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知って安心!今村先生の感染症塾

医療・健康・介護のコラム

麻疹の流行~今、考えるべきこと

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日本における過去の麻疹

 日本が麻疹に対して、これまで全く無策だったのかというと、それは違います。我が国でも、1950年代には推計で年間10万~数十万人もの人が麻疹に感染していたともいわれています。しかし、日本における定期ワクチン接種が1978年より開始されたことで、子供を中心に麻疹の報告数は徐々に減っていきました。ただし、この頃の麻疹ワクチンは、1回のみ接種するというのが一般的でした。

 それでも2007年には、免疫のない10~20歳代を中心に、麻疹の大きな流行が起こっています。麻疹が全数報告を義務づけられた2008年でも、まだ年間で約1万人の麻疹患者が報告されていました。そして残念ながら、他国からは「日本は麻疹の輸出国」とまで言われていたのです。

麻疹ワクチンは2回接種が基本に

 その後、幼小児に対してはワクチンの2回接種が行われるようになりました。麻疹のワクチンは、1回の接種で免疫がつくのは約95%とされています。また、1回だけでつけた免疫は、成長とともに再び免疫が下がることもよくあります。したがって今は、麻疹ワクチンは2回接種することが基本となっています。

麻疹の輸出国から輸入国へ

 子供の2回接種を徹底したことで、麻疹の報告数はさらに減少しました。そして2015年3月27日に、日本の麻疹は「排除状態」になったと宣言されました。排除状態というのは、日本に定着している麻疹の発生がなくなったことを意味します。しかし、世界には麻疹が多く発生している国々が残っているため、それらの国へ渡航して麻疹に感染する可能性があります。日本は、麻疹の輸出国から輸入国へと変わってきていたのです。

子供の感染症から、大人の感染症へ

 麻疹は、今まで感染したことがなく、ワクチン未接種、あるいは1回のみ接種という人が、特に感染しやすい人となります。これまでの経過から、日本における麻疹は、子供の感染症から、大人の感染症へと変わってきています。現在は26~39歳の大人にワクチンを2回接種できなかった人が多くいます。また、その前後の世代にも、ワクチンを接種していない人、1回しか接種していない人など、まだ麻疹にかかりやすい人が多く残っています。そして、今回の麻疹の流行も、このような世代を中心に起こってしまいました。

千葉と大阪での麻疹流行

 以下のページにある、麻疹の流行状況と遺伝子型を示した日本地図をごらんください。

 http://www.nih.go.jp/niid/images/iasr/rapid/meas/150811/masin6_160920.gif

 一番上の日本地図が今年の状況となっています。(クリックすると拡大表示されます)千葉で発生した集団発生は、右から3番目の「D8」という遺伝子型が中心でした。そして、関西空港における集団発生は一番右の地図にある「H1」という遺伝子型となっています。「D8」はインドネシアなどで、「H1」は中国などで流行している麻疹の遺伝子型です。

流行はどこでも発生する

 このように、今年に発生した麻疹の中には、異なる感染ルートと考えられる例が混在していることがわかります。現在の麻疹は、輸入感染症として、いつどこで起こってもおかしくはありません。そして、その周囲に免疫をもっていない人が多くいれば、地域的な流行が始まってしまいます。

麻疹流行とワクチン不足

 今回の麻疹流行をきっかけに、ワクチン接種の希望者が急増しました。その結果、医療機関の中でもワクチンの入手不足が生じています。毎年のワクチン生産量は、「定期接種の対象者数と前年までの他の対象者の接種量」から推計して決められています。したがって、急激な増加に対して、超短期間に国内での生産量のみで対応するのには、もともと無理があったのです。

同じことを繰り返すべからず

 2007年には大学生などを中心とした「麻疹」の流行がありました。その後に、もっと成人への対策をすすめていたら、今ほどの流行は起こっていなかったかもしれません。また、2013年には全国で「風疹」の大流行も起こりました。風疹のために打つMRワクチンには、麻疹のワクチンも含まれています。もしも、風疹のワクチン接種がもっと行われていたら、今回の麻疹の流行状況も変わっていたかもしれません。

 喉元過ぎれば熱さを忘れる――ではいけません。過ぎた時から、次への準備は始まっているのです。

今、求められる対策

 今起こっている、輸入感染をきっかけとした麻疹の集団発生は、これからも起こる典型的な流行パターンを示しています。パターンが決まっているのであれば、それに合わせた対策を立てることが必要です。

 今の定期接種だけでは、成人の流行を減らすことはできません。今回は空港でしたが、次はあなたの会社や施設かもしれないのです。空港、病院、レジャー施設、会社など、人が多く集まる場所では、麻疹にかかりやすい人を減らしておくことが大切です。

 流行のパターンが変わっているのですから、子供を定期接種とするのみで、成人は現場にまかせるという、今までの対策を継続するだけではいけません。会社や個人の努力にまかせるだけでなく、国や自治体からも、社会啓発活動だけでなく、企業との連携や、接種者の費用負担を補助するなど、成人の接種促進への援助を行っていくことが求められています。

緊急時の対応計画も必要

 また、どんなに接種をすすめても、小さな流行が発生する可能性は常に残ります。したがって、流行が起こってしまった緊急時に、定期用のワクチンが不足しないような仕組みをつくっておく必要があります。

 このような緊急時には、輸入のMMRワクチン(おたふく風邪、麻疹、風疹の混合ワクチン)(注)を接種する方法があります。しかし、ワクチンの使用期限が比較的短く、緊急時の必要量も予想できないことから、対応できる医療機関は限られているというのが現状です。これについても、緊急時のためのMRワクチン予備確保や増産体制の構築、行政によるMMRワクチンの緊急輸入、あるいは緊急輸入する医療機関への補助など、しっかりとした行政のバックアップ体制をつくり、柔軟に対応できるようになることを切に望みます。

 注)MMRワクチン:かつて日本で問題となったMMRワクチンとは異なり、世界的でも標準的に利用されているワクチン。MMRには、麻疹・風疹に加えて、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)も含まれている。

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今村顕史(いまむら・あきふみ)

がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長

石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。著書に『図解 知っておくべき感染症33』(東西社)、『知りたいことがここにある HIV感染症診療マネジメント』(医薬ジャーナル社)などがある。また、いろいろな流行感染症などの情報を公開している自身のFacebookページ「あれどこ感染症」も人気。

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