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自殺防止ミュージカル…追い込まれる痛み歌う

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うつ病経験者が脚本…大切な周囲の理解

 自殺予防をテーマに大学生をモデルにしたミュージカル「つまづいても」が8日と19日、東京都内で上演される。うつ病になり自殺未遂を経験した男性が脚本を手がけた。周りの人が、自殺を図る人の心情を理解して支える大切さを訴える作品だ。

自殺防止ミュージカル…追い込まれる痛み歌う

佐藤さん(右)に演技の指導をする米田さん

 「何のために生きるのか。何のために耐えるのか。どうか私を助けて」。主人公の女子大学生が悲痛な思いを歌い、一線を越えようとする場面だ。生活費や学費を捻出するためにアルバイトに追われる。上司の叱責、就職活動での不安や仕送りの減額が重なり追い込まれていく。

 東京都西東京市で歌の個人指導をする米田愼哉さん(60)が企画し、脚本を書いた。40歳代にミュージカル俳優を育てる教室を運営したが、生徒集めや、事務所の賃料、踊りを教えるスタッフらへの賃金の支払いに苦労した。大学などでも講師として作曲、音楽監督をこなし、連日15時間以上働く一方、同僚らとの人間関係に悩んだ。

 2002年1月。ある朝目覚めると、体が重く、動く気力も湧かなかった。無理に仕事を続けたが、ミスや物忘れが増え「駄目だ」と落ち込んだ。食欲が落ち、おにぎり1個だけの日も。体重は4か月で9キロ減った。未明に目覚め、寝付けない日が続いた。

 常に胸を締め付けられるような息苦しさがつらかった。「死んだ方が楽」。解放されたい一心で、5月に自殺を図った。

 一命を取り留め、精神科を受診するとうつ病と診断された。薬を処方され徐々に回復した。うつ病は自殺のリスクを高めるが、体重の急減や睡眠障害という典型的な症状があっても、自分で気づくのは難しいと感じた。

 自殺防止には、周囲の人が異変に気づいて支えることが大事と考え、NPO法人「社会貢献ミュージカル振興会」を設立、うつ病への理解を深めてもらうミュージカルを企画した。12年が初演の1作目は自ら主演。2作目の今回は若者に焦点をあてた。年間の自殺者約2万4000人のうち、29歳以下が3000人近くに上るからだ。

 大学生らからの聞き取りを基に、嫌がらせのような質問をする「圧迫面接」など、学生が就職活動で経験する場面を入れた。稽古では自らの経験を踏まえ、体が思うように動かない様子や、上の空の表情の表現方法を俳優に伝えた。

 物語の終盤、主人公は家族や友人たちの温かさに触れ元気を取り戻していく。主演の佐藤まりあさん(22)は「主人公が傷ついていく過程を見て、身近に同じような人がいたら思いやれる人が増えてくれれば」と話す。

 監修をした精神科医で早稲田大学教授の堀正士さんは「若者が悩みを相談しやすいのは同世代の友人。友人たちは重要な支え手になる」と強調する。本人の話に耳を傾け、助けたい気持ちを伝えて必要に応じて、医療機関や大学の保健センターに一緒に行く姿勢を示すことが望ましいという。

 ミュージカルでは、一流企業への就職にだけとらわれていた主人公が、新たな目標を見つける過程も描かれる。米田さんは「多様な価値観を持てば、自分を追い込まずに済む」と話す。

  メモ  ミュージカルは8日午後2時と同6時、東京都豊島区の帝京平成大学池袋キャンパス冲永記念ホール(各回先着700人)と、19日午後4時半、新宿区の早稲田大学早稲田キャンパス小野記念講堂(先着180人)で。入場無料。問い合わせは社会貢献ミュージカル振興会(042・421・1154)へ。(米山粛彦)

 (2016年10月5日 読売新聞夕刊掲載)

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