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視覚障害が引き起こす…精神、心理への二次障害

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視覚障害が引き起こす…精神、心理への二次障害

  前回 に続き新潟で開催された日本ロービジョン学会に出席して感じたことを、書きましょう。

 新潟県視覚障害支援センターのリハビリを推進する会の山田幸男氏の「視覚障害者家族の抱えた精神・心理的問題」という発表には、私も普段から気になっている事柄がいくつか含まれていました。

 この発表は、障害者家族に焦点を合わせたものですが、障害者自身の精神心理問題というのは非常に大きい問題にもかかわらず、社会でも、学会でもほとんど意に介されません。

 視覚障害の場合には、その方の視覚の不自由さに加えて、しばしば二次的に抑うつ、不安、不眠、焦燥(あせる気持ち)や絶望感にさいなまれます。にもかかわらず、二次障害については、たとえば障害者としての等級としてはまったく考慮されません。それに準ずる形で評価される生命保険や障害年金、あるいはいろいろな福祉介護サービスにおいても問題としてほとんど取り上げられません。

 本来的な「うつ病」はそれなりの社会的支援が受けられますが、視覚障害というハンディキャップの上にうつ症状が強く出てきて仕事や勉学ができなくなる状態になっても、つまり視覚と精神の二重の障害があっても、決して2倍の支援や補償が受けられるわけではないことに、私は不合理を感じてしまいます。

 また、治療においては、眼科医は視覚障害の直接的原因には関心を示しても、二次障害に思いを致すことは少なく、どうしたらよいかの対応方法も学んでいません。

 「それなら」と、精神神経科や心療内科を訪れたとしても、もともとの原因が「視覚」ですから関心は薄く、適切な対応がなされないのが現状です。

 もうひとつ、山田氏の発表で「われわれも見落としているな」と改めて感じたのが、支援に当たる家族の大変さであり、精神・心理的負担の問題です。障害者本人に対するアンケート調査では、自分と同等以上に大変なのは支援する家族であるという回答が80%を超えていたことです。

 このように、視覚障害という一次障害はもとより、二次障害は障害者個人に存在するだけではありません。にもかかわらず、こうした患者自身や、支援する家族の二次障害に対する認識の遅れが、医療界にも、福祉行政にも厳然と存在すると思われます。

 もっといえば、これは多分、日本の社会環境や社会資源のあり方の問題でしょう。

視覚異常に限らず、どんな疾患にもつきものの大問題ですから、国を挙げて二次障害への認識を高め、どう支援すべきか議論を進める必要があると思います。(井上眼科病院名誉院長 若倉雅登)

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