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原記者の「医療・福祉のツボ」

医療・健康・介護のコラム

貧困と生活保護(42) 見過ごされている知的・発達・精神の障害

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ホームレス状態の人は高い割合で知的障害

 ホームレス状態の人の場合、1990年代後半から2000年代前半は、生活に困って仕方なく路上で暮らしている健常者が多いと、筆者はインタビュー取材を重ねていて感じました。その後、生活保護の適用などで人数が減るにつれ、路上に残っている人は知的障害や精神障害を持つ割合が高くなったようです。2010年4月20日の読売新聞(大阪、西部)朝刊に載せた筆者の記事の一部を紹介します(現時点に合わせて一部の表記を修正・補足)。

 北九州市の委託で自立支援センターを運営するNPO法人北九州ホームレス支援機構(現・NPO法人抱樸)によると、センター開設から09年6月まで約5年の間に利用を終えた492人のうち、約3割にあたる140人が市の判定を受けて療育手帳を取得した。最近の入所者では4割を占める。

 多くは軽度の障害。以前は住み込みや日雇いなどで働いていた人が多く、日常の会話は問題ないが、文章作成を頼むと、つたない文章しか書けない人が目立つという。「何回も就職先で失敗して怒られた。障害のせいだとわかって逆にホッとした」と語った人もいた。こうしたハンデを持つ人が、労働市場の競争を自力で勝ち抜いて職を得るのは難しい。生活保護を受けてアパートに移った場合もゴミの出し方、金銭管理などで戸惑うことが多い。

 東京・池袋では09年末、精神科医や臨床心理士らのグループ「ぼとむあっぷ」が、路上生活をしている男性164人の同意を得て各種のテストをした。知能指数(IQ)で見た障害程度は中度(40~49)が6%、軽度(50~69)が28%で、障害認定に相当するレベルの人が計3割余りにのぼる。境界域(70~79)の19%を合わせると半数を超えた。中にはIQ130という人もいたが、半面、意思疎通ができずに調査対象外になった人もいた。うつ病、統合失調症など精神障害も少なくなかった。

 メンバーの臨床心理士、奥田浩二さんは「調査時期や地域によって割合は違うだろう。事故による脳機能障害や認知症など後天的な原因もある」と説明する。精神障害の場合は、ホームレスになる過程で受けた心理的打撃や過酷な生活の影響も大きいとみられる。

 大阪のNPO釜ヶ崎支援機構でも、若い相談者の約3割が知的障害や精神障害の疑いで受診している。一方、主に高齢のホームレスの人々を支える東京のNPO「ふるさとの会」では、施設利用者の4割に認知症があるという。

発達障害の人たちの特性

 発達障害には、自閉症スペクトラム、ADHD(注意欠陥・多動性障害)、LD(学習障害)などがあります(知的障害を含めて発達障害と呼ぶこともあるが、ここでは狭い意味で用いる)。いずれも生まれつきの脳の特性と考えられています。

 自閉症スペクトラムは、重い知的障害を伴う人から、知的能力の高い人(アスペルガー障害)まで広い幅があります。人と親しくなろうとしない、何かに強いこだわりを持つ、他人の気持ちや場の空気を読むのが苦手、あいまいな言葉によるコミュニケーションが苦手、といったことが特徴です。

 ADHDは、不注意や忘れ物が多い、落ち着きがない、あきっぽくて集中できない、物を片づけられない、衝動的になることがある、といった特性があります。知的能力の高い人も少なくありません。

 LDは、知的能力は低くないけれど、読む、書く、計算するなど特定の領域の学習が困難です。

 発達障害者支援法が05年度に施行されてから、発達障害と診断される子ども、特別支援教育を受ける子どもが増え続けています。増えた背景には、障害の社会的認知、制度の周知、親の意識の変化といった社会的要因がありますが、ひょっとすると生物学的にも増えているかもしれません。

 発達障害は、程度によりますが、知的障害を伴うなら療育手帳、そうでなければ精神障害者保健福祉手帳の交付対象になります。大人になってわかる発達障害も少なくありません。ここまでは健常、ここからは障害とはっきり線引きできるものではなく、見過ごされているケースが多数あります。特性を発揮することで社会的に活躍する人たちがいる一方で、人間関係のトラブルが起きて職場に不適応になったり、うつなどの精神症状が出たりして、生活の困難につながることもあります。

精神障害でも医療を受けていない人は多い

 精神障害は、統合失調症、気分障害、各種の依存症、高次脳機能障害(器質性精神障害)、心因性の精神障害など多種多様です。14年10月の厚生労働省「患者調査」によると、医療を受けている精神障害者は392万人(入院31万人、外来361万人)に達しています。ここには短期の受診も含まれます。継続的な通院が対象となる自立支援医療(精神通院)の支給決定件数は、14年度で177万8407件です。一方、精神障害者保健福祉手帳の交付者数は80万3653人(15年3月末)にとどまります。

 医療にかかっていなくても、精神症状のある人はいます。とくにギャンブルやアルコールの依存症は、潜在患者が数百万人規模で存在すると推計されています。統合失調症と見られる幻聴や妄想があっても、医療を受診したことがないまま、社会生活を送っている人もいます。

産業構造の変化で、障害者の働く場が減った

 知的障害の人の多くは、単調な作業でも、根気よく続けることができます。昔は、そういう人に向く仕事がありました。まず農業です。季節や天候を踏まえて計画的に作物を栽培するには複雑な思考が必要ですが、ほかの人から段取りを教えてもらい、農作業をするだけなら、十分にやれたでしょう。次に鉱山、工場、工事現場です。そうした場での比較的単純な労働は、知的障害の人に向いていたはずです。町工場で親方の指示に従って働く人たちもいました。

 発達障害のうち自閉症スペクトラムの人はどうか。コミュニケーションは苦手でも、こだわりが強いのは長所にもなりえます。農業や漁業は、必ずしも人間関係が円滑でなくてもできたでしょう。もっと向くのは、職人的な仕事です。腕が立つ一方で、頑固で気難しい職人さん。その中には、アスペルガー障害の人がけっこういたのではないでしょうか(このあたりは、発達障害に詳しい精神科医、高岡健さんの話を参考にした)。

 ところが農業の規模は小さくなり、商品として出荷するために栽培の手順が複雑になりました。鉱業はほとんど消滅し、製造業も機械化が進んだうえ、海外に生産拠点が移っていきました。建設業の現場も機械化が進行しました。手先の技能を求められる職人的な仕事も減りました。

 このごろ求人が多いのは、飲食・販売・サービス業、医療・福祉、IT関係などです。お客さまとの対話や職場内でのコミュニケーション、あるいは複雑な思考を求められる職種です。

 時代の変化、日本の産業構造の変化に伴って、障害を持つ人の一般就労の場が減ってきたと考えられるわけです。せめて障害者枠の雇用をもっと増やさないと、カバーできないでしょう。

生活保護の「その他世帯」には、障害や傷病がある世帯も含まれる

 最後に、生活保護の統計に関して、注意が必要な点を挙げます。生活保護の世帯類型は、高齢者世帯、母子世帯、障害者世帯、傷病者世帯、その他世帯の5タイプに分けられています。近年は「その他世帯」が増加したため、働く能力のある世帯の受給が増えたように言われています。

 しかし、障害者世帯にカウントされるのは、世帯主が<1>生活扶助で障害者加算を受けている<2>入院または老健施設に入所中<3>障害のために働けない――のいずれかにあたる場合です。障害者加算がつくのは、障害年金の1級または2級に相当する状態(または、ほぼ同等の身体障害者手帳1~3級)です。加算があれば、若干の勤労収入があっても障害者世帯に計上します。

 その一方で、障害者加算がない場合は、たとえ世帯主が障害者手帳を持っていても、働いて1円でも収入を得ていれば、「働けない」の条件を満たさないとして、その他世帯にカウントします(勤労控除は考慮しない)。たとえば、雇用契約にならない就労継続B型(いわゆる作業所)に通い、月数千円程度の工賃しかなくても、その扱いになると厚労省保護課は説明しています。

 傷病者世帯も同様です。世帯主が<1>在宅患者加算を受けている<2>入院または老健施設に入所中<3>傷病のため働けない――のいずれかが条件です。在宅患者加算がつく病状は限定されており、それ以外の病気の場合は、少しでも働いて収入を得ていれば、その他世帯にカウントします。

 その他世帯には、世帯主が障害や病気の世帯が、それなりに含まれているわけです。その他世帯の実情について厚労省は、もっと正確な分析をして公表するべきです。でないと誤解を広げてしまいます。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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