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石川悠加さん(3)「今がいい」と患者が言えるように 理念を合わせてチーム医療

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呼吸や姿勢が楽な車いすを アクティブ・バランス・シーティング

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患者の向山さん(右から2番目)の車いすのバランスを整えるエンジニアの西村さん(左)とリハビリ医の内山さん(右)

 呼吸リハビリの一環として行われ、道外からも患者が利用しているのは、姿勢や呼吸が楽になり、残った運動機能を最大限生かせる車いすを作る「アクティブ・バランス・シーティング」という月1回のプログラムだ。良い姿勢を保てるように固定するベルトの位置を定め、どの方向にも伸びる3Dシートで患者の体に合わせた車いすのシートを作る。頭を支える道具(ヘッドレスト)の形状や位置も調整する。

 石川さんは約20年前、脳性マヒの患者に対してこうした取り組みをしていることを新聞記事で読み、この方法を開発したエンジニアの西村重男さんと、コンビで取り組んでいる整形外科医でリハビリ医の内山英一さんに声をかけた。「筋ジストロフィーの患者でも、同じことができないでしょうか?」。たまたま内山さんは、医学部の同期だった。

 「私たちは普段、自然に伸びをしているのですが、体幹の筋力があまりない人は、自分の体を支えるのに精いっぱいで、呼吸を楽にできていないことが多いのです。何とかしなくてはいけないと思っていたので、彼らに月に2日(現在は1日)来てもらうようにしたら、車いすの形状や角度を変えて姿勢を整えるだけで、血中の酸素濃度(酸素飽和度)が高まったり、脈も下がったりと、効果がはっきり表れたのです。頭はすごく重いので、一見真っすぐ座れていても、首や肩の筋肉が弱っている人は必死に支えていて、身動きもできない状態になる。のみ込む時に人は軽くうなずくような動作をするので、それをしただけで姿勢が崩れる。そんな患者に、職人技で『ここが問題だよね』とバランスを取るべき部位を指摘し、良い姿勢を保てるように車いすを改造する。それを内山先生が医師として評価して、微調整していくのです」

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車いすのシートは一人一人の体に合わせて、どの方向にも伸びる3Dシートを変形させている

 記者が取材に行った日は、筋ジストロフィーの患者、向山雅之さん(27)が昨年12月に改造したばかりの車いすを、病気の進行に伴う姿勢の変化に合わせて微調整していた。

 向山さんは「それまでの車いすでは猫背に体が曲がって、のみ込むのも呼吸もつらかったので、食事も十分取れなくなっていました。今はとても楽になり、体重が5、6キロ増えたんです」と語る。向山さんの車いすは、呼吸しやすい姿勢を考えてシートを変形させ、角度も少し倒してある。この日はまた、半日かけて首の位置などを調整したら、「肩が楽になりました」と笑顔を見せた。

 西村さんは、「通常の車いすは人型に生身の人間をはめ込むようなものですが、私たちがやっているのは、その人の頭や胸、手足の重さを考えながらバランスを整えて、残っている機能を生かすということです。そして、体が硬くなったり変形したりするのを抑えるのです」と語り、車いすに座った体に触れながら、地面にしゃがみこんでシートやベルトを微妙にずらしていく。内山さんは、「病気の進行で筋肉の力が衰えると、支える方を優先して、運動に力を使う余裕がなくなります。支える負担を楽にして、その人の持つ運動機能を長く先まで保たせることが大事です」と解説してくれた。

暮らしに合わせた用具の工夫 作業療法士の技

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両手を使わなくてもスマートフォンを扱う方法を紹介する作業療法士の田中さん

 作業療法室を訪れると、常に10人以上の患者が、パソコンでホームページを作成したり、3Dプリンターを使って電動車いすのコントローラーを扱いやすい形に作ったり、パソコンのマウスを扱う時に手を楽にするための「手首を載せる道具」(アームサポート)を作業療法士と一緒に作ったりと、思い思いの作業に取り組んでいる。私が訪れた時は、札幌近郊から車いすや生活用具の改造のために来た中学1年生の女の子が、作業療法士の田中栄一さんと、食事の時に姿勢が楽になる台の高さを測定しているところだった。

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操作ボタンを使いやすいように改造したゲーム機

 「高さが低くても高くても、首に力が入って変形や拘縮(縮こまって硬くなること)の原因となるんです。体に合っていなくても、無理してやろうと思えばある程度生活の動作はできますけれども、その無理な繰り返しが変形を招きます。治療の進歩で長生きできる時代になったので、どうせ長生きするならば、いいコンディションで生活できるように、予防的に生活道具の工夫をしておくのです」と田中さん。こうした生活を支える技術的な工夫を「アシスティブ・テクノロジー(生活支援技術)」と呼び、個々の患者の求めに応じて作業療法士が提供している。

 石川さんは、「例えば、学年が上がっても、美術でこういうことをしなくちゃいけないとか、音楽でこういう楽器を弾く時に困るなど、課題は変わっていきますので、何か工夫できないかと担任の先生と一緒に外から相談に来る患者もいます。一番大きなニーズは、パソコンをどう扱うか。かなり力の弱くなった子でも扱えるマウスとかスイッチ、使いやすい画面の角度などの工夫を伝えるために、田中さんも全国に講演で走り回っています」と話す。

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ゲーム機で遊ぶ入所者と石川さん

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マウスを扱う指先に負担がかからないよう、一人一人に合わせて腕置きを使う

 作業療法室で行うパソコンの技術訓練は就労支援でもあり、外部から名刺のデザインや、医学書などのイラストの発注を請け負ったりして、収入を得ている入所者もいる。地元の土産物屋では入所者がデザインした絵はがきが販売されている。八雲病院の作業療法室での取り組みは、入所者自身が作っているホームページ「 コレクトスペースSUNSUN 」や、道具の工夫を紹介している「 ひらけごま 」で見られる。

 様々な専門職がそれぞれの専門性を発揮して、様々な角度から、残った機能を最大限生かし、生活を支える医療を提供している。このチーム医療をうまく組み合わせ、患者のために力を発揮していく鍵は何なのだろう。

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NPPVを使う患者も、救急蘇生バッグで空気を送りながら、カフアシストを準備して水泳を楽しむ

 「専門性を極めたように思えるスタッフの中には、『自分はこれが得意だから、これを進めよう』とか、『自分』が強く出てきてしまう人が時々いるのですね。むしろ自分が出過ぎていると、患者さんもそれを感じて、『そんなにあの人がそれを勧めるなら、そうしてみようかな』と、おつきあいしてくださるケースも出てきてしまうのです。そうではなくて、自分が無になって、患者に合わせて技術を提供するという裏方意識を持っていることがプロには求められます。もし、『自分』が出てしまうと、患者さんに『それはいやです』と言われたり、ほかのスタッフから『それは違うんじゃない?』と指摘されたりした時に、自分そのものが否定された気持ちにもなってしまいます」

 「プロは患者の声が聞けるし、スタッフ同士、互いの意見も聞ける。私もよく言われますからね。『先生、それこうした方がいいんじゃない?』『それ違うよ、先生』って。『ああ、そうですねえ』って、しょっちゅう改めています。患者さんに不利益がないように、お互いにちゃんと言うべきことは言う。ヨミドクターでも連載している 筋ジストロフィーの詩人、岩崎航さん の詩を読んで思いましたが、私たちはうちの子たちに、『多く失ったこともあるのだろうけれど、今が一番いい時だ』と言い、『いっぱいやることがあるんだ』と言える子たちであってほしい。そのために、自分の専門技術を、一番いい形で提供するチームでありたいと思っています」

 (続く)

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