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茂木健一郎×石川善樹スペシャル対談

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茂木×石川スペシャル対談(1)人生100年時代を生き抜く健康法

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 脳科学者・茂木健一郎さんと、予防医学研究者・石川善樹さんが9月13日、「『人生100年時代』を生き抜く脳・心・体の健康法」をテーマに、東京・大手町のよみうり大手町小ホールで対談しました。この対談は、読売新聞東京本社医療ネットワーク事務局の発足記念イベントで、ヨミドクターや読売プレミアムの会員の皆さんなど約160人が耳を傾けました。ここでは、対談イベントの詳報をお伝えしていきます。1回目は対談に先立って行われた、お二人のプレゼンテーションです。

<ゲスト>

茂木 健一郎(もぎ けんいちろう)さん

茂木健一郎120

脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年、東京生まれ。東大大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心を研究。最先端の科学知識をテレビや講演活動でわかりやすく解説している。主な著書に「脳の中の人生」(中公新書ラクレ)、「脳とクオリア」(日経サイエンス社)、「脳内現象」(NHK出版)、「ひらめき脳」(新潮社)など。近著に「成功脳と失敗脳」(総合法令出版)。

石川 善樹(いしかわ よしき)さん

石川120

予防医学研究者・医学博士。(株)Campus for H共同創業者。1981年 広島県生まれ。東京大学医学部卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとして研究し、常に「最新」かつ「最善」の健康情報を提供している。専門分野は行動科学、ヘルスコミュニケーション、統計解析等。近著に「疲れない脳をつくる生活習慣」(プレジデント社)。

人生100年時代における健康づくりとは?…石川さん

パワーポイントでプレゼンテーションする石川善樹さん(9月13日、よみうり大手町小ホールで)=秋元和夫撮影

パワーポイントでプレゼンテーションする石川善樹さん(9月13日、よみうり大手町小ホールで)=秋元和夫撮影

石川 こんにちは。今日はよろしくお願いします。さて、世に出ている健康情報は3種類に大別されます。「ホント」か「ウソ」か「不明」か。ほとんどの健康情報は実は「不明」です。これが本当だとか、これがウソだとか言うためには、ものすごく研究が必要です。ですから、専門家として本当のことだけ言おうとすると、皆さん既にご存知のような「運動すれば(健康に)いいですよ」ぐらいしか言えません。専門家のジレンマなのですが、皆さんが知っていることを言ってもつまらないので、「不明」のことを言わざるを得ないという面もあります。とは言え、「ホント」の中にはキラリと光る面白いものがあります。特に健康づくりは常識が変わろうとしています。

 これまでの健康づくりは一言で言うと、「早死にしないための健康づくり」でした。50歳、60歳の峠をいかに越えるか、そのためには運動だ、栄養だ、休養だという話でした。寿命が延びた現在、80歳、90歳、100歳までどう元気で長生きするか、というのは当時とは要因が全然違ってきています。今日はそういう最新の話をしたいと思います。

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 前回の東京東京オリンピックが開かれた1964年当時は、定年は55歳、平均寿命70歳で、70歳を超えたら医療費は無料という時代でした。「日本は本格的な福祉国家を目指すんだ」と。つまり、「若い頃はしっかり学んで、社会人になったら55歳までしっかり働いてくれ、その後はゆっくり休んでくれ、何かあったら国が面倒を見る」という、1本の「学び、働き、休む」というレールを引いて、日本人はこの国を発展させてきました。しかし、10年ぐらいで医療費無料は無理になった。長生きする人が増えちゃったんですね。

  今がどういう時代かというと、平均寿命は90歳に近くなっています。寿命と定年の差を15歳とすると、今の時代に生きている人たちは75歳が定年となる。ということは75歳を超えて初めて高齢者になり、年金がもらえる時代になろうとしています。平均寿命が90歳ということは、100歳まで生きる可能性がかなり高い。21世紀に生まれた子どもたちの半分以上は107歳まで生きるという統計があります。皆さんの孫や小さいお子さんは、基本的に100歳まで生きることを前提に人生設計をしたほうがいいでしょう。

 私たちはまだ平均寿命70歳ぐらいの人生を引きずっていますが、100歳まで生きるとはどういうことかというと、昔は1回だったことが2回、3回になると考えたほうがいいですね。一生に1つの仕事だったのが、2つ3つの仕事を持つ、「終の住み家」ではなく、家も2、3つ持つ、結婚も2回や3回はすると思います。

老いへのポジティブなイメージが必要

 私たち予防医学研究者は、「100歳まで生きる人にはどういう特徴があるか」という研究を始めました。長寿村は山間部にあることが多く、平地で長生きなのは沖縄ぐらいです。最近は(高齢者が)子や孫の葬式に出るみたいですね。

 ロシアとジョージアの間に位置するアブハズ(アブハジア)という地域では、「お若いですね」というあいさつが失礼にあたります。若さよりも年を重ねることに価値を置いています。「今日は年を取って見えますね」がほめ言葉なのです。皆さんは、どちらを言われるとうれしいか、ということなんです。若さに価値を置いていると、年を取ることはつらいですよね。昔は年寄りが敬われる制度がありました。お祭りは完全に年功序列で、年を取らないと就けない役職がありました。社会の文化、規範として、年寄りを大事にすると、年を取ることにポジティブなイメージを持てるようになります。

出典:Levy et al.Journal of Personality and Social Psychology.2002:83;261-270.

出典:Levy et al.Journal of Personality and Social Psychology.2002:83;261-270.

 「老い」に対するイメージがポジティブな人とネガティブな人では、寿命が7.5年違うという研究があります。タバコを吸うか吸わないかでは寿命は3年から5年違いますが、7.5年というのはより大きな違いです。50歳、60歳を超えた後は、「気持ち」が非常に重要になってきます。それを端的に表しているのがこのデータです。これまでは「これ食べよう」「この運動をやろう」という話が多かった。こうした「早死にしないための健康情報」ではなく、「人生100年をいかに元気に生きるか」ということで、(気の持ち方による寿命の違いを比較するような)こういう情報を目にすることが増えると思います。

 新聞社を持ち上げるわけではありませんが、「新聞を毎日読む人は認知症になりにくい」という研究が日本でも出ています。「認知症になりにくいことは何なのか」については、茂木さんの専門分野かもしれませんが、新聞を読んで頭を使うというのがあったりします。

  もう1つは、テクノロジーが発達して私たちは暇になってきています。せっかく暇になったのに、ただボーッとしている人が増えているのです。暇になった時間をどう使うのか、私たちがよりよく生きるうえで、最大の敵は「暇な時間」なんです。暇な時間に何をするのかが「人生100年時代」の大きなテーマです。

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