文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

yomiDr.記事アーカイブ

テレビ電話で遠隔診療…便利だけど、それで十分か?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

yomidr_niimi_300_20160902 コンピューターが廉価になり日常生活に普及し、そしてそれに伴う通信技術も革新的に進化して、たくさんの情報が簡単に、そしてほぼ無料で相互交換できるようになりました。コンピューターを利用したテレビ電話も国の垣根を越えて普及しています。そんなテレビ電話として「スカイプ」を我が家も時々利用しています。

 娘が先日、スカイプを使って英会話のレッスンを受けていました。先生はフィリピンの人だそうで、一生懸命英語で話していました。相手は日本語がまったくわからないので、英会話の練習にはもってこいですね。そして費用も30分で数百円だそうで、本当に便利な世の中になりました。

 対面診療を組み合わせるのなら…

 さて、この技術を医療にも応用することが当然に期待されています。まず、医者と医者の間では、検査の画像を遠隔地にいる専門家に読んでもらって、そして専門家のコメントを利用することは以前より行われています。X線検査、CT検査やMRI検査、病理検査、心電図検査などで行われています。

 今日のお話は、医者対患者さんの遠隔診療です。つまり患者さんは自宅にいて、テレビ電話を使って、医者に病状を説明して、医者は患者さんの訴えと、患者さんの映像から得られる情報で対応しようという試みです。実は遠隔診療に関しては政府が平成9年12月に「条件付き解禁通知」を出しています。「離島・へき地の患者」「特定の慢性疾患の患者」「原則初診対面」という限定的な条件下にて遠隔診療を認可するというものです。

 ところが昨年、平成27年6月に経済財政運営と改革の基本方針2015(骨太の方針)において、「医療資源を効率的・効果的に活用するための遠隔医療の推進」が明記されました。そして平成27年8月に厚生労働省による事実上の「遠隔診療解禁通知」が出されました。その中には「離島・へき地などの特定の状況や、特定の疾患に限らず一般的に遠隔診療を活用可能」「対面診療を組み合わせる限り、初診は対面に限らない」という解釈が含まれています。

 つまり「どこかで患者を直接診察すれば、他はテレビ電話での診療もOKですよ」ということです。これは患者さんには朗報です。そして保険診療も認められるのです。

 

交通費と時間を節約

 僕の外来は漢方も併用するので、患者さんのお (なか) や背中、脈、 (くび) 、下肢など体中を実際に触って診察します。そんな診察が終わると、「こんなに実際に触って診察してもらったことは初めてだ」と涙を流しながら喜んでくれる患者さんもいます。「今の先生は、コンピューターをずっと見ていて、そして検査結果を見て、そして検査結果を説明して、薬を出すだけなんですよ。ほとんど私を診てくれません」と語ります。そんな時には、「西洋医学では、病気を発見して、そしてそれを治療することが第一だから、まず検査が優先なんですよ。そして医者も忙しいので、情報が少ないと思われる体の診察は二の次になるのでしょう」と“医療従事者寄り”の言い訳をします。するとある患者さんが、「体を触らないならテレビ電話で診察してもらっても同じですよね」と言いました。

 そんな時代がついに到来したのです。体の診察が必要な時は病院に行くが、検査結果の説明や、経過観察、念のための来院などはテレビ電話で十分ということです。素晴らしいではないですか。

 実際の状況はこんなふうになると思います。直接に診察する必要がある患者さんは外来の待合室にいます。そして直接診察する必要がない人は、自宅でも会社でもどこかネットワークが (つな) がってテレビ電話が利用できる場所で待ちます。外来が予約制であれば、テレビ電話の時間も予約制にすればいいですし、来院順であれば、まず外来で待っている患者さん、そして次はテレビ電話の患者さんと、診察待ちの順番通りに進めていけばいいのです。

 患者さんからすれば、往復の交通費と貴重な時間を節約できます。そして院外処方であれば処方箋が郵送され、院内処方であれば薬が郵送されてきます。テレビ電話が普及した今日、なぜ今までこの方法が利用できなかったのかと思いますね。

 

声の調子、顔の表情で得られる情報も…

 僕の外来には、日本中から「がん・難病・奇病」の方が来院されます。僕の役割はサポート医療です。西洋医学優先です。今の西洋医学だけの治療では良くならない患者さん、またもっと良くなりたい患者さん、西洋医学では病気ではないと言われている患者さん、そして西洋医学では治療法がない奇病の患者さんを診ています。もちろん、実際に患者さんを拝見すると、全体の雰囲気、醸し出す匂い、皮膚の冷たさ・湿り具合、そしてオーラ(生きるエネルギー)を直接感じることができます。しかし、テレビ電話を介してのお話でも、患者さんの訴えを基にして、声の調子、顔の表情などから相当の情報が実は得られるのです。そうであれば、新幹線や飛行機でわざわざ診察に来るのは数か月に1回にして、あとは毎月テレビ電話での診察にすれば患者さんには福音です。そして、状態に合わせて処方が変更できるのですから。

 遠隔診療はますます楽しみな領域です。それを保険診療で行えるようになることは、なにより患者さんのためなのです。診察時間も夜や祝日に行うことも可能になります。また、ちょっと心配なことがあっても、すぐに相談ができます。わざわざ交通費を払って、貴重な時間を費やして、ちょっとした相談にはなかなか行けません。そんな時には、遠隔診療は心の安心にも最良ですね。

 平成9年12月24日の厚生省健康政策局長通知の別表にある遠隔診療の対象は、在宅酸素療法を行っている患者、在宅難病患者、在宅糖尿病患者、在宅 喘息(ぜんそく) 患者、在宅高血圧患者、在宅アトピー性皮膚炎患者、 褥瘡(じょくそう) のある在宅療養患者、在宅脳血管障害療養患者、在宅がん患者とあります。

 そして平成27年8月10日の厚生労働省医政局長通知で、上記は例示であると示されました。つまりほかにもどんどんと遠隔診療を行っていいですよというお達しです。いろいろな疾患にこれから遠隔診療が利用できそうですね。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常の一覧を見る

最新記事