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喪失感、お遍路で克服…妻をがんで亡くした専門医・垣添忠生さん

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「グリーフ・ワーク」実践の記録

 大事な人を亡くした悲しみや喪失感から、どう立ち直るか。自分の努力で立ち直る「グリーフ・ワーク」を昨夏、お遍路で実践し、その記録をまとめた「巡礼日記」(中央公論新社)を8月に出版した日本対がん協会会長の垣添忠生さん(75)に、話を聞いた。

喪失感、お遍路で克服…妻をがんで亡くした専門医・垣添忠生さん

昨年8月、高知県土佐清水市の金剛福寺(38番札所)での垣添さん(垣添さん提供)

 グリーフとは英語で悲嘆。精神的に立ち直るために自ら行う癒やしの作業がグリーフ・ワークだ。

 垣添さんは2007年末に、妻の昭子さんをがんで亡くした。自ら国立がんセンター病院で手術部長、院長、総長、名誉総長を歴任したがんの専門医だけに、「がんに負けた」という無力感とつらさは一層大きかったという。

  ―― 今になってお遍路。理由は何ですか。

 「7年たっても心の奥深くに悲しみが残っていて、時折頭をもたげます。やるからには最も過酷な状況でと、2015年夏に行くことにしました」

  ―― 亡くなられた当時は、つらかったのですね。

 「妻は40年来の人生の伴走者。子どもはいなかったので、片腕をもぎ取られたような喪失感がありました。それを埋めるべく、毎日心の中で何千回も妻と話をしていました。妻の死から3か月間は、帰宅してはアルコール度数の高い酒を飲み、自分を責めては泣いてばかりいました。体重も減り、『死ねないから生きている』という状態でした」

  ―― どのように立ち直りましたか。

 「どん底まで悲しみ抜いたことで、うつのような症状は時間とともに改善し、百か日法要が過ぎた頃には『情けない姿を見て、妻が悲しんでいるに違いない。積極的に生きよう』と考えるようになりました。規則正しい生活に戻そうと食生活も改め、毎日1万歩以上を歩き、腕立て伏せ60回、背筋50回、腹筋200回を始めました。現在は腕立て伏せ、背筋各100回、腹筋500回と回数を増やして体を鍛えています。気持ちも前向きになり、悲しみを忘れるために居合道、本格的な登山なども始めました。妻の死から1年後には見かけ上は普通の生活に戻ることができました」

  ―― 7月27日から25日間、徳島から高知まで600キロを歩かれました。

 「ふだんから週2回、居合道の稽古に打ち込み、体力には自信がありましたが、焼けたアスファルトの上は 灼熱しゃくねつ 地獄。荷物を背負うと歩くのも大変で、初日に23キロ歩くと全身筋肉痛でした。1週間ほどして体が慣れてくると、気持ちを整理する余裕も生まれます。亡き妻と一緒に歩いていると思うと、慰霊という気持ちは、すぐに感謝に変わりました。つらい経験も妻とともに、という感覚です」

  ―― 立ち直りで大切なことは何ですか。

 「時間が必要です。悲しいという気持ちと死という現実を受け入れることや、真剣に取り組める趣味などを見つけることも大事です。私の場合、知識があったので一人で立ち直れましたが、専門的な支援も必要です。男性は『人に助けを求めない』傾向がある。病院での医療は患者が亡くなって退院する時点で終わりますが、家族の悲しみ、苦しみはそこから始まります。日本で年間約20万人ががんで配偶者を亡くすことを考えると、残された遺族の心のケアは、医療の延長線上にある重い問題だと思います」

  かきぞえ・ただお  1941年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒。泌尿器科がんの治療が専門だが、すべてのがん種の診断、治療、予防に幅広く関わってきた。自ら大腸と腎臓のがんも経験(いずれも手術後再発なし)した。患者、患者家族という立場からも、がん政策に携わっている。(山田聡)

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