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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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ハイビームで事故が防げる? そう考える前に…

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がん検診率と死亡者数の関係

 同じような論調は医療でもあります。例えば、「がん検診率が低いから、がんの死亡率が高いのだ」という論調です。確かにがん検診率を上げれば、がんを早期発見できる機会は増加するでしょう。そして直感的に、がんが早期発見されれば、がんの死亡者が減りそうに思えます。都知事選のある候補者も同じような発言が第一声でした。でも、それが本当かどうかは、なかなかわからないのです。

 以前にも紹介した カナダの25年に亘る研究 では、40歳から59歳の9万人近い女性をマンモグラフィーというお乳のレントゲン検査と触診を毎年行う群(マンモグラフィー群)と、マンモグラフィーは行わずに触診だけを行う群(触診のみ群)に分けたところ、マンモグラフィー群では4万4925人中666人に乳がんが発見され、触診のみ群では4万4910人中524人に乳がんが見つかりました。確かにマンモグラフィーを加えた方ががんの発見数は増加します。しかし、亡くなった患者さんは、マンモグラフィー群で180人、一方の触診のみの群では171人でした。つまり、ほぼ同数ですね。詳細は原文を見ればわかりますが、結論は、マンモグラフィーの検診はこの臨床研究からは意味がないということになります。

 つまり、直感的にいいと思えることが本当にいいのかどうかは、実はわからないのです。

CT検査、発がんの要因にも

 肺がんなどは、胸部単純X線検査ではなかなか早期発見ができません。胸部CTスキャン検査ではより早期にわかります。では、全員が胸部CT検査を受ければ早期がんをすべて発見できるのでしょうか。もし発見できるのであれば、何年ごとに、または何か月ごとにCT検査を行えばいいのでしょうか。毎年、胸部CT検査をしていても、肺がんで亡くなる人もいます。そうであれば、毎月、胸部CT検査を受ければいいのでしょうか。それでは、過度の放射線を浴びて、かえって発がんの要因になりそうです。どこまで早期に見つければメリットがあるのでしょうか。むしろ、 煙草(たばこ) を吸っている人が禁煙するほうが、全体の肺がん死亡者数の抑制には効果的とも思えます。より明るい走行環境を求めるハイビーム作戦よりも、夜間には速度を落として運転するほうが効果的に思えることと似ています。

 夜間の道路横断で1年間に625人が亡くなっている事実に (かんが) み、それを減らすためにはどうすればいいのでしょうか。ハイビームにすることも選択肢のひとつかもしれません。誰もいないような田舎道を走るときはハイビームでしょう。

 しかし、僕には「ハイビームが基本だ」という指導には、弊害の方が多いように思えます。むしろ、横断歩道周辺や交通事故が多発している場所では、夜間の制限速度を昼間の10キロから20キロ減にすればいいように思えます。また、歩行者にも「夜間の道路の横断は、車からは歩行者が見えていない可能性がある」ことを周知徹底して、歩行者も気を付けて渡るようにすべきです。可能であれば、夜間の歩行は蛍光反射板をどこかにつければよく見えますよね。

 直感として良いことと、全体を顧みて、僕たちにとって本当に意味があることは同じではないかもしれない、というお話でした。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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