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がん診療の誤解を解く 腫瘍内科医Dr.勝俣の視点

コラム

希望という名の処方箋

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 「何か良い治療法はないでしょうか?」

 目をふせがちで不安げな様子の40代男性。
 進行胃がんで、これまで何種類もの抗がん剤の治療を受け、セカンドオピニオン(別の医師の意見)を聞きに来られました。
 抗がん剤の副作用で髪は抜け、肌の色は黒っぽくなっていました。

 詳しくお聞きすると、
 主治医から、
 「標準治療は終了した。これ以上の治療がない、ホスピスを紹介する」と言われ、いてもたってもいられなくなったそうです。
 何か良い治療はないかと、インターネットでくまなく検索し、 わら にもすがる思いで、いろいろな治療法を模索したということのようです。

 このような患者さんが、私のセカンドオピニオン外来によくいらっしゃいます。

 本当に治療法がないのでしょうか?
 今後どうやっていけばよいのでしょうか?

「もう何もすることがない」と言ってはいけない

 がん患者さんが医師から言われる最も傷つく言葉(注1)の一つに
 「もう何もすることがない」
 があります。

 この言葉は、本当は、
 『積極的に治すための治療は難しい。効果が乏しいばかりか、副作用が上回ってしまうため、患者さんにとってメリットが少ない』
 という意味なのですが、

 医師が言葉少なに、
 「もう治療がない。することがない」
 と言ってしまっては、患者さんに絶望感ばかりを与えてしまうことになります。

 このように言われた患者さんは、
 『もう治療がなく、あとは、自分は死を待つばかり』
 というふうに考えてしまうのも無理もないことだと思います。

 このような状況で、
 「今後は、緩和ケアを……」
 と言われても、到底受け入れることができるものではありません。

 患者さんにとって、『積極的治療の中止』と話されることはとても不安・負担が大きいことです。
 『積極的治療の中止』を伝える際には、医師は細心の注意を払って、慎重にお話をしていかなければならないと思います。

 具体的には、
 患者さんの、現在の生活の状況がどのようであるか?
 患者さんがどれくらい病状を理解できているか?
 患者さんの不安がどのようなものか?
 患者さんが、今後のことについて、どのように考えているか?
 など、
 それぞれ個別の患者さんの状況を逐一把握していきながら、今後の方策について、希望を失わせることなく、丁寧にお話をしていかなければなりません(注2)。

進行がん患者さんと良いコミュニケーションを取るということ

 進行がん患者さんに対して、医師が伝える情報は、決して良いものばかりではありません。
 抗がん剤が効かなくなってきたことや、がんが進行してきたこと、今後の見通しについてなど、患者さんにとっては、つらい情報も伝えなければなりません。

 同じ情報を伝えるにも、患者さんの不安やショックを和らげるようにうまくお話をすることが大切です。

 医学研究として、
 進行がん患者さんとうまくコミュニケーションを取っていくことは、
 主治医への信頼感が増し、患者さんの抑うつ症状を減らすことができるというエビデンス(科学的根拠)があります(注3)。

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勝俣範之(かつまた・のりゆき)

 日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授

 1963年、山梨県生まれ。88年、富山医科薬科大卒。92年国立がんセンター中央病院内科レジデント。その後、同センター専門修練医、第一領域外来部乳腺科医員を経て、2003年同薬物療法部薬物療法室医長。04年ハーバード大学公衆衛生院留学。10年、独立行政法人国立がん研究センター中央病院 乳腺科・腫瘍内科外来医長。2011年より現職。近著に『医療否定本の?』(扶桑社)がある。専門は腫瘍内科学、婦人科がん化学療法、がん支持療法、がんサバイバーケア。がん薬物療法専門医。

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2件 のコメント

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癌患者を窮地から救うこと

予備軍

お薬の効果を調べる際に、プラセボ効果というのがあると思います。薬ではない粉末を薬だと思いこむことによって、まるで薬が効いたように患者さんの症状が...

お薬の効果を調べる際に、プラセボ効果というのがあると思います。薬ではない粉末を薬だと思いこむことによって、まるで薬が効いたように患者さんの症状が改善する場合があるようです。

心の病(例えば鬱など)で、肉体に症状が出ることはよくあることだと思います。ヨミドクのコラムでも見かけます。
癌患者さんは、精神的にものすごいダメージを受け、一人で(または家族と一緒に)そのダメージを押し殺して黙々と耐えているのではないかと想像します。そのようなときに、医師の何気ない笑顔や、勇気づけがどれほど気持ちを楽にしてくれるか、その効果はプラセボ効果どころではないものがあると思います。
また、おそらくは「今日の命を大切にしよう」という思いに至る方もいらっしゃるに違いありません。医師の対応一つで「自分はもうダメだ」と思うのと比べて、どれほどQOLを上げることでしょう。

医師の役割には、患者さんをいかに窮地から救うか、という役割も含まれると思います。癌患者さんはまさに窮地で一人で悶々としています。肉体の窮地だけでなく、心の窮地にもいるわけで、医師の人間性は重要な「治療」となり得ると思います。仮にそれがプラセボ的であったとしても。

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生きることへの執念

すずめの父

医師も,看護師も激務の中で患者に接しているのですから,十分な言葉で話せないのは当たり前です。患者が病について勉強し,人生について考え,どっしり(...

医師も,看護師も激務の中で患者に接しているのですから,十分な言葉で話せないのは当たり前です。患者が病について勉強し,人生について考え,どっしり(あわてず・あせらす・あきらめず)と言葉・治療を受け止めることが重要と考えています。私の体験(7年間のがん治療)がベースです。私も,現在,延命治療中です。
抗がん剤治療を続けていると,副作用で行動が狭まります。歩く体力がない・下痢が心配・吐き気が続く・指が使えない・髪が抜ける・今までの仕事や趣味ができない・・・。しかし,ここからが人生の面白さです。なにができるか,可能性を探し回って(仕事・家事・趣味・勉強・・・)楽しむ。低レベルで結構。前へ進むことに執念を燃やします。スポーツの試合では,マッチポイントを取られても全力でプレーします。同じです。
病人・老人・災害の被害者・・・貴重なものを失い,悲観する機会は多くあります。それでも,生きることへの執念を持ち続けることが,生きている人の責任と考えます。この姿勢が,他者へ支援をお願いできる最低条件と思います。がん患者という一面のみで,憐憫を当然視するのは誤りです。人として生きることが基本と考えています。
私にとって希望とは,生きることです。できるなら,自立して生きたい。この姿勢は,赤ちゃんと同じです。

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