筋ジストロフィーの詩人 岩崎航の航海日誌
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安心を力にして 必要なギアチェンジ
計画相談支援の依頼先を変える。これもまた大きなできごとです。担当を新たに引き受けてくれる事業所を探すところから始めなくてはならないからです。
自分の人生を生きるために、取り組み始めたひとり暮らし実現への道。前稿では、介護制度の理解不足を感じる相談支援者の消極的な対応で、スタート直後から思わぬ壁に直面した経緯を書きました。しかし、この足踏みがあったために教訓を得ました。それは、困ったら「一人で抱え込まない」ということです。
前回の記事に登場した、正確な制度の情報を確認させてもらった社会福祉士の知人に、今後の計画相談について悩んでいると話したら、重度障害者の生活と支援制度に詳しい相談支援専門員(以下、相談員)で、障害者団体のスタッフとしてピアサポート活動をしている及川 智 さんを紹介してくれました。ピアサポートの“ピア”とは英語で“仲間”という意味です。障害者が自らも社会で生活をしながら、他の障害者からの相談を受けて手助けをすることをいいます。
及川さんは脳性まひの障害で体と発声に不自由があります。生活動作のほとんどに介助が必要でコミュニケーションにも工夫を要しますが、仕事を持ち、ヘルパー介助を得ながらひとり暮らしをしています。私が及川さんを知って何より刺激を受けたのは、必要な介助さえあれば、重度障害者であっても仕事ができる。働きながら自分の暮らしをつくっていけるという事実です。
さっそく自分からコンタクトしました。
言語障害があるため、熟練した人でなければ声を正確に聞き取れないので、メールで何度もやり取りを重ねて相談しました。そして計画相談支援も及川さんが所属している事業所「難病・障害者相談支援センター 宮城ありのまま舎」に引き受けていただくことになりました。
自身で一から考えて、暮らしを作る
及川さんの助言を受けて、まず私が具体的に行ったのは、「いつ、どの場面で、どんな介助が必要なのか」と「両親が介助をできなくなっている状況」をくわしく説明する資料を作ることです。
障害者は何の理由もなく支援されているのではなく、社会の中で日常生活を送るために必要な手助けを受けて生きています。その必要な部分の手助けが何なのかをくわしく伝えるのは、私が毎日24時間の介護支給を申請するにおいて大事なことです。
市区町村の障害者支援行政の担当者に、生活の実情をつかんでもらうには丁寧に言葉を尽くし説明をしなければなりません。ケアマネジメントを行う相談員だけに委ねるのではなく、行政の支援者に状況を 直 に説明する力をつけるのも、これからの私には必須です。どうしたらこの困難な状況を正確に伝えられるかと、表現を選びながら資料をまとめていきました。
訪問相談2回目のとき、及川さんに会って印象に残ったことがあります。
一つはユーモアセンスです。
「先日、岩崎さんに依頼された手続き書類を区役所に提出に行きましたら、受付の人が、初め、私(及川)に関する申請書類だと思われたようでなかなか気づいてもらえなくて」と、屈託のない顔で笑って話されていました。介助者を伴い、電動車いすに乗って一見して重い障害があると分かる及川さんが、まさか相談支援のワーカーだとは、受付の人もとっさに想像がつかなかったのでしょう。障害者の一般的イメージを軽やかに超えている光景が、痛快に思えて、つられて私も笑ってしまいました。
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國光 良
私も岩崎さんと同じ筋ジストロフィーという病気をかかえ、一日ほぼ24時間呼吸器を使いながらも、自立生活をしています。全てヘルパーさんの介助を受けな...
私も岩崎さんと同じ筋ジストロフィーという病気をかかえ、一日ほぼ24時間呼吸器を使いながらも、自立生活をしています。全てヘルパーさんの介助を受けながらの生活は今年で4年目です。
しかし、介護環境が安定するのには、自立生活を決めてから3年もかかりました。
自立生活をするには、現在、岩崎さんが実践されようとしているように、住んでいる地域で、頼れる人たち(訪問介護や看護の事業所、往診医、ヘルパーさん、相談員など)を見つけることが重要だと実感しています。
私の場合は、日常の生活環境が整うと、仕事など新たなことにも挑戦しようとする心の余裕ができました。
岩崎さんも今後も元気にご活躍できるように、ぜひ地域での自立生活が上手くいくことを願っています。
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