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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

yomiDr.記事アーカイブ

オックスフォード大学で同窓会、5年間の留学で得たものは…

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 今日は、イギリス短期旅行記です。僕はオックスフォード大学大学院に5年間留学し、そこで博士号を取りました。今回は3年に一度の医学部卒業生のための同窓会があり、3年前に受賞したイグ・ノーベル賞についての講演をしてきました。

 オックスフォード大学はノーベル賞受賞者を50人以上、イギリスの首相を27人輩出しています。オックスフォード大学は約40のカレッジからなる組織です。僕が所属していたのは「Wadham College」でした。そして皇太子さまが留学していたのが「Merton College」、皇太子妃の雅子さまが留学していたのが「Balliol College」です。そのWadham Collegeの医学部、および医学系大学院の同窓会が3年ごとにあり、そのための渡英でした。

 

飛行機でも…一球ごとの速報に熱狂

 出発は9月28日水曜日で、昼前に羽田発の飛行機で出発です。今年の3月に娘が突然、野球を見たいと言い出して開幕戦を観戦し、にわか野球ファンになった僕です。そして前日にはパ・リーグの優勝が決まらず、「マジック1」で迎えた水曜日でした。この日は大谷翔平投手が先発予定で18時から試合開始です。絶対にテレビで生中継を見たい試合ですが、機上で試合経過をライブで追うことは諦めていました。ところが、なんとWiFiが機上でも (つな) がるそうです。残念ながら動画を見るまでの通信速度はまったく望めませんが、メールなどはほぼ問題なく読めるそうです。日本時間の18時、試合開始の時間に、一球毎の速報に接続できました。野球場を想像しながら速報に熱中するのも本当に楽しかったです。結局、大谷翔平投手は1安打、1四球、15奪三振、二塁を踏ませることなく、完封勝利を収めました。そして日本ハムファイターズの優勝です。機上でのいい思い出になりました。

 

「イグ・ノーベル受賞」を講演

 イギリス時間の16時(日本時間の深夜)にヒースロー空港に無事着陸、18時に英国人の知人宅に到着しました。その後、ロンドンで仕事をして、金曜日にオックスフォードに入りました。宿泊はWadham College内の宿舎です。1610年がWadham Collegeの創立年ですが、その時にできた建物の4階が今回の宿舎でした。

 土曜日の14時から17時半まで、歩いて10分のところにある医学教育センターの講堂での記念講演会です。医学教育センターとは医学部の学生が勉強するところで、各Collegeに所属している医学生はみんなここに集まって基礎的な勉強をするのです。そして、高等教育はそれぞれの専門分野がある建物で行われます。臨床教育は、僕が5年間過ごしたJohn Radcliffe 病院などで行われます。

 15時からが僕の講演で、3年前のイグ・ノーベル賞の受賞に至った経緯などを含めてお話ししました。環境因子が免疫に与える影響を調べたなかの一つの実験が受賞となった論文で、ある音の刺激が免疫制御細胞を誘導するというものでした。その音で一番効果があったものがオペラ椿姫だったので、「とても面白く、そして考えさせる研究」というイグ・ノーベル賞の意図に合致し、受賞に至りました。同じように、匂いでも免疫制御細胞は誘導されました。これらの実験はマウスの心臓移植モデルを用いたものですので、この結果が同じように人に当てはまるかは実は不明です。しかし、マウスはたくさんのヒントを与えてくれます。

 確かに、たくさんの臨床を長く行っていると、同じ病気で、同じ治療をしているにもかかわらず結果が異なることがしばしば起こります。個体差だとも言えますが、実はいろいろな環境因子が免疫にも影響を及ぼしている可能性が高いのです。環境因子などは 些細(ささい) なものかもしれません。しかし、そんな些細なことの積み重ねが実は大きな差になると、長く臨床を経験していると思えるのです。僕の講演は無事、盛況のうちに終了しました。

 

ハリー・ポッターそのままの世界で…

 現役学生の数分間の講演のコーナーもありました。南米での研修、スリランカでの医療実習、ボストンでの経験などを簡潔にプレゼンしてくれました。そのなかで、ボストンのハーバード大学で研修した女子学生が、忙しい実習の合間にフェンウェイパークで大リーグ・レッドソックスの試合を見に行ったというスライドがありました。そして、そのボールパークの雰囲気がとても楽しかったと言っていました。イギリスには野球の元祖と言われるクリケットがありますが、野球はまったく普及していません。でも野球場の雰囲気は、ハーバード大学での研修と同じようにインパクトがあったのですね。なんだか (うれ) しくなってしまいました。

 夜はWadham Collegeで「ブラックタイ」のドレスコードでパーティーです。ハリー・ポッターの世界がそのままです。400年前に作られたCollegeの食堂で、黒のスーツで、黒の (ちょう) ネクタイを着けてのディナーです。僕は講演者だったので、ハイテーブルでした。ハイテーブルはハリーポッターなどでは一番奥で校長先生などが座っている一段高い場所です。通常はローテーブルには学生が座り、ハイテーブルにはランクの高い教員が座り、出てくる食材もまったく異なります。しかし、この日は全員に同じ特別なコースが振る舞われました。本当に良い思い出になりました。

 ちょうど10月はイギリスの新学期です。前日は卒業式が行われたのでしょう。オックスフォード大学の卒業式は年に何回も施行されます。特別なガウンを着て卒業式に臨みます。僕は1998年に卒業式に出ました。取得した学位はDoctor of Philosophy というもので、 DPhil と略されます。僕と同じ時期にオックスフォードに留学したアメリカの友人などは、アメリカでの博士の称号であるPhDとは記載せず、あえてDPhil と記載しています。Doctor of Philosophyとは直訳すれば、哲学博士です。しかし、これがオックスフォードでは通常の大学院博士課程での最高学位なのです。卒業式のガウンもDPhil取得者は赤と紫のものを着用します。入学時の黒のガウンとはまったく異なっているのです。満面に笑みを浮かべるそんなガウンを羽織った卒業生に会う度に、つらかった5年間を思い出しました。

 そして翌日、帰路につきました。今回は機上でWiFiには接続せず、映画を見たり、今後のことを思案したりしました。あっと言う間の片道12時間のフライトと、あっと言う間の4泊6日の渡英でした。僕がいろいろな物事をできる限りフェアに、そして正しく判断しようと試みたり、また、しっかりした理由があってのことか否かに気を配り、そして違った側面からも思考できる姿勢はオックスフォードで得られたものだと思っています。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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