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がん診療の誤解を解く 腫瘍内科医Dr.勝俣の視点

医療・健康・介護のコラム

余命に関する誤解(上)

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緩和ケアの進歩と誤解

 現在では、緩和ケアの進歩によって、がん患者さんのいろいろなつらい症状を抑えられるようになりました。

 そのため、緩和ケア病棟の平均在院日数は年々減少しています。以前は、末期がんの患者さんは長く病院に入院していたものですが、2000年には、平均在院日数30日未満の緩和ケア病棟が8%であったのに対し、2011年には、24%まで増えています(5)。

 一般的に、緩和ケア病棟・ホスピス病棟のイメージとして、
 “ホスピス=死”
 “ホスピスに入院したらすぐに死んでしまう”
 と思われているのではないでしょうか。

 最近の緩和ケア病棟の役割は、こうしたイメージとは大きく異なっています。

 緩和ケア病棟の役割は、
 “がん患者さんのつらい症状に専門的に対処するところ”

 であるということです。

 末期がん患者さんのケアをすることも、もちろん含まれますが、適切な緩和ケアを受けることによって、症状が落ち着いたら退院も可能となります。

 つまり、現代では、“緩和ケア病棟に入ったら、すぐに死んでしまう”のではなく、
 “症状が落ち着いたら、退院もできる。できるだけ入院せず、在宅で過ごすことができる”
 ようになっているということなのです。

 海外では、既に緩和ケア病棟・ホスピス病棟の役割は、“急性期緩和ケア病棟”となり、患者さんの症状が改善した時点で、在宅へと移られます。がんの患者さんが終末期を迎える場所は、海外では、在宅が中心となっているのです。

 これに対して、日本では、がん患者さんが亡くなる場所は、80%以上が病院となっています(緩和ケア病棟が8%、自宅が8%)(5)。

 このことは、一般人に対する終末期ケアに関するアンケート調査(6)で、病院で最期を迎えることを希望しているのは5%(緩和ケア病棟が49%、自宅が38%)であるのに対して、大きく 乖離かいり しています。

 日本のがん患者さんの亡くなる場所として病院が多い原因は、緩和ケア病棟が少ない、在宅との連携ができていない、なども考えられますが、予後予測が難しいということも一つになっていると思います。

 患者さんご自身も、最期まで比較的全身状態が良く、元気であることが多いので、
 “こんなに元気なのに、すぐに亡くなるとは思えない”
 “まだ元気だから、ホスピスなどは考えなくともよい”
 と思ってしまうのではないでしょうか。

最善を期待し、最悪に備える

 これまで学んできたように、進行がんであっても、がんの症状は最後まで出ることは少なく、最後の数か月まで元気でいられること、ただし、いったん症状が出始めると、“階段を転げ落ちる”ように悪化していくことがある、ということです。

 がんになると、主治医から、予後・余命や緩和ケアについて説明を受けることがあるかもしれません。そのような際には、大変ショックを受けられるかもしれません。

 また、今後の見通しのことについて考えることは、不安も大きいと思います。

 もし、主治医から、予後・余命について言われたとき、緩和ケアについて話されたとき、まずは、むやみに恐れないでほしいと思います。

 そのような場合でも、次のように考えてみてはいかがでしょうか。

 “自分がこの先どれだけ生きられるのかは、誰にも決められない。医師でもわからないし、医師に決められるものでもない”

 “がんは、急に悪化することがあるかもしれないが、長く共存できるかもしれない”

 “がんに対しては、適切な緩和ケアを受けることで、つらい症状は抑えることができる。終末期が近くなっても、適切な緩和ケアを受ければ、最期まで元気でいられるし、苦しむことはない。”

 “いずれ、がんの症状が悪化してくることがあるかもしれないが、それまでは、あせらず、あわてず、あきらめず、自分らしく、自分ができることをやっていける”

 “最善を期待し、最悪に備えることが大切”

 あきらめるのではありません。最後まであきらめないで、自分らしく過ごす方策が必ず見つかることと思います。

参考

  1. White N, Reid F, Harris A, Harries P, Stone P. A Systematic Review of Predictions of Survival in Palliative Care: How Accurate Are Clinicians and Who Are the Experts? PloS one. 2016;11(8):e0161407.
  2. Taniyama TK, Hashimoto K, Katsumata N, Hirakawa A, Yonemori K, Yunokawa M, et al. Can oncologists predict survival for patients with progressive disease after standard chemotherapies? Current oncology. 2014;21(2):84-90.
  3. Lynn J. Perspectives on care at the close of life. Serving patients who may die soon and their families: the role of hospice and other services. JAMA. 2001;285(7):925-32.
  4. Morita T, Tsunoda J, Inoue S, Chihara S. The Palliative Prognostic Index: a scoring system for survival prediction of terminally ill cancer patients. Support Care Cancer. 1999;7(3):128-33.
  5. 宮下光令,他(公財)日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団. データでみる日本の緩和ケアの現状. ホスピス緩和ケア白書. 2013.
  6. (公財)日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団. 『ホスピス・緩和ケアに関する意識調査』報告書. 2012.

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katsumata

勝俣範之(かつまた・のりゆき)

 日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授

 1963年、山梨県生まれ。88年、富山医科薬科大卒。92年国立がんセンター中央病院内科レジデント。その後、同センター専門修練医、第一領域外来部乳腺科医員を経て、2003年同薬物療法部薬物療法室医長。04年ハーバード大学公衆衛生院留学。10年、独立行政法人国立がん研究センター中央病院 乳腺科・腫瘍内科外来医長。2011年より現職。近著に『医療否定本の?』(扶桑社)がある。専門は腫瘍内科学、婦人科がん化学療法、がん支持療法、がんサバイバーケア。がん薬物療法専門医。

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1件 のコメント

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まさに緩和ケア病棟に

お多福

一か月前に癌ステージ4と診断され、場所が場所で80過ぎて手術は体力的に無理、他の方法などなかなかなく、やがて死の選択することが最善と考えておりま...

一か月前に癌ステージ4と診断され、場所が場所で80過ぎて手術は体力的に無理、他の方法などなかなかなく、やがて死の選択することが最善と考えておりました。そして6日前に容態急変しドクターカーに乗り、手は無しとそのまま緩和ケア病棟に入院しました。
大変良くして下さり段々と向かうこちら側の心構えとか出来て来ました。死は一条と思いますので綺麗で生け花があちらこちらにあり家族の休憩場所もある病棟にスタッフさんに感謝です。

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