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[シンポジウム「腸内環境から未病を考える」](2)基調講演

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病気予防に強い味方、免疫細胞と菌一生の関係…東京大学医科学研究所 国際粘膜ワクチン開発研究センター長・清野宏さん

 

[シンポジウム「腸内環境から未病を考える」](2)基調講演

清野宏さん

 ■ 共生の場

 この70年ぐらいで日本人の平均寿命は女性で33歳、男性は31歳と大幅に延び、100歳以上の人は6万人を超えたという報道があります。最近、米国の雑誌が「これから生まれる子どもは142歳まで生きるのでは?」という特集を組みました。

 その一方で、健康でいられる健康寿命と平均寿命の間に10~13年のギャップがあります。また、我が国の医療費は年41兆円を超えました。142歳時代を考えた時、医療費はじめ財政状況がどうなるか、心配ですよね。

 そこで健康寿命を延ばす「健康長寿」という考え方が重要になって来ました。私たちが研究する腸管での免疫、そこに一緒に生息するたくさんの微生物の視点からどうアプローチできるかを紹介します。

 腸は栄養を吸収する消化器です。最近では、体を守る免疫という働き、そして、微生物との共生の場という役割を担っていることもわかってきました。

 私たちの体を単純化すると、筒のような形をしています。筒の外側は皮膚に覆われ、内側は口・鼻から肛門までねばねばした粘膜で覆われています。

 その粘膜面は呼吸や栄養の吸収を行う一方で、病原体の侵入路にもなっています。その中で腸は10~15メートルのチューブのような形をしていて、内側はひだひだ状になっています。このひだひだの合間に、ドーム形でぎっしりと免疫担当細胞の詰まったリンパ節のような組織があります。「パイエル板」と言います。

 パイエル板には、司令塔となるT細胞、病原体を殺す弾丸である抗体を作るB細胞、病原体情報を処理・伝達する樹状細胞、ナイフで悪者を刺し殺すような殺傷能力を持つキラー細胞などさまざまな免疫担当細胞が詰まっています。

 ここでは、入って来た病原体などを排除するだけでなく、善玉菌に対しては活動しやすいように免疫を抑え、共生関係を作ります。右手でパンチしながら、左手で頭をなでるような巧みなバランスが取れたシステムです。

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 ■ 増える悪玉

 腸内細菌の話をします。私たちの腸管には、100種類以上の細菌がお花畑のような状態で種類ごとに生息しています。これを腸内フローラ(花畑)と呼びます。

 最新の研究では私たちの体の細胞の数は約37兆個と言われ、体の設計図と言われる遺伝子は2万3000個です。一方で腸内細菌の数は100兆個、遺伝子は300万個で圧倒的にこちらの方が多いのです。

 こうした腸内フローラは私たちが生まれてから死ぬまで一緒に生き続ける重要なパートナーで、私たちは「もう一人の自分」という考え方をしています。

 腸内細菌は、有益な善玉菌、体に悪さをする悪玉菌、そして普段は良い子ぶっているが免疫が弱ってくると悪さを始める日和見菌の三つのグループに分けられます。

 善玉菌は私たちの体がつくれない一部のビタミンなどの栄養素、酪酸や乳酸、酢酸など抗菌作用のあるものを作ってくれます。善玉菌の代表格ともいえるビフィズス菌は腸管免疫を向上させる働きがあるようです。これを人に飲ませると、インフルエンザの発症率や発熱率を抑えるというデータも報告されています。

 善玉、悪玉、日和見菌のバランスが良ければ健康です。しかし、加齢でそのバランスは動いてきます。食べる物の変化、過剰なストレス、そして免疫も弱ってきますから当然です。赤ちゃんの時にたくさんいるビフィズス菌はどんどん減り、悪玉菌は増えていきます。光岡 知足ともたり ・東大名誉教授の先駆的な研究があり、腸内フローラは世界で最も注目される研究領域になっています。

 健康長寿社会に向けて、体の健康状態だけでなく腸内フローラの状態を把握してコントロールすることが大切になってきます。

 そのためには「スマートトイレ」の開発も重要です。トイレが、出したふん便を瞬時に解析してくれて、どんな細菌がいるのか、腸内フローラの状態がどうなっているかわかるというものです。これに唾液や血液、食事の好みのデータなどと組み合わせたヘルスビッグデータをスーパーコンピューターや人工知能が解析して、「こんなヨーグルトを食べた方がいいよ」などという情報がスマホで見られるような時代になって来ます。

 皆さんが個人レベルで真に健康を理解し、維持するシステムを作っていくことが大事だと思います。

 < 健康寿命 > 一生のうちで日常生活を支障なく送れる期間。2000年に世界保健機関(WHO)が提唱した。厚生労働省が国民生活基礎調査などを基に算出した、日本人の健康寿命(13年時点)は男性が71.19歳、女性は74.21歳。平均寿命(15年時点)は男性80.79歳、女性87.05歳。その差は男性9.60歳、女性で12.84歳になる。

 ◇ きよの・ひろし  1953年生まれ。77年、日本大学松戸歯学部卒。米アラバマ大学バーミングハム校医学系大学院博士課程を修了。2002年から東京大学医科学研究所教授。同所長を経て、11年から現職。

 (2016年9月30日 読売新聞朝刊掲載)

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