文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

田村編集委員の「新・医療のことば」

ニュース・解説

「プレシジョン・メディシン」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

■「精密医療」と「個別化医療」

 医療の話題には様々なカタカナ語が登場します。今回のテーマは、最近しばしば目にする「プレシジョン・メディシン」です。

 プレシジョンは英語で「精密、正確(PRECISION)」という意味です。そのまま訳すと「精密医療」とか「正確医療」ですが、患者一人ひとりの特徴に応じた治療を行う「個別化医療」と同じような文脈で用いられています。

 PRECISIONというキーワードで医学論文を検索すると、2010年頃から年々、急激に増えています。「プレシジョン・オンコロジー(腫瘍学)」とか「キャンサー(がん)・プレシジョン」といった、がん医療に関した言い回しも多く出てきます。

■がんの遺伝子診断

 がんの遺伝子を調べ、タイプの違いによって効果が期待できる治療薬を選択するというやり方は、すでに肺がんや乳がん、大腸がんなどの治療で導入されています。

 たとえば肺がんでは、分子標的薬の「イレッサ」(ゲフィチニブ)はある遺伝子変異を持つタイプの約7割に効果があるとされます。さらにイレッサが効かなくなった場合には、再び遺伝子検査を行って別の遺伝子変異が見つかった患者に効果が期待できる分子標的薬「タグリッソ」(オシメルチニブ)が今春登場しました。遺伝子変異の有無によって用いられる肺がんの分子標的薬にはALK阻害剤もあり、まずがんの遺伝子を調べることは治療の標準となりつつあります。

■オーダーメイド(テーラーメイド)医療

 個別化医療はこれまでも、体に合わせた服を仕立てる意味になぞらえて「オーダーメイド医療」とか「テーラーメイド医療」といった言葉で表されてきました。一人ひとりに適した治療が選択されることは、治癒の確率が高まるだけでなく、効果の期待できない薬による余計な副作用を避けられる利点があります。

 近年、「プレシジョン・メディシン」という言葉が用いられるようになったのには、より高精度の遺伝子解析が可能になったことや、治療薬の開発が進んだことなどを背景に、患者を特徴ごとに分類して適切な治療を選択するシステムを目指そうという意味合いが感じられます。

■オバマ米大統領の一般教書演説

 プレシジョン・メディシンをめぐるトピックとしてよく取り上げられるのが、オバマ米大統領が2015年の一般教書演説で発表した「プレシジョン・メディシン・イニシアチブ」です。2億ドル余りの国家予算をつぎ込み、効果的ながん治療の開発促進、米国立衛生研究所(NIH)によるボランティアの遺伝子や生活環境などの大規模な疫学研究、個人情報保護、遺伝子解析などの規制の整備などを進めるとしています。がんはその具体的な分野の筆頭に掲げられ、遺伝子の臨床研究に基づく国家的ながん知識のネットワークを確立することなどがうたわれています。

 日本でも国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の創薬基盤推進研究事業の研究課題のひとつに、プレシジョンメディスン推進が盛り込まれていますが、取り組みの遅れは否めません。

■増える?治療選択の悩み

 ただ、病気の原因となる様々な遺伝子情報の解析が進んだからと言って、どんな治療を選ぶのか、ゼロか100かで決められるわけではありません。現実には、遺伝情報のうえでは病気のリスクが高いとされても実際の発病の可能性は低い場合や、その逆のケースもあると思われます。病気になる可能性や治療が成功する確率が高い精度で分かったとして、どういう治療を選ぶのか患者の悩みが尽きることはないでしょう。情報が増えることで、かえって悩みは増えることになるかもしれません。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

tamura-400

田村 良彦(たむら・よしひこ)
1986年、早稲田大学政治経済学部卒、同年読売新聞東京本社入社。97年から編集局医療情報室(現・医療部)で医療報道に従事し連載「医療ルネサンス」「病院の実力」などを担当。2017年4月から編集委員。共著に「数字でみるニッポンの医療」(読売新聞医療情報部編、講談社現代新書)など。

田村編集委員の「新・医療のことば」の一覧を見る

1件 のコメント

コメントを書く

いくらぐらいになるんでしょうか

90の親を介護中

問題は金額です。とはいえ、最近は高齢者に高額療養費を掛けるな、といった風潮が出てきているので、90歳の父や55歳の私には結局、手の届かない治療法...

問題は金額です。とはいえ、最近は高齢者に高額療養費を掛けるな、といった風潮が出てきているので、90歳の父や55歳の私には結局、手の届かない治療法なのかな、と思ってNHKスペシャルを見てました。

積極的治療はせず、病気に侵されるままにして緩和ケア病棟で死ぬ、そういう方法を取った方が世の中のためなのかな、と最近は父とそんな話ばかりしています。

つづきを読む

違反報告

すべてのコメントを読む

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、ヨミウリ・オンライン(YOL)、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事