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医療部長・山口博弥の「健康になりたきゃ武道を習え!」

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温冷浴で風邪知らず?

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 武道とは直接関係ありませんが、昨年の11月から「温冷浴」を始めました。

 私の場合、風呂は夜ではなく、朝に入っています。というのも、一人稽古や筋トレを朝に行うため、汗を流してさっぱりしたいからです。夜は、飲みに行くことが少なくないので運動する気になりません。

 朝風呂では、最初に湯船につかり(夏はシャワーのみ)、髪を洗い、ひげをそり、体を洗う。もう1回湯船につかり、あがります。

 ところが、湯船で体が温まると、リラックスして心身が 弛緩(しかん) してしまいます。夜ならともかく、一日が始まる朝に、「さあ、これから仕事モードで頑張るぞ!」という気になりません。

 で、思い出したのが、温冷浴です。

 「思い出した」と書いたのは、私が学んでいる護身武道「 心体育道(しんたいいくどう) 」では、温冷浴を薦めているにもかかわらず、私は入門した2003年以来、数回しかやったことがなかったのです。だって、つらいんですもん。

 この温冷浴は、心体育道が「裏の (さば) き」として取り入れている健康法「ダーマヨーガ」の一部。ダーマヨーガは、インド古来のヨガと、日本で生まれた西式健康法を組み合わせたような健康法で、温冷浴は西式健康法が薦める健康法です。

 冷たい水に1分、温かいお湯に1分、つかる。これを、冷→温→冷→温→冷と交互に繰り返します。冷水浴5回(または4回)、温水浴4回(または3回)が基本。冷水浴で始め、冷水浴で終わります。

 でも、一つの風呂場に浴槽が二つある家庭なんて普通はないでしょうから、どちらかはシャワーで代用すればいい。

 私の場合は、この通りにはやってはいません。普通に体を洗った後に、温かい湯船(水温は43度と高めに設定)→水シャワー→温かい湯船→水シャワーの計4回、しかも30~40秒ずつ、という短いバージョンでやっています。朝の時間は慌ただしいですからね。

 温かい湯につかると血管が拡張して、副交感神経が優位になる(リラックスモード)。冷たいシャワーを浴びると血管が収縮して、交感神経が優位になる(戦闘モード)。これを繰り返すことで、両方の神経、つまり自律神経が鍛えられるらしい。

 温冷浴(温冷交代浴とも)には疲労回復効果があるとして、一部のスポーツ選手らが導入していることが、数年前の本紙にも載っていました。

 さて、冒頭に書いたように、私が温冷浴を始めたのは昨年11月のこと。当時は岩手県の盛岡市で暮らしていたので、11月はけっこう寒い。水のシャワーを浴びるには、勇気が必要でした。

 でも、やってみると、これがいいんですよ。

 暑がりの私は、冬に普通に湯船につかって風呂を出ると、体が温まるのはもちろんですが、汗まで出てしまいます。温まり過ぎちゃうんですね。

 ところが、温冷浴をして風呂から出ると、暑くも寒くもない、ちょうどいい体感になります。体はシャキッとし、脳も覚醒している感じ。たしかに、最初は冷水を浴びている間がつらかったけど、数日で慣れ、今はどうってことありません。岩手県で日帰り温泉に行ったときも、最後は温冷浴で締めていました。今では歯磨きのように、すっかり生活の一部になりました。

 温冷浴の効果としては、血行が良くなって疲労回復にいいとか、免疫力が上がって風邪をひきにくくなるとか、自律神経が整うのでうつ病にもなりにくくなるとか、肌がきれいになるとか、いろんなことが言われています。

 ただ、これらの効果に科学的根拠はありません。言い換えれば、効果があることが科学的に証明されていません。

 ここで言う科学的根拠とは、医学の世界で使われる科学的根拠(エビデンス)のことです。たとえば10人の人が温冷浴を試して、このうち8人が「風邪をひきにくくなった」と医師に伝えても、それは科学的根拠になりません。

 200人の人にくじ引きをしてもらい、AグループとBグループに100人ずつ無作為に分けます。Aグループの100人には毎日、温冷浴を1年続けてもらい、Bグループの100人は何もしないことにします。1年後の免疫力を調べた結果、Aの方がBよりも、統計学的に意味のある差をもって明らかに免疫力が高かった、とか、Aの方が、風邪をひく人数が統計学的に意味のある差をもってBより少なかった、という結果が出れば、「温冷浴による免疫力アップ」には科学的根拠があると言えます(厳密に言えば、こうした研究が複数あって、それらを総合的に分析して、同じ結論に至るのが理想です)。

 しかし、こうした「無作為比較試験(研究)」は、まず実施することが困難です。薬が効くかどうかの臨床試験では、本物の薬を飲むグループと、偽物の薬(プラセボ)を飲むグループに分けるだけので、比較的簡単です。でも、温冷浴を続けるにはそれなりに強い意志が必要なので、脱落者が続出するでしょう。また、続けられた人は、食事制限や適度な運動など他の健康法もストイックに実践しているかもしれないので、仮に免疫力が高くなっていたとしても、純粋に温冷浴だけの効果と言えるのかどうか、判断が難しくなってしまいます。

 このように、1人で実践できる健康法の多くは、科学的根拠を出すことが難しいのではないかと思います。これまで私がこのコラムで紹介してきた「武道による健康への効果」の数々も、科学的に証明されていないことばかりです(ただし、運動による健康への効果については、様々なエビデンスがあります)。

 しかし、「科学的根拠がない」イコール「効果がない」というわけではありません。証明できていないだけですから、もしかしたら効果があるかもしれない。お金がかからず、やっていて気持ち良く、何となく効果が実感できるのなら、やって損はない、と私は考えています。

 温冷浴を始めて、もうすぐ1年。あれ以来、風邪は(たぶん)ひいていませんが、もうすぐ訪れる冬を、私は風邪知らずで乗り越えることができるのでしょうか。

心体育道の準備運動で行う「金魚運動」。上半身と下半身をくねくね動かします。背骨を整える、とされます。

心体育道の準備運動で行う「金魚運動」。上半身と下半身をくねくね動かします。背骨を整える、とされます。

同じく「毛管運動」。手足を小刻みにぷるぷる震えるように動かします。毛細血管を強化して血行を良くする、とされます。

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同じく「合掌合蹠(がっしょうがっせき)」。手足を合わせた姿勢から、斜め45度上方に伸ばしたり縮めたりを繰り返します。左右の筋肉・骨格・自律神経を整える、とされます。

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山口 博弥(やまぐち・ひろや) 読売新聞東京本社医療部長

 1962年福岡市出身。1987年読売新聞社入社。岐阜支局、地方部内信課、社会部、富山支局、医療部、同部次長、盛岡支局長を経て、2016年4月から現職。医療部では胃がん、小児医療、精神医療、痛み治療、高齢者の健康法などを取材。趣味は武道と瞑想めいそう。飲み歩くことが増え、健康診断を受けるのが少し怖い今日このごろです。

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