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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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パラリンピックの鉄人レース…メダルよりも、自分との闘いを楽しむために

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 今日はパラリンピックのお話です。そして、僕がトライアスロンを趣味にしているので、トライアスロンのお話からです。

 数年前に広島の厳島神社の鳥居の下からスタートして対岸まで泳ぎ、その後、中国山脈を自転車で登り、最後に起伏あるコースを走るというトライアスロンに参加しました。その時に、四肢に障害のある方がリレー種目で参加しており、僕とほぼ同じようなタイムだったと記憶しています。「すごく格好いいな」というのが僕の第一印象でした。

パラトライアスロンとは

 日本トライアスロン連合は、障害者のトライアスロンを「パラトライアスロン」と呼んでいます。オリンピック強化選手と同じように、パラトライアスロンの選手も強化選手として日本トライアスロン連合のHPから確認できます。

 パラトライアスロンでは男女ともPT1からPT5まで、5つのカテゴリーがあります。PT1は両足切断で車いすでのレース参加になります。PT2からPT4は四肢障害に対して詳細な定義がされており、PT4に行くに従って軽い障害になります。ザックリ分類すると膝上切断はPT2、膝下切断はPT4となります。そして、PT5は視覚障害者の方が参加するカテゴリーです。

 パラトライアスロンがパラリンピックで行われるのは、リオデジャネイロが最初です。パラトライアスロンはオリンピックのトライアスロンの半分の距離で行われます。水泳は750メートル、自転車が20キロ、そしてランが5キロです。

 さて、今回のリオデジャネイロ・パラリンピックでは男女それぞれ5つのカテゴリーではなく、男子は車いすのPT1と運動機能障害のPT2、PT4が行われ、女子では運動機能障害のPT2、PT4と視覚障害のPT5が行われました。オリンピックと同じく、パラリンピックに出場するにも予選会を規定成績で突破する必要があります。日本からは木村潤平、佐藤圭一、秦由加子、山田敦子選手が参加し健闘しました。

 視覚障害者はパートナーと一緒に競技に参加します。目が見えないのにオープンウォーターを泳ぐのは、もの (すご) く怖いと思います。オープンウォーターとは、プールとは違って屋外で泳ぐことを言います。スイムとランパートはロープで (つな) がって競技し、自転車は2人乗りのタンデム車で競技します。

 車いすカテゴリー(PT1)では、特殊な自転車(手で漕ぐ)を使用し、またランは車いすです。運動機能障害のPT2、PT4の選手を含めて、泳ぐときには義足は装着しませんので、水泳が終了して自転車に乗り込むまでは、介助してもらう選手もいます。そして、義足を装着して自転車、または片足で自転車を漕いで、次にランと競技を進めます。ランは義足で走る人、 (つえ) を使って移動する人などがいます。また上肢の障害の選手もいます。言葉ではなかなかイメージが湧かないと思いますので、ぜひ「パラトライアスロン 動画」または「paratriathlon video」とネット検索して実際の映像を楽しんで下さい。障害のある選手が本当に格好良く映っています。義足の装着場面や、車いすに乗り込む場面などはなかなか目にすることはできませんが、トライアスロンではそんなパートからパートの衣装替えを「トランジション」と称して、そこでタイムを 如何(いか) に縮めるかも大切な能力のひとつなのです。トライアスロンと同じくパラトライアスロンでも、トランジションを応援することは楽しいのです。

障害者がスーパースターに

 さて、今回のリオデジャネイロ・パラリンピックで日本は金メダルがゼロでした。僕は、金メダルは各競技者にとっては素晴らしい到達点ですが、一方でどうでもいいことと思っています。障害者はクラス分けされて競技に臨みます。ですから、どんなクラス分けで、どこに自分が属するかで、そのカテゴリー内でのパフォーマンスは決まってきます。順位はある意味、二の次で、大切なことは自分の持ちタイムを如何に縮めたかだと思っています。自分との闘いを楽しむのが、僕にはパラリンピックの本質に見えるのです。

 障害者もパラリンピックでスーパースターになる機会に恵まれました。素晴らしいことです。もっといろいろな障害者がスーパースターになってもらいたいと思っています。しかし、視覚障害でかつ運動機能障害があるカテゴリーはトライアスロンにはありません。たぶんパラリンピックのどの競技にも存在しないと思います。ただ、そんなカテゴリーが誕生すれば、またそのカテゴリーでのメダリストが生まれます。ただ、そんなカテゴリーが存在しなければ、複数の障害をもった選手はメダルへの道は険しいでしょう。でも、自分のタイムを縮めるために努力し、活躍することはできます。パラリンピックに出場する機会に恵まれないが、「格好いい」選手はたくさんいると思っています。

 今回のリオデジャネイロ・パラリンピックで中国の金メダル数は107個、メダル総数は239個、一方、日本は金メダルがゼロ、メダル総数は24個でした。各個人の順位はカテゴリーの分け方で上下すると思います。一方で国として金メダルや総獲得メダル数を増やすには、どのようにカテゴリー分けされても、誰かが優秀な成績を収められるように多数の選手を用意しておく必要があります。日本はまだまだパラリンピックでの選手層の厚さと各個人の能力の向上という面では後れをとっているのでしょう。

 4年後の東京パラリンピックに向けて、ますます障害者スポーツが発展し、多くの国民からサポートされることを、ひとりのトライアスロンが趣味の医師の立場から応援していきたいと思っています。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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