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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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ハイビームで事故が防げる? そう考える前に…

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 今日は、物の考え方のお話です。

 まず、 「ハイビーム使用を…横断死亡96%が『下向き』」 という記事について考えてみましょう。

 昨年1年間で夜間に道路を横断中、車にはねられた死亡事故は625件で、そのうち597件、つまり96%の車のライトがロービームだったそうです。警察庁は「ハイビームを使っていれば防げた事故もあるとみており、秋の全国交通安全運動の重点項目としてハイビーム使用を呼びかける」そうです。

気になる車の速度

 ロービームは40メートル先までしか照らせませんが、ハイビームは100メートル先まで照らせるそうです。「警察庁の担当者は『ハイビームが目に入るとまぶしいため、ロービームで走行する人が多いとみられる。その遠慮が死亡事故につながってしまっている』と分析」しているそうです。そして「ヘッドライトの使い分け方について、道交法52条は、対向車や前を走る車があり、そのドライバーにハイビームの光がまぶしく安全な交通を妨げる恐れのある時は、ロービームを義務づけているが、同庁の担当者は『歩行者を早く発見するために原則ハイビームで運転し、明るく対向車が多い市街地では、状況に応じて切り替えてほしい』」と話しています。

 まず、「ロービーム以下」での死亡事故は、つまりロービーム597件に、補助灯6件、無灯火13件を加えると616件で、98.56%となります。実は、ハイビームでの死亡はたった1.44%しかないのです。ハイビームにすれば横断死亡事故が減らせそうに思えます。

 では、警察庁のこの論調は正しいのでしょうか。そして、ハイビームにすれば交通事故全体の死亡率を低下させることはできるのでしょうか。

 気になるのは、横断死亡事故と車の速度との関係です。ハイビームかロービームかまで把握しているのであれば、速度も把握できていると思います。制限速度で走行していたのか、それとも何キロオーバーで走っていたのかなどが気になります。

ハイビームが事故誘発も

 最近のヘッドライトは性能がよいものが多く、ハイビームは対向車にとって相当まぶしいですね。歩行者にとってもまぶしく、自転車にとっては、とんでもなくまぶしいのです。僕の趣味がロードバイクなので、それがよくわかるのです。夜間にハイビームの車と自転車で走行中にすれ違うと、はるか遠くからでも、目が潰れそうになります。いっそ夜間 でもサングラスを着用したくなるのです。

 ロービームでは、横断歩道を渡る人に気がつくのに遅れるというのは、当たり前のことです。だって夜に運転するのですからね。そうであれば、夜は昼間よりも車速を落として運転すれば、より安全になるように思えます。横断する歩行者が見えるようになっても、その明るすぎるライトは車道の脇の歩道を歩いている歩行者、車道を走る自転車、そして自動車にはまぶしすぎるとも思えます。ハイビームによって目が (くら) んで、かえって交通事故の頻度が上昇するようにも思えるのです。つまり、歩行者の死亡事故は減っても、他の死亡事故が増加する危険があるように思います。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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