イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常
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バイオテロに備えて…天然痘「根絶宣言」でも種痘接種を
「予防接種は努力義務である」という先週のコラム の続きです。まず、 東京都福祉保健局HP には次のような記載があります。
「定期予防接種を受けることは、以前は義務とされていましたが、現在の法律では、人から人に伝染することによる感染症の発生やまん延を防止するため、
努力義務なのですが、公衆衛生をつかさどる国としては、できるだけ多くの国民に受けてもらいたいのです。強制であれば、「ワクチンの魅力」は不要です。だって魅力があろうがなかろうが、接種する強制力があるからです。しかし、努力義務であれば、魅力がないワクチンを接種しようという気持ちにはなれません。
ぜひ打ってもらいたいワクチンとは…
では、強制ではない現状で、つまり努力義務の段階で、多くの人が「ぜひ打ってもらいたい」と思うワクチンとはどんなものなのでしょうか。大学院で「免疫学」の学位指導を行っている立場から語りますね。
まず、12歳の娘に質問。
僕 「どんな予防接種なら、してもらいたい?」
娘 「痛くなければいいよ!」
確かに子供にとっては痛いか痛くないかが、何より大切でしょう。小児
僕はワクチンには「種痘の呪縛」があると思っています。種痘の栄光に
僕が思う、みんなが受けたくなるワクチンの要件は、
<1>対象が絶対に
<2>ワクチンの効果が絶大であること
<3>費用がかからないこと
<4>副作用が少ないこと
だと思っています。それらをすべて、種痘は満たしていました。
国策のワクチン接種なら、無料に
天然痘にかかると40%も死亡し、そして
そして種痘は接種後、数十年
また、種痘はWHOが主導的立場で、世界中で撲滅計画を進めました。いろいろな援助のお陰で貧しい国でも種痘接種を行えたのです。だからこそ、根絶宣言に至りました。
乳幼児期や学童期のワクチンは基本的に無料ですが、大人が接種するには数千円が必要です。数千円は富裕層にとっては何でもない金額かもしれませんが、低賃金で必死に生活している人々にとっては相当な金額です。国策としてワクチン接種を行うには、僕はすべて無料で、つまり国のお金で行うべきだと思っています。また貧しい国では麻疹や風疹のワクチン接種などは十分に行われていません。天然痘に比べて費用対効果が悪いからです。
副作用はゼロが理想です。しかし、種痘でも副作用はあるのです。有名なのは種痘後脳炎で、10万人に1人ほどに起こり、約半数が死亡したとも言われています。しかし、それぐらいの副作用は承知で受けたくなるぐらいに天然痘は罹りたくない病気だったのです。
子宮
また、撲滅を目指すのであれば、宿主が人だけのウイルスである必要があります。宿主とはウイルスが生き残れる環境です。狂犬病のように宿主が犬であれば、ウイルスを絶滅させるには犬にもワクチン接種が必要になります。
そして、根絶宣言が行われた天然痘は、実は世界の「ある場所」には凍結されて残っています。種痘が行われなくなった昨今、多くの人は天然痘に対する抗体がありません。天然痘が生物兵器として使用されれば、その効果は絶大です。イラクに派遣された数千人の自衛隊員には種痘の接種を行ったそうです。実は種痘は、僕が娘にお金を払ってでも受けさせたいワクチンのひとつです。将来のバイオテロに備えるために。
ワクチンは国策で強制接種として、全員が無料で受けるようにしない限りは全国民が接種するという理想的状態に導くことはなかなか無理だろうと思っています。努力義務という立場を貫くのであれば、誰もが受けたくなるような理想的なワクチンが、せめて種痘と同じようなワクチンが、サイエンスの進歩によって次々に導入されることを願っています。
人それぞれが、少しでも幸せになれますように。
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