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白内障…気軽に手術してよい場合、悪い場合

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 私は40年前、医師国家試験に合格後、内科系の医師になろうか、外科系の医師になろうかなかなか決断ができず、結局、どちらの要素もたっぷりあるという理由で、眼科にしたのでした。告白しますが、眼球や視覚に特別強い関心があったわけでなく、欲張りなのか、優柔不断なのか、そんな稚拙な選び方でした。

 選んだきっかけは幼稚でも、まじめに学べば必ず関心が湧いてくるものです。現在は手術からはすっかり手をひいて、眼科の中ではやや特殊ながら必須な領域と考えられる、神経眼科、心療眼科という、眼科の内科的部分を専門にしています。

 手術からは手を引きましたが、手術の適応を判断したり、手術後の不適応状態をどう扱ってゆけばよいかなど、手術について考える機会は多いものです。

  昨年5月14日のコラム で、年間百万眼以上の手術が行われているとされる白内障手術の手術手技や手術機器は非常に進歩しており、手術時間の短縮、安全性、手術費用などあらゆる面で30年前とは格段の差違があることを述べました。

 しかし、それは白内障を見つけたら、誰でもまるで毎日の食事を () るかように、ごく気楽に受けるべき手術というわけではないことを、 次の5月21日のコラム で、強度近視の例を挙げて説明しました。

 ほかに何も眼疾患や全身疾患の健康人に対する白内障手術では、適応についてあれこれ苦慮することはほとんどありません。

 問題は、強度近視のように眼球が特殊な状態にある場合です。

 近頃、同じ白内障手術をしてよかった症例と、よくなかった症例を立て続けに経験しました。

 しかも、その二人とも、同じ目の病を長年抱えていました。

それは、「網膜色素変性」という目の難病です。両目の網膜の視細胞が次第にダメージを受ける病です。比較的若い時に病気ははじまりますが、不自由に気付くのは、中年以降の場合が多いようです。

 典型的なものは、まずうす暗いところが苦手な状態になり、次第に周辺の視野が欠けてゆきます。そして、次第に中心の視野だけが残るトンネルビジョンになり、それもついには失ってしまう、進行性の病気です。バリエーションや類縁疾患もいろいろあり、初期から視力低下が出現する例もあります。

 今の医学では進行を止めるよい治療法は確立しておりません。進行の速度は、症例によって大きく異なりますが、加齢とともに白内障も進行してくることも少なくなく、これをどう扱うか、頭を悩ませることになります。

 私が経験した2つの真逆の 顛末(てんまつ) は、次回ご紹介しようと思います。(井上眼科病院名誉院長 若倉雅登)

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