文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

yomiDr.記事アーカイブ

本当に現実!? 医療にも「漫画のような世界」が…

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 今日は、野球のお話です。先日、パ・リーグのクライマックスシリーズ第5戦で大谷翔平選手が3番指名打者で先発し、なんと9回にクローザーとして登板し、ソフトバンク・ホークスを三者凡退に抑えて、日本シリーズへの進出を決めました。そこで15球を投じたのですが、直球はすべて163キロ以上で、日本最速となる165キロを3球も投げました。151キロのフォークボールもありました。指名打者で中軸を打って、さらにセーブポイントを挙げたのは初めてだそうです。「漫画の世界」を超える活躍です。

 この記事は翌日のスポーツ紙の1面を飾りました。なんと、どんなことが起こっても基本的に阪神タイガースが1面を飾るスポーツ新聞まで、大谷選手が1面でした。スポーツ新聞の世界でも、満場一致で彼の活躍を (たた) えているようでした。「普段は野球に興味がなくても、ぜひ日本シリーズでは大谷選手の雄姿を見てもらいたい」と、ひとりの大谷翔平ファンとして勝手に思っています。

 さて、今年の6月16日のコラムで、当時、大谷選手が出した日本最速163キロにちなんで、「医療の奇蹟」のお話をしました。今日は医療での「漫画みたいな世界」のお話をします。昔はあり得ない、漫画の世界だけと思われていたことが現実に起こっているといったイメージです。

 

カテーテルでできる色々なこと

 まず、カテーテル治療です。カテーテルとは細いチューブのことで、動脈に刺して、それを思い通りの動脈に移動させることが出来ます。カテーテルの形状も大切ですが、カテーテルの中を通して、まず進みたいところに誘導するガイドワイヤが重要です。基本的にガイドワイヤが思い通りのところに至れば、それに (かぶ) せるようにカテーテルを進めることができます。なにが漫画みたいかというと、まず脳動脈 (りゅう) (動脈のこぶ)などについては、カテーテルで治るものが相当あります。「出べそ」のようになっているものは、カテーテルでまず治療可能です。カテーテルを動脈瘤まで進めて、そこからコイルを動脈瘤に入れます。コイルはカテーテルから出るとクルクルと巻かれ、そして動脈瘤内を充満します。そうなると血流がなくなるので動脈瘤が血の塊で閉塞するのです。今までは頭の骨を削って、手術を行っていました。開頭術です。それが不必要になりました。

 カテーテルをがんに栄養を送る血管にまで進めて、抗がん剤を注入することもできます。がんに栄養を送る血管を詰めることもできます。がん治療にも必要不可欠な手技になりました。

 胸やお (なか) の動脈瘤も、以前は大変大きな (きず) を伴う手術が必要でした。動脈瘤を切除して人工血管で両端を縫い合わせていたのです。ところが今ではカテーテルで治療可能なものもあります。動脈瘤は、がんとは違って切除する必要はありません。破裂しなければ良いのです。そこで、動脈瘤のなかにカテーテルを用いて折りたたんだ人工血管を内挿することが可能になりました。動脈瘤は残っているが、血流と動脈瘤が無縁になるので破裂しないのです。

 狭心症は、心臓に栄養を送る動脈が細くなって起こります。そんな 狭窄(きょうさく) した血管はカテーテル内を通した風船を使った治療が可能になりました。昔ながらの胸を開ける手術が不要になりました。また最近は、大動脈弁の置換手術をカテーテルだけで出来るようになりました。経皮的大動脈弁留置術(TAVI)などと呼ばれます。今までは、心臓を止めて、そして胸を開けて、心臓にメスを入れて、人工弁などで病気の大動脈弁を置換していました。それが、心臓を止めることなく、また胸を開けることなく可能になりました。カテーテル内に折りたたまれた人工弁を病気の大動脈弁の位置に挿入できるようになったのです。まだまだ、発展途上ですが、どれも「漫画のような光景」ですね。

 

ロボットや内視鏡治療も…

 手術用のロボットもありますよ。前立腺がんや腎臓がんでは保険適用されています。先端医療としてはいろいろな領域で手術が行われています。手術用ロボットの前に発達したのが 腹腔(ふくくう) 鏡や胸腔鏡を用いた手術で、大きな創が不要になりました。カメラ用の穴と、手術を行う道具を通す穴が数か所必要なだけです。カメラから画面に映された映像を見て手術を行います。手術創が穴だけなので手術後の痛みもほとんどなく、早期に社会復帰できるようになりました。そして、その手術を行う道具などもロボット化されていきます。そうすると遠隔手術が可能になります。これも「漫画のような光景」でしょ。

 内視鏡治療も進歩しました。昔はお腹を開けてがんのポリープを切除していましたが、最近では、口や肛門から内視鏡を挿入し、そして内視鏡を見ながら、内視鏡の小さな穴から道具を挿入しポリープの切除が可能です。最近は、がんが胃や腸の表面(つまり内側)にのみあれば、少々広範囲でも内視鏡で切除できるようになりました。画面を見ながらの手術で、これも「漫画のような光景」です。

 リハビリの領域でも、ロボットスーツの (よう) なものが開発されています。筋肉が十分に働かなくなっても、ロボットの力で日常生活が可能になるのです。義足や義手も進歩しています。パラリンピックでは義足の競技者の記録が、走り幅跳びや短距離走では、オリンピック記録とほぼ変わらなくなっています。装具の進歩も「漫画みたいな光景」ですね。

 

主治医と相談して慎重に

 また、目の手術も進歩しました。メガネが必要な人が不要になります。眼球の前にレンズ(水晶体)があります。このレンズの焦点と網膜の距離が合わなくなるので、メガネでの矯正が必要なのです。この水晶体の屈折率をレーザーで削ることにより矯正できるようになりました。これがレーシックという手術です。目のレンズを削るなんていうのは漫画みたいでしょ。そしてメガネが不要になるのです。ところが眼科医でもメガネをしているひとは相当数います。眼科医のすべてがレーシックを自分で受けているわけではありません。医療は日々進歩します。今やっている治療よりも、もっとよいものが登場する可能性が高いのです。ですから、漫画のような世界も、もっと想像ができない世界になるかもしれません。上記の手術などは今やる必要がなければ、できるだけ後回しがいいのです。メガネで不自由がなければそれでいいのです。医療は進歩するからです。ですから、「漫画の世界」のような医療は、主治医としっかり相談して決めましょう。

 大谷選手の漫画の世界も、もっと想像を超えた漫画の世界になることを祈っているのです。 怪我(けが) や故障をしないで、誰も描かなかった道を歩んでもらいたいと思っています。ひとりの大谷翔平ファンの 親父(おやじ) の願いです。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常の一覧を見る

最新記事