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知って安心!今村先生の感染症塾

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「蚊よけ剤」の上手な選び方

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 現在、シンガポールでジカウイルス感染症(ジカ熱)が流行しています。シンガポールへは、毎年多くの日本人が旅行や仕事で訪れるため、今後の影響も心配されています。ジカウイルス感染症は、蚊が媒介する感染症です。日常的な対策は、蚊を減らすことと、蚊に刺されないようにすること。今日は、「蚊よけ剤」についての耳寄り情報をお伝えしましょう。

シンガポールでジカ熱が流行中

 シンガポールでジカウイルス感染症(ジカ熱)が流行しています。9月5日の時点での報告では、感染者は258人まで増加しているとのことです。これまでは、ブラジルを中心とした南米での流行が話題になっていました。しかし、米国フロリダのマイアミ市、そして今回のシンガポールと、他の地域での流行も起こり始めています。今のシンガポールでの流行は、ちょうど東京の代々木公園でデング熱が流行した時と同じような状況です。これまでは、一部の狭い地域での発生でしたが、次第に他の地域からも報告され始めているそうです。シンガポールへは、毎年多くの日本人が旅行や仕事で訪れるため、今後の影響も心配されています。

ジカウイルス感染症への予防策

 ジカウイルス感染症は、性行為による感染も問題となっていますが、やはり「蚊」がウイルスを媒介して起こる感染が中心であることは間違いありません。したがって、日頃から蚊を減らしておくこと、蚊にできるだけ刺されないようにすることが、重要な予防対策となります。

 蚊に刺されないようにするためには、長袖や長ズボンなど、肌が出にくい服を着ることも有効です。しかし、蚊が多い場所は、暑い場所が多いため、長袖や長ズボンを着ることもなかなか大変というのが正直なところでしょう。そこで、ぜひ検討したいのが「蚊よけ剤」の利用です。

おすすめ「蚊よけ剤」がなかった日本

 これまで日本で認可されていた蚊よけ剤は、「ディート(DEET)」という成分を含んだ製品でした。このディートは、本来は十分な効果を期待するためには、30%以上の濃度であることが望ましいとされています。しかし、皮膚への刺激性が高いことなどの問題も指摘されていたことから(高濃度のクリーム剤を塗るとピリピリするような感じもします)、日本では乳幼児への使用を避けること、年齢によって使用制限することについての記載もありました。そして、このような経緯もあってか、これまで日本にはディート濃度が、多くの製品では5%程度、最大でも12%までの製品しかありませんでした。

ディートではない「蚊よけ剤」

 「蚊よけ剤」に使われている有名な成分には、「ディート(DEET)」以外にも「イカリジン(英語ではpicaridin)」というものがあり、こちらも米疾病対策センター(CDC)などで正式に承認されていました。「イカリジン」の特徴は、「ディート」よりも子どもへの影響が少ないとされていることです。

 さらに、「イカリジン」の濃度5%で、「ディート」濃度10%と同等の効果が期待できるとの基礎実験での報告があります。実は、イカリジンという成分を含んだ製品は、日本でも2016年3月から発売されていました。しかし残念ながら、発売された製品の「イカリジン」の濃度は5%のものばかりだったのです。つまり、子どもへの影響が少ないという利点はあるものの、効果では「ディート」濃度10%と同程度という可能性が高かったわけです。

より高濃度の製品が発売に

 しかし、この状況も近年の蚊が媒介する感染症の流行によって大きく変わることになりました。蚊よけ剤の需要は、東京の代々木公園で発生したデング熱の国内発生を機会に高まりました。そして、今回のジカウイルス感染症の流行によって、さらに蚊よけ剤の大切さが認識されるようになっています。

 蚊よけ剤を販売していた企業側でも「ディート(DEET)」の濃度に関する問題は指摘されており、いよいよ高濃度の蚊よけ剤の申請が行われ、感染症対策のために迅速審査によって認められる流れとなっていました。

  『フマキラーとアース、高濃度の虫よけ剤を申請…感染症対策で審査迅速に』

やっと日本でも有効な「蚊よけ剤」が入手可能に

 これまでは、本当に効果の高い「蚊よけ剤」を入手するためには、海外で購入するか、海外から輸入した製品を手に入れるしかありませんでした。しかし、この申請によって国内でも効果の高い「蚊よけ剤」ができるようになったことになります。そして、まずは先陣を切って有名なフマキラーというメーカーから、この新しい申請によって作られた製品が発売されています。
 http://www.fumakilla.co.jp/products/insect/

 この製品の内容をみると、「イカリジン」濃度15%となっていることがわかると思います。単純な比較はできませんが、イカリジン濃度が、ディートに換算すると倍の濃度にあたるとすれば、ディート濃度30%程度と同等ということになります(実際に効果を比較するためには、この濃度での両者を比較した調査も必要ですが……)。より効果の高い濃度で、これまでの製品よりも子どもに使いやすい、日本では新しいタイプの「蚊よけ剤」です。これからも、各社から同様な製品が発売されていくことを期待しつつ、みなさんにご紹介してみました。

 (注:著者は上記会社との利益相反は全くありません。あくまでも感染症対策に有効な手段のひとつとしてご紹介しました)

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今村顕史(いまむら・あきふみ)

がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長

石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。著書に『図解 知っておくべき感染症33』(東西社)、『知りたいことがここにある HIV感染症診療マネジメント』(医薬ジャーナル社)などがある。また、いろいろな流行感染症などの情報を公開している自身のFacebookページ「あれどこ感染症」も人気。

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