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虹色百話~性的マイノリティーへの招待

医療・健康・介護のコラム

第59話 10月11日は、ナショナル・カミングアウト・デイ

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 それでも1993年に長かった大学時代を卒業し、小さな出版社に就職したとき、母へカミングアウトしました(父は私が高校生のときに他界していました)。手紙を書き、自分たちのしている活動の説明、そして自分が同性愛であることは選んだものでもないし親の育て方のせいでもないこと、そしてなにより、いま自分は幸福であることを伝えました。折り返し電話してきた母は受話器の向こうで泣いていましたが、活動の仲間から、カミングアウトしたら親はたいてい泣くと聞いていたので、「ああ、定石通り……」と思って自分を支えました。われながら鬼畜な息子です(苦笑)。

 しかし、母は私を受け入れ、その後もテレビで「新宿二丁目、潜入ルポ」などバカバカしい番組をやっていたと怒って電話してくるなど、その変化にはわが母ながら感謝しました。その後、私がとりあえずゲイということを表明して本名でモノを書くことができたのも、母には伝えてあるという安心があったからでしょう。

 一方、2人いる弟へ告げたのは母から遅れること20余年。今年の夏、亡父の三十三回忌で久しぶりに兄弟が顔をそろえた機会でした。いまさら言う必要はなかったかもしれませんが、兄は東京で結婚することもなく一人ぶらぶらなにをやっているのだろう、と疑問に思われているのもしゃくでしたし、なにより、老年に入った母について、それぞれの事情を互いにわかったうえで話し合う下地を作っておきたい、と思ったからでした。私も50歳、この機会を逃すともうない、という思いもありました。

 例によって手紙をしたため(つくづく手紙の好きな人です)、私が取材された記事のコピーなどもいくつか添えて、帰郷の日に間に合うよう郷里の次弟と横浜の末弟へ速達で送りました。さすがに投函とうかん時、指が震えたことは秘密です。

 久しぶりに家族の顔が揃った食事会ではなにも出ず、そのあと次弟が「兄弟だけで話そう」と切り出しました。「屠所としょへ引かれる牛」の思いとはこのことでしょう。

 「手紙読んだか」と問う私に、酒杯をもった弟たちがぶっきらぼうに答えました。「知っとった」「なんで今ごろ言うん」――。

 横浜の末弟は、10年近く前に新聞に寄稿した私の記事で知ったといいます。嫁さんが「これ、お義兄にいさんじゃない?」と見つけたそうです。その切り抜きを彼が財布から出したのには驚きました。次弟も数年前からネットで気づいていました(恐ろしい時代です)。彼らは、兄が多少とも社会的意味のある活動をしているようだ、とは思ってくれていたようです。

 むしろ彼らは口を揃えて言ったのです。

 「そんなことより、お母さんどうするんぞ」

 私のカミングアウトより、彼らにはこれから老後を迎える母を誰がどうするのか、そちらのほうが重要のようです。

 次弟は言いました。

 「あんたが長男なんぞ」

 嗚呼ああ

 しかし、この夜の語らいは、普段は疎遠な50歳、48歳、44歳の中年男たちのあいだに長年あった見えない壁を溶かしてくれた気がします。それぞれ知らなかった思いを知ることもできました。そして、ゲイであってもヘテロであっても、それぞれの境遇を踏まえて老いた母を案じ、たしかにみんなこの母から生まれた者同士だったという連帯感とでもいうものを、私のなかに生じさせたのも事実なのです。

 弟たちが、私にはとても重要な「私はゲイである」ということを認め、受け入れてくれたことで、これから彼らと新たな付き合い方ができるような気がしています。

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永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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1件 のコメント

シスコでアウト、アメリカ人の反応

カイカタ

私は、家族にはいっさいしておらず、今後もするつもりはないですし、友人や知り合いにもするつもりはありません。そもそも、プライベートなことですし、ち...

私は、家族にはいっさいしておらず、今後もするつもりはないですし、友人や知り合いにもするつもりはありません。そもそも、プライベートなことですし、ちなみに異性である女性と結婚することもあり得る面もある指向ですので、その意味で問題はないので。もち、結婚までする相手の女性には必ずその辺を伝えようと思っていますが。

ただ、20年前シスコで大学生だった時は、ゲイでしかないと思っていたので、その時、やや親しくなったアメリカ人の大学の友人に試しにアウトをしてみたことがあります。彼はとてもリベラルな人だったので、問題ないと思いましたが、その通り問題なく受け入れてくれました。そして、こんな言葉を言ってくれたのを覚えています。
「君がゲイであることで、友達をやめるような奴がいれば、そいつは君の友達である価値のない人だから、そんなことが起こっても傷つく必要はないよ」と。仮に拒絶されるようなことがあれば、そう考え、あっさりと流してしまうのも方法かも知れません。

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