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私のマラソン道

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100キロなんてこわくない

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50キロを過ぎ、声を掛け合う

沿道に咲く美しい花々も、いわて銀河100kmチャレンジの魅力

沿道に咲く美しい花々も、いわて銀河100kmチャレンジの魅力
エイドには飲み物だけでなくレモンやバナナ、梅干しなどが用意されている

エイドで食べ物を用意するボランティアスタッフ。マラソン大会は地元の人たちに支えられている。

 15年6月14日午前4時。「いわて銀河100kmチャレンジマラソン」がスタートした。岩手県北上市から雫石町までは高低差500メートルの厳しい山間コースだ。しかも最高気温30度を超える暑さとなった。

 予定通り、1キロを7分くらいでゆっくり走る。このペースを維持できれば、上り坂では少々歩いても13時間でゴールできる。制限時間は14時間だから問題ないだろう。しかし、寝不足で頭がくらくらする。早朝スタートのために前の晩に早く寝ようと気持ちばかりあせり、結局一睡もできなかった。

 5キロごとにある「エイド」と呼ばれる休憩所には、スポーツドリンクやバナナ、おにぎりなどが置いてある。30キロすぎ、手作り味噌みそでつくったという味噌汁が体にしみた。沿道の人たちの「がんばれー」という声もうれしい。中には出場者名簿を片手にゼッケンを確認、ランナーの名前を呼んでくれる人もいた。

 フルマラソンとウルトラマラソンには大きな違いがあった。フルは周囲を走るランナーはライバルになる。自己ベストのためには1秒だって無駄にできないので、見知らぬランナーと口をきくことはない。ウルトラの場合はいつしか声を掛け合うようになる。特に50キロを過ぎて、走ることに飽きてくると会話が増える。「暑いですね」「ウルトラは何度目ですか?」「どちらから来ましたか?」。仲間ができるのがウルトラなのだ。

夢に見たゴールの瞬間

 70キロを過ぎると、制限時間までに通過しなければならない関門が気になってくる。

 そして「このペースなら次の関門は大丈夫」「もう少し上げたほうがいい」などとペースを確かめ合う。そんな中、「ぼくはもうダメです。先に行ってください」と言って脱落していくランナーもいた。

 90キロの関門を過ぎると、ようやくゴールを確信する。夜明け前に出発、夕暮れ時を迎えた今もなお走り続けている。永遠に続くと思えたレースにも、終わりはやってくる。物事には必ず終わりがあることに気がつく。ガッツポーズをしてゴールする自分の姿や冷たい生ビールを想像しながら走り、足の痛みを忘れる。

100kmのゴールテープを切る前に自撮り

100キロのゴールテープを切る前に自撮り

 雫石の町に入り、ゴール会場のアナウンスなどが聞こえてきた。会場入り口のカーブを曲がると、白いゴールテープがピンと張られているのが見えた。いよいよだ。ゴールと私の間に、ほかのランナーの姿はない。あのテープは私が切るためにある。ゴールテープを切るなんて小学校以来だろう。走れば走るほど近づいてくる。

 ゴールまで20メートル。気がつけば全力で走っていた。

 あと10メートル。ゴールの向こうから、大勢のスタッフの笑顔が迫ってくる。

 あと1メートル。夢に見た、その瞬間が訪れる。

 両手を上げてテープを切った。「バンザーイ、バンザーイ」。スタッフたちの声。これまで感じたことのない喜びに全身がふるえた。

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岩佐 譲(いわさ・じょう)
【略歴】1983年入社。写真部、静岡支局、北海道支社、西部本社写真部、新聞監査委員会委員、写真部デスクを経て現職。読売プレミアムで「岩佐ジョーのデジカメ上達術」を連載中。フルマラソンの自己ベストは3時間57分。100キロは13時間53分。モットーは「毎年フルマラソンで4時間を切り、100キロを完走し続ける」

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 マラソンやランニングが、ライフスタイルとして定着しつつあります。週末、各地の大会に出かける人も多い中、あなたのオフィスの隣の人がランナーかも? 読売新聞社内のマラソンランナーが、国内外の大会に参加した体験記、トレーニング法、仕事との両立など、マラソンへの思いを語ります。

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