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患者と医療者の交流場所を作る進行がんの医師、西村元一さん

編集長インタビュー

西村元一さん(下)金沢マギー、元ちゃん基金…がんが与えてくれた贈り物

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西村元一さん(下)金沢マギー、元ちゃん基金…がんが与えてくれた贈り物

現在月3回、仲間が住む金沢市内の町家2階を借りて開いている「金沢マギー」。誰でもふらりと予約なしで来て、お茶を飲みながら、治療のこと、生活のことなどを語り合う

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「金沢マギー」の会場となっている町家

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患者の声に耳を傾ける西村さん

 金沢市内の築100年近い町家で、がん患者や医療者ら約20人がテーブルに輪になって語り合っている。西村元一さん(58)が代表を務めるNPO法人「がんとむきあう会」が月に3回開く、患者交流会「金沢マギー」の日だ。

 現在、抗がん剤治療中というマスク姿の男性が治療の選択に迷った悩みを語り始めると、そばに座っていた西村さんらが「治療はすべてうまくいくわけじゃないから、納得して選ばないとね」と耳を傾ける。話を聞いてもらううちに、男性は今の治療を受け続ける気持ちが固まり、「主治医の話の意味がわかるようになるし、頭の中が整理されるので、こういう話せる場所があるのって大切ですね」と、こわばっていた顔に笑みが浮かんだ。

 「特に予約をしなくても、ふらっと寄り、誰かが話を聞いてくれて、時には医療の相談もできる場所が街中にあったら、患者はどれほど安心するか。医師でもあり患者でもある僕のほか、歯科医師、看護師、管理栄養士、薬剤師など様々な医療職の仲間が参加しているのですが、白衣を脱いで同じ生活者として語り合う。がんを病むと、病院内では『患者』として扱われますが、病院の外では生活者としていろいろ不安を抱えているわけですから、治療の問題以外にも、食事や生活の工夫などを語り合え、生活者として患者と医療者、患者同士がつながる場所があったらと思うのです」と西村さんは「金沢マギー」の意義を語る。

 きっかけは、2010年に金沢市内で開かれたがんの市民公開講座だった。そこで初めて、イギリスのがん患者支援施設「マギーズセンター」の存在を知る。「がんとなっても一人の人間に戻れて、生きる喜びを感じられる家庭的な安息の場所を」という乳がん患者、故マギー・ジェンクスさんの遺志を継いで造られ、イギリスを中心に国内外に広がっている施設の紹介だった。10月10日には、東京都に国内初のマギーズセンター「マギーズ東京」もオープンした。

 「その時はまだがんではなかったのですが、『こんな施設が金沢にもあったらいいね』と仲間たちと語り合ったのです。2008年に赤十字病院に赴任してから、「がんとむきあう会」の前身となった在宅緩和ケアを考える会を作っていたのですが、その仲間と一緒に年に1回程度、『金沢一日マギーの日』というイベントを開き、講演会をしたり、一緒にヨガをしたり、がんでも食べやすい食事をみんなで作って食べたりなどをしていました」

 実は、がんになる前から、がん患者を診る医師として、西村さんにはある問題意識があった。国の医療政策で在院日数は減り、外来で通院しながら治療する患者が増える中、「病院外で、患者は不安がある時にどのように対処しているのだろう」という問題意識だ。それを考えるきっかけとなった患者がいた。

 「大学病院にいた時からずっと診ていた女性の大腸がん患者さんだったのですが、再発を繰り返していろいろな症状が出るし、食事の悩みにしても、ちょっとした腰の痛みにしても、よく電話をかけてきたり外来に相談に来たりしていました。そういう不安にずっと耳を傾けていると、 膀胱(ぼうこう) や尿管に再発したという発見にもつながりました。普段から何げない症状の変化や、困りごとにゆっくりと耳を傾ける場というのが必要だとその頃から考え始めていました」

 2010年に「マギーズセンター」を知り、13年にはロンドンのマギーズセンターを見学もした。地元に帰って、「金沢にふさわしいマギーズセンターは?」という議論を重ね、「本家本元のように立派な箱物を建て、きちんとしたカリキュラムでよく教育された専門看護師を雇うとなるとハードルが高い。こじんまりとした町の金沢らしく、既存の建物を使って気軽に集まることのできる交流場所を」というイメージに固まっていった。ゆっくりとそんな議論を進めているうちに、西村さんに進行したがんが見つかった。

 「自分ががんになって改めて、本当にマギーのようなものががん患者に必要なのだろうかと、一緒に活動をしていた妻と話し合ったのです。妻も初期の膀胱がんを患った経験があり、医療者でもある立場でそういうところに行くだろうかと真剣に議論しました。医療相談は、直接知り合いの医療者にするだろうから必要ないかもしれないけれど、治療の過程で落ち込んだり、家族の立場でつらいことがあったりした場合は、話し相手が欲しいし、家族だけでは煮詰まってしまうかもしれない。落ち着ける雰囲気だったり、一人でいたい時は一人でもリラックスできる場所ならば行きたいねということで一致したのです。2人がそう思うなら、ほかのがん患者さんや家族も必要だろうと仲間も本気になり、まずは『金沢マギー』を本気で一つ造ろうと計画が加速度を増していきました」

 まずは、昨年12月から仲間が住む町家の2階を借りて月3回、冒頭で紹介した「金沢マギー」を開き、その後、平日は毎日開いている常設の拠点を作るために、地元の企業が市内にある4階建てのビルを貸してくれることになった。ビルの改装費やスタッフの人件費確保のために、3月には「元ちゃん基金」を創設した。

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岩永直子(いわなが・なおこ)

1973年、山口県生まれ。1998年読売新聞入社。社会部、医療部を経て、2015年5月からヨミドクター担当(医療部兼務)。同年6月から2017年3月まで編集長。

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