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元記者・酒井麻里子の医学生日記

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「当事者」として医療に関わる喜び…2年前の10月に合格発表

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「当事者」として医療に関わる喜び…2年前の合格発表

頭蓋骨の模型を指差す解剖・発生学が専門の大谷浩教授

 10月の出雲はさわやかな風が吹いています。晴れた日には、ススキが顔をのぞかせる道を歩くと気持ちがいいです。

 出雲は、秋が一番好きです。

 そう感じるのは、出雲の地に晴れやかな気持ちで降り立ったのが、秋だったからかもしれません。

 ちょうど2年前の10月、島根大医学部の編入試験の合格発表がありました。インターネットで結果を見たとき、喜びのあまり飛び上がりそうになったことを忘れられません。

 その後すぐ、合格者を対象とした説明会があり、出雲市を訪れたのです。あいにくの雨でしたが、山陰地方の出雲は、東京よりも少し季節が進み、着ていたスーツのジャケットがちょうどいい心地だったのを覚えています。

 初めて編入試験の合格者10人が一堂に会し、入学までの約半年間に、勉強しておくべきことが説明されました。そのとき、最初に説明に立たれたのが当時の医学部長で、解剖・発生学が専門の大谷浩教授でした。

 医学部の先生方は、学生に対してどんなふうに話をされるのだろう?

 新聞記者の取材に応じる先生方しか知らなかったので、学生の立場で話をうかがうことには、勝手の違いからか、妙に緊張してしまいました。

 大谷教授は「島根大学では基礎医学をしっかりと学ぶことに力を入れています。学生が勉強しやすいように希望を聞いて変えられるところは変え、勉強しやすい環境にしていくので、学士入学生は、最初は勉強が大変だけどがんばるように」とお話しされました。

 他に、生理学、生化学の教授から説明会を受け、入学前に勉強しておくべきたくさんの項目を手渡されました。編入した先輩からは、編入試験の受験勉強よりも医学部での勉強は大変だと聞いており、配られた資料の多さが、これからの大変さを物語っていたのですが、将来の医療界の「仲間」に迎えてもらえたような気持ちになり、 (うれ) しかったのを覚えています。

 受験勉強の間、何度もこの感覚を求めていたように思います。

「外から」医療現場を見ていた記者時代

  取材では、記者はあくまで「外から」医療の現場を見ています。記者自身が患者であることもあり、当事者だからこそ書ける内容もあると思います。ですが、ほとんどの場合、当事者ではありません。当事者ではないからこそ、書けたり、気づいたりすることもあり、それが記者に求められた役割でしょう。

 そういう仕事だと頭では分かっていたものの、取材を重ねるごとにもどかしさを感じるようになっていた私にとっては、これから「当事者」になれる、ということだけで嬉しかったのです。

 説明会を終え、配られた資料を大事に (かばん) にしまって出雲を後にしました。

 あれから2年。今年も来年度に編入学する合格者の発表がありました。

 今は、毎日、たくさん理解すること、覚えることがあります。入学しなかったら知り合えなかった友人と仲良くなり、一緒に勉強できる立場になることができてよかった、と思うのです。

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sakai_245

酒井麻里子(さかい まりこ)
 2003年、慶應義塾大法学部卒、同年読売新聞東京本社入社。北海道支社、東京本社社会部、医療部を経て、2015年3月末に退社。同年4月、島根大医学部に3年次編入学。医療部で患者さんを取材したことがきっかけで医学部を目指した。著書に『限界自治 夕張検証』(2008年)

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4件 のコメント

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職業選択、移動の自由

shunsuke

確かに地方の医学部を卒業し、地元に残らずに都会へ帰る医者が多いのは事実だと思います。そして、それが地方の医師不足に拍車をかけるという議論がありま...

確かに地方の医学部を卒業し、地元に残らずに都会へ帰る医者が多いのは事実だと思います。そして、それが地方の医師不足に拍車をかけるという議論があります。ただそのために地方枠という制度もあります。この問題は厚労省の医療政策といった大きな場所で議論すべきでしょう。
この様な議論を気にせず、卒業後は東京へ帰るなり、好きな場所へ就職されたら良いのではと思います。
ちなみに私は東京出身ですが地方の大学へ入学しました。結局はそのまま地方に残りましたが・・・。

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高度化医療における基礎知識の再定義

寺田次郎関西医大放射線科不名誉享受

先日、アルツハイマー病が頭の糖尿病であるという仮説の実証実験のニュースを見ました。 確かに、脳疾患における血流の傾向はよく知られており、血管異常...

先日、アルツハイマー病が頭の糖尿病であるという仮説の実証実験のニュースを見ました。
確かに、脳疾患における血流の傾向はよく知られており、血管異常をきたす糖尿病との関連は考えやすいです。

おそらく、これからも大小の物質連関や機能連環は解き明かされていくのでしょうけど、改めて全身疾患の中での局所症状や局所疾患という発想で、様々な疾患は再定義されていくものと思われます。

その中で、専門医療と総合理療のバランス、専門と言っても、臓器専門なのか、疾患専門なのかも問われるでしょうし、そういう自分の得意分野と他の医師や他職種との連携の形も変わっていくのではないかと思います。
(勿論、病気と闘うのか、共に在るのかのスタンスなんかも問われてきます。)

また、コンピューターや診断ソフトの進化も医師や関連職種の在り方を変えていくと思います。

ただ、解釈が変わっても基礎知識であったり、人間そのものが変わるわけではありませんので、基礎医学は大事になると思います。

その中でも、学び方は人それぞれだと思います。

人は覚えては忘れての繰り返しですし、気長に頑張ってください。
卒業してからがスタートなくらい勉強は続くので、バーンアウトしないようにペース配分するのも技術ではないかと思います。

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解剖実習はどうでしたか

プーキー

医師を目指して頑張っておられる様子を拝見し、我が娘の時を思い出しました。 確か2年目の解剖実習は、研究対象として初めて人体に触れるショッキングな...

医師を目指して頑張っておられる様子を拝見し、我が娘の時を思い出しました。
確か2年目の解剖実習は、研究対象として初めて人体に触れるショッキングな出来事ですし、グループでのチームワークが問われ、その後の試験も大変と医学の第一関門として濃密な時間を過ごしていました。その時点からヒトを見る目が変わったような気がします。
これまでのコラムで解剖実習のことはあまり触れられていませんが、是非とも奮闘記を語っていただきたいと思います。

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