と旅立ちをめぐる最近の事情。

id=20161026-027-OYTEI50011,rev=2,headline=false,link=true,float=left,lineFeed=true

 私が講師を務め、「当事者の専門家による、当事者の事情に即した、当事者のための、老後のライフプランセミナー」。富裕層向けではない、ほどほどのお金で安心して暮らすために、本当に備えなければならないことを考える内容になっています。

シニアのLGBTへ向けて

 パープル・ハンズは2010年から新宿2丁目にあるコミュニティスペースakta( 第23話参照 )で開催してきた「同性愛者のためのライフプランニング研究会」が前身となり、13年にNPO法人化。性的マイノリティーの視点から生命保険、不動産、社会保険、介護、遺言、相続、養子縁組……などなど、中年期から老後までの「老病死」の課題に対して、現状の制度の理解と性的マイノリティーなりの活用を考えてきました。

 ただ、性的マイノリティーの老後を考えるには、本当は上野や浅草といったエリアが好適です。ゲイタウンというと新宿2丁目の名があがりますが、東京にはほかにもゲイバーが多いエリアがあり、新宿は若者の店、新橋はサラリーマン(30~50代)の店、そして上野・浅草はシニアの店、そんなイメージが定着しています。

 しかし、上野や浅草には、aktaのように無料で使える施設はありません。受講者から千円や2千円の受講費を徴収するのも難しい……。

 そんなとき、ゆうちょ財団の助成を知りました。これで有料会場を借りたり、インターネットが苦手なシニア層のために紙のチラシを作ってバーに置いてもらったり、上野のゲイ向けバラエティーショップで配ってもらうこともできます(他の当事者団体にも郵送します)。

 ただ、シニア層は「外」に対してはまだまだ閉鎖的です。NPOといっても警戒されるでしょう。「10人参加があれば成功と考えている。それでよければ、ぜひ助成を検討してください」と初めての申請書には書きました。そもそも財団だって「性的マイノリティー」にどんな反応をするだろうか、と思ったのも事実です。

 しかし、時代は変化していました。ゆうちょ財団さんも企画の意義を理解し、申請した3回分すべてに助成をしてくださいました。そして「ゆうちょ財団」という名前も安心材料になったのか、毎回、予想を上回る30人ほどのかたが申し込み、受講してくれました。半数は全回通して聞いてくれましたし、ゲイ男性が多かったのは事実ですが、女性のかた、トランスジェンダーのかたの参加もありました。そして2年目のいま、パートナーや友人から「行け」と言われて来たなど(笑)、口コミによる参加者が出てきたのも うれ しい傾向です。

ライフプランニングの発見とその意味

 ライフプランセミナーと聞くと、みなさんは富裕層向けの投資だ、運用だ、という話と思われるでしょうか。しかし、セックスの趣味・嗜好、夜の街やベッドのなかの話としか思われてこなかった同性愛や性別移行の人に「ライフプランニング」という言葉を結びつける例は、これまでありませんでした。性的マイノリティーとして一生を生きることを選んだとき、はじめてセクシュアリティーが老後まで含んだ人生にかかわるのだという視点、そして性的マイノリティーとしてのライフプランニングが「発見」されたのです。

 たしかに日本には、同性婚もLGBT擁護法制もありません。しかし、現行の法や制度のなかでも工夫次第で同性カップルを守ることはできます。一人暮らしの高齢期を支える方法も増えています。

 こうした知識を得ることで、私たちが安心できる暮らしは自分で作れるんだ、作っていこう、という感覚が当事者のなかに生まれることをパープル・ハンズは目指しています。「生きづらさ」という言葉は私も使いますが、生きづらさにたたずむカワイソウなマイノリティーではなく、ライフプランの知識を活用し、いまできることがあったらまずそれをやろう、がパープルの持ち味です。私はこういう実践的な発想を、1980年代以来の障害者の自立生活運動や当事者主権という考えから学んだと思います。彼らは人里離れた施設で手厚く保護される“福祉”よりも、街中で多少ガタピシしながらも自分たちの好きな暮らしを作っていくことを選びました。パープル・ハンズは、LGBT版の自立生活センターです。

 その当事者主権のなかで私が得たい、あるいは取り戻したいと思っているのは、等身大の性的マイノリティー像であり、地に足をつけた人生への肯定感なのかもしれません。

 性的マイノリティーが中年期を迎え、あらためて生き方、人生設計に悩む場面は少なくありません(フォーティーズあるいはフィフティーズクライシス?)。異性愛者のような結婚・出産・子育てといったライフコースが確立していない分、性的マイノリティーは社会の再生産にも寄与せず、自分は人生をなんのために生きているのかと実感しにくい面があります。その空白を埋めるかのような仕事、飲酒、人間関係、セックス、さらには薬物などへの嗜癖、その結果としてのメンタル不調やゲイ男性間でのHIVの広がり、そして自死の多さは、それらとけっして無縁ではないでしょう。よくゲイの人は華やかで才能豊か、ゲイバーで会う人は面白い、キャラが濃いとか言われますが、これはまた過剰な人生、危なっかしい人生と裏表かもしれないのです。そして私にも、そんなジェットコースターのような人生の結果、早々にこの世を辞していった友人・知人が何人かいます。

 ライフプランニングという視点は、LGBTにも老後を含めた長い人生がある、いまでも法律や制度をこう使いたおせば、私たちなりに安心できる暮らしが作れる、ほどほどのお金と信頼できる仲間とのネットワークがあればなおよし!――そう考える契機を与えてくれるものかもしれません。

 LGBTだからといって輝かなくていい、総活躍しなくていい、イノベーションだかの担い手にならなくてもいい、街をワクワクなんかさせなくていい、ただ安心して生きていきたい。ひとり暮らしであっても、同性カップルであっても、性別を変えた人であっても、病をもった人であっても、パートナーや仲間とともに、生きてよかったと思える人生を送りたい。

 そうした場を手作りで作っていくことが、図らずも一生を途中で終えた仲間への回答ではないか、と思っています。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

虹色百話~性的マイノリティーへの招待の一覧を見る

2件 のコメント

人生は死ぬまでの暇つぶし

カイカタ

ゲイバイストレートに限らず、人生とはこんなものと思って生きていくといいと思います。結婚するとか子供を持つとかは、あくまで個人の選択です。本来、そ...

ゲイバイストレートに限らず、人生とはこんなものと思って生きていくといいと思います。結婚するとか子供を持つとかは、あくまで個人の選択です。本来、そういうことを自ら望んで選択するのです。しないからといって悪いことではありません。

社会貢献は、税金を払うということで十分貢献しています。それ以外をするのは個人の選択です。

ただなんにせよ、老後のお金や健康は心配ですね。

つづきを読む

違反報告

追記です

永易至文

文中に紹介した「HIV陽性者のための 無料ライフプランニング相談」のご案内はこちらにございます。陽性者のお知り合いがいらっしゃいましたら、ぜひご...

文中に紹介した「HIV陽性者のための 無料ライフプランニング相談」のご案内はこちらにございます。陽性者のお知り合いがいらっしゃいましたら、ぜひご紹介ください。
http://nijiirolifeplan.blog.fc2.com/blog-entry-147.html

つづきを読む

違反報告

すべてのコメントを読む

最新記事