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知って安心!今村先生の感染症塾

医療・健康・介護のコラム

麻疹の流行~今、考えるべきこと

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麻疹の流行~今、考えるべきこと

 麻疹(はしか)の広がりが大きな問題となっています。関西空港での集団発生は、報道でも多く取り上げられ話題となりました。また、空港で感染した人をきっかけに、兵庫県などでも複数の感染者が発生しています。その中には、空港の職員だけでなく、医師や救急隊員も含まれていました。

 実は、空港に関連した流行より前にも、千葉県で麻疹の発生が続いていました。そして、それ以外にも海外渡航先に発症する散発例が、引き続き報告されています。私たちは、この麻疹の流行から何を学ぶべきなのでしょうか。今回は、この重要な課題についてお話ししたいと思います。

麻疹…知っておきたいポイント

 まず、麻疹について知っておきたいポイントをまとめておきましょう。

  • 強い感染力があり、空気感染する
  • 10日程度の潜伏期間がある
  • 症状の軽い初期が最も感染しやすい
  • 合併症による重症例や死亡例もある
  • ウイルスを直接治療する薬がない
  • ワクチンで予防することができる

 麻疹は感染力が非常に強く、空気感染によって広がっていきます。発症した初期には鼻水、喉の痛み、 せき などの軽い症状の時期(カタル期)があるのですが、実はこの頃が最も感染力の強い期間となります。また、10日間程度の潜伏期間があるため、感染した人が発症する時には、すでに各地へ移動している可能性もあります。

 麻疹には、症状の重い人も多くいます。例えばインフルエンザでは、多くの患者は自宅療養が可能です。しかし麻疹の場合には、症状が重く入院を必要とすることも度々あります。また、重い肺炎や脳炎などを合併して、死亡することや、回復しても後遺症を残す場合もあります。

 医療が進歩した現代でも、麻疹ウイルスを直接治療する薬はありません。したがって、ワクチン接種によって少しでも発症しないようにしておくことが、麻疹への重要な対策であると考えられているのです。

かかって免疫をつける?

 麻疹に感染すると、体の中に麻疹に対する抵抗力(免疫)ができ、2回目の発症を避けることができます。では、「麻疹にかかってしまって免疫をつければいい」という考えは正しいのでしょうか。

 この質問に対する医師としての回答は 「NO!」 です。自分はこれまで、感染症を専門とする医師として、麻疹を発症した成人を多く診療してきました。たとえ成人であっても、麻疹による高熱と発疹は厳しい症状です。直前まで元気だった若い大人でも、ぐったりして入院を必要とすることが度々あります。

重篤な合併症を起こすことも

 麻疹は、原因となるウイルスに対する直接の治療薬がない上に、肺炎や脳炎などの重篤な合併症を起こす可能性があります。また、妊婦が感染してしまうと、早産や死産の原因となる可能性があります。

 さらに「亜急性硬化性全脳炎(SSPE)」という合併症も まれ )に起こることがあります。これは、麻疹に感染してから数か月から数年の経過で、徐々に脳神経症状が進行して死亡する重い病気です。その初期には、集中力や記憶力の低下、性格変化、異常行動、歩行異常などが出現し、徐々に知的障害や歩行障害が進行していきます。そして最終的には、意識レベルが低下して、自発的な運動もなくなってしまいます。

麻疹はかからない方がいい

 麻疹は、世界の長い歴史の中で、多くの人々の命を奪ってきました。過去には、麻疹によって人口の何割かを失ってしまった地域や、ほとんど壊滅状態となってしまった島の記録なども残っています。

 日本でも、麻疹は「命定め」とも呼ばれていた感染症です。自分はこれまでにも、麻疹によって入院した多くの方々の診療を行い、重症の肺炎で人工呼吸器管理となってしまったり、脳炎によって後遺症が残ってしまった例なども経験してきました。このような患者さんを診療してきた医師として、決してみなさんに同じような経過をたどってもらいたくないのです。

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今村顕史(いまむら・あきふみ)

がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長

石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。著書に『図解 知っておくべき感染症33』(東西社)、『知りたいことがここにある HIV感染症診療マネジメント』(医薬ジャーナル社)などがある。また、いろいろな流行感染症などの情報を公開している自身のFacebookページ「あれどこ感染症」も人気。

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