佐藤記者の「新・精神医療ルネサンス」
医療・健康・介護のコラム
過量服薬の原因薬剤トップ10

2015年3月に掲載した記事「乱用処方薬トップ5発表」は、1年以上 経 っても数多くのアクセスを集めており、向精神薬問題への読者の関心の高さがうかがえる。そこで今回は、過量服薬で救急搬送された患者が使用していた薬剤のトップ10を紹介してみよう。乱用処方薬トップ5は、全てトップ10入りした。
調査を行ったのは、医療経済研究機構主任研究員の奥村泰之さんらのグループ。今年8月下旬、米科学雑誌「PLOS ONE」に論文が掲載された。06年9月から13年6月までの間に、東京医科歯科大学救命救急センターに自殺関連行動で入院した933人を対象とした。このうち、意図的な過量服薬を行い、過量服薬以外の自殺関連行動を伴わず、原因薬剤を特定できた676人を解析対象とし、原因薬剤と入院の経過などをまとめた。
9割は抗不安薬・睡眠薬
解析対象者のうち、約86%にあたる581人は原因薬剤が抗不安薬・睡眠薬だった。依存性の高さが指摘される薬が上位を占めた。これまでも度々報じてきたが、過量服薬患者の救急対応のために、多忙を極める救急現場はますます混乱し、ICU(集中治療室)の空きがなくなることもある。その結果、他の急患を受けられない問題が深刻化している。
この調査では、ICUを長く使用した患者の割合も集計した。このような患者は、過量服薬の影響で、 誤嚥 性肺炎や横紋筋融解症、急性腎不全などを発症していた。解析対象者全体の誤嚥性肺炎発生率は10・7%。使用患者数が5番目に多いベゲタミンは、28・8%が誤嚥性肺炎を発症した。ベゲタミンは薬物乱用を招きやすく、大量に飲むと命の危険もある。そのため製造販売する塩野義製薬は、年内で供給を停止すると予告している。詳しくは今年6月30日掲載の記事「 『飲む拘束衣』販売中止へ 」をお読みいただきたい。
使用患者数が2番目に多いエチゾラム(デパスなど)の問題も、以前から記事で指摘してきた。この度やっと、「麻薬及び向精神薬取締法」による向精神薬指定を受けることになった。この件は近く、改めて記事にする予定だ。
過量服薬の原因は、ベンゾジアゼピン系などの睡眠薬・抗不安薬の依存性の高さだけではない。自殺衝動のある患者に、大量の向精神薬を安易に処方する医師の問題でもある。精神保健指定医の資格不正取得問題が再燃、拡大し、精神科医の診療技術や倫理観、人権意識が厳しく問われている今、向精神薬処方のあり方も一から見直す必要がある。
医療経済研究機構主任研究員の奥村泰之さんらのグループの調査より
過量服薬の主な原因薬剤(カッコ内は代表的な商品名)
薬剤名 | 患者数(人) | ICU4日以上使用率(%) | 誤嚥性肺炎発生率(%) | |
---|---|---|---|---|
全体 | 676 | 10.2 | 10.7 | |
1 | フルニトラゼパム(ロヒプノール、サイレース) | 178 | 10.1 | 15.7 |
2 | エチゾラム(デパス) | 121 | 8.3 | 10.7 |
3 | ブロチゾラム(レンドルミン) | 113 | 9.7 | 12.4 |
4 | ゾルピデム(マイスリー) | 105 | 8.6 | 11.4 |
5 | クロルプロマジン・プロメタジン・フェノバルビタール合剤(ベゲタミン) | 104 | 20.2 | 28.8 |
6 | トリアゾラム(ハルシオン) | 103 | 10.7 | 13.6 |
7 | ブロマゼパム(レキソタン) | 91 | 12.1 | 16.5 |
8 | アルプラゾラム(コンスタン、ソラナックス) | 89 | 7.9 | 10.1 |
9 | バルプロ酸ナトリウム(デパケン) | 82 | 7.3 | 8.5 |
10 | ニトラゼパム(ベンザリン) | 71 | 9.9 | 16.9 |
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