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田村編集委員の「新・医療のことば」

医療・健康・介護のコラム

がんの5年生存率…「62%」の意味は?

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 がんの治療成績を表す指標に「5年生存率」があります。国立がん研究センターは7月、最新統計による日本人のがんの5年生存率が62%だったと発表しました。

 これだけを読むと、「がんになった10人のうち約6人が5年以上生存している」という意味に受け取ってしまいそうです。しかし、それは間違い。5年生存率の出し方には色々あり、今回は「相対生存率」という方法が用いられています。

 今回国が出した5年生存率は、自治体ががんと診断された患者一人ひとりについて行う「がん登録」という仕組みに基づくものです。登録された患者と死亡届を突き合わせることによって生存率を計算します。「死亡」には、がんで亡くなった場合も、ほかの病気などで亡くなった場合も、すべて含んでいます。

 患者が高齢であればあるほど、がん以外の原因で亡くなる確率は高くなります。そこで、がんに特化した生存率への影響をみるため、日本人集団の年齢や性別によるそもそもの死亡率(生存率)を基に補正したのが、「相対生存率」です。がんと診断された人が5年間生存する確率を、日本人の同じ年齢、性別の集団が5年間生存する確率で割るという計算を行います。

実測生存率と相対生存率

 たとえば、がんと診断された10人のうち5年間生存したのが5人だったとしましょう。この数字だけみると、5年生存率は50%(10分の5=0.5)です。

 これに対し、同じ年齢、性別の日本人が5年間生存する割合が80%(10分の8=0.8)だったとします。

 この場合、相対生存率は、0.5(実測の生存率)÷0.8(日本人集団の生存率)=0.625で、62.5%となります。必ず1未満の数字で割ることになるため相対生存率は実測の生存率より高くなります。

 言い換えると、同じ年齢、性別の日本人集団の5年生存率を100(実際にはあり得ませんが)とした場合に、がんと診断された人では何%かということ意味になります。

 実は計算上、相対生存率は100%を超えることが起きます。たとえば、ある種の早期がんで10人中9人が生存したとしましょう。0.9÷0.8=1.125で、5年生存率は112.5%になります。がんと診断されたことで、かえって健康に気をつけるようになった――などの理由が想像されますが、100%を超える数字にはやや違和感もあります。

 5年生存率の向上は、がんに対する治療が成果を上げている目安になります。ただ、検診の普及で早期がんの割合が高まれば全体の生存率は高まります。詳しくみるには、検診方法が確立されているがん種かどうか、進行度別ではどうか、施設ごとの比較では進行度別の患者の割合がどうかなどに注意が必要です。

 ちなみに、5年というのは、「がんになってから5年」ではありません。がんは検診によって早期で見つかる場合もあれば、根治が難しい進行がんで見つかる場合もあります。いつがんになったかは、誰にも分かりません。生存率の計算においては、早期であろうが進行がんであろうが、がんと診断または治療を行った時点から数えます。今回発表された日本人のがんの5年生存率は、がんと診断された時点からの5年です。

 がんの生存率を出す上では、どれだけ患者の経過を把握できているかが重要です。がん登録では95%の追跡率が信頼の目安とされます。

比較の際は算出法の違いに要注意

 知っておきたいのは、がんの生存率には、様々な計算方法で出されるものがあることです。それぞれ一長一短ありますが、数字を比較する場合に注意が必要です。

 手術や薬の効果など臨床での治療成績を表す生存率は、今回発表されたような相対生存率ではなく、実測の生存率が使われているのが一般的です。

 ただし、たとえば治療後5年目時点までの生存率が示されたグラフが示されたとしても、必ずしも治療を受けた患者全員の5年後の生存を調べたものとは限りません。

 治療を受けてからの期間が5年に満たない患者や、治療後の経過が不明の患者がいても、推計値として表せる計算方法があります。治療法や薬の優劣を短期間に比べたい場合などに用いられますが、推計で出された生存率の数字は、今回発表された相対生存率とはもちろん、実測の生存率とも異なります。

 また、がん以外も含めた全死亡なのか、対象のがんが増悪するまでの期間をみているのか、手術死亡(手術後30日以内の死亡)を含めているか除いているのか、といったなどの違いもあります。

 異なった方法で出された生存率を比較するのは意味がありません。生存率をみる場合は、どんな計算方法で出されたものかを知ることが大切です。

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田村 良彦(たむら・よしひこ)
1986年、早稲田大学政治経済学部卒、同年読売新聞東京本社入社。97年から編集局医療情報室(現・医療部)で医療報道に従事し連載「医療ルネサンス」「病院の実力」などを担当。2017年4月から編集委員。共著に「数字でみるニッポンの医療」(読売新聞医療情報部編、講談社現代新書)など。

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