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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

精神科医も眼科医も見逃しやすい…うつ病で視力低下

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 正確にうつ病かどうかを診断するのは、専門家でも実はかなり難しいといわれます。

 近頃、うつ病が増えているなどの報道を時々見かけますが、うつ病の考え方にも歴史的変化があり、また、診断は血液検査など数値を根拠にしたり、脳の画像で決まったりするものではありませんので、専門家でも診断が必ず一致するとは限りません。

医師個人のとらえ方や、主観に左右されやすいのです。

 米国精神医学会や世界保健機関(WHO)では、そういうことがなるべく起きないような診断方法として、統計的に決められた診断尺度を利用した診断方法を示して、改定を重ねています。

 日本でも1980年代後半頃から、その考え方が徐々に導入されました。

ただ、明確に「うつ病」「 (そう) うつ病(双極性障害=うつ病とは診断、治療とも異なる別の病)」と診断できる基準に入らないと、「うつ状態」などといった、基準にはない、あいまいな病名が、今でもつけられています。

 うつ病にはさまざまな身体症状、たとえば意欲低下、睡眠障害や消化器症状が出現しやすいことが知られています。ところが、どの専門書を見ても視力低下という眼症状は書かれていません。

 私はこれまで少なくともうつ病で3例、双極性障害で1例の視力低下例を経験しています。この中から、視力低下がうつ病の治療で改善した2例を例示してみましょう。

一人は30歳代の男性。両眼の視力低下と目の疲労感で来院、矯正視力(最善の眼鏡で矯正した視力)は右0.3、左0.4と下がっていましたが、それを説明できる病変はありませんでした。再診予定日の朝、さらに見えなくなっている上に、会社にも病院にも行こうとせず、死にたいといっているがどうしたらよいかと父親からの悲痛な電話を受けました。

 眼科よりもまず精神科に行くべきだと判断した私は、友人の精神科医への紹介状を書きました。案の定、うつ病で入院治療して8か月後、開口一番「目もだいぶいいです」と笑顔で外来に来られた彼は、やがて職場に復帰しました。

いま一人は20歳代の男性、1か月前から左目の痛みがあり、次第にぼやけてきた。近医から視神経炎を疑われ紹介されたのでした。左の矯正視力は0.03と低下。しかし、視神経炎の症状はありません。やがて不眠、寝起きに動けないなどの症状を訴えますので、抑うつの程度を調べる質問表に回答してもらうと、高度の気分障害(うつ状態)が示唆されました。

 精神科による治療の5か月後には、うつ症状も視力低下も改善したのでした。

うつ病で、視力低下という身体症状が生じる可能性があることを認識している精神科医も、眼科医も大変少なく、この状態は見逃されやすいのではないかと思っています。

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。北里大学医学部客員教授、日本神経眼科学会理事長などを兼務し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ、副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」(春秋社)、「健康は眼に聞け」(同)、「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、医療小説「高津川 日本初の女性眼科医 右田アサ」(青志社)、「茅花流しの診療所」(同)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・執筆活動のほか、NPO法人などのボランティア活動に取り組む。

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