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医療・健康・介護のコラム
スポーツスキルを磨く! 自分の感覚を大切にする法則
蒸し暑い日が続いていますが、皆さん、いかがお過ごしでしょうか。私はこの時期、冷やした炭酸水が大好きでよく飲んでいるのですが、冷房が利いている環境も多くありますね。お 腹 があまり冷えない工夫として、最近、電気のホットパックをお腹に当てて温めています。お腹がデリケートなので少し調子を落とす季節なのですが、お腹を温めているおかげか、とても調子がいいです!
8月、熱戦が続いたリオデジャネイロオリンピック。本当に、素晴らしい戦いとチャレンジに、感激と感動で胸が熱くなりました。ギリシャの古代オリンピックの伝統を 汲 み、近代オリンピックが復興したのは1896年、フランスのピエール・ド・クーベルタン男爵によるものでした。近代オリンピックの理念は、卓越性を目指し、努力をする喜びを得ること、相手への尊敬や友情、そして体と心の調和とされています(※1)。世界最高峰と位置付けられたオリンピック。出場した全てのアスリートの皆さんに、心から「お疲れさまでした」とお伝えしたいです。そして、9月7日(日本時間8日)からは、パラリンピックが始まりますね! とても楽しみです。
自分にしかできない方法・自分に一番合ったスタイルを見つける法則
オリンピックに挑むアスリートの皆さんは、長い月日を費やし、4年に一度しか行われないこの大会に向け、最大のピークを狙い励んでこられたのだと思います。私たちが目にしたオリンピックは、長きに 渡 り、アスリートの皆さんが思い当たるあらゆる面の準備をしてきた「あの日、あの瞬間における最終形(=完成)」のパフォーマンスです。その過程で直面した、数々の困難や葛藤、目には見えないプレッシャーと共に過ごしてきたのだと思います。だからといって、そのアスリートと同じ過ごし方をすれば、同じような結果を得られるかというと、それはかなり難しいと思います。
トップアスリートの見事な技を見ると、その通りのことを 真似 してやってみようと思う方は多くいるかもしれません。とくに、若いアスリートは憧れから、そのように思うケースがあると思います。
しかし、実際には、「その人でないとできないこと」であり、真似はできないけど、お手本となるということに 留 まると思います。つまり、人には個体差があり、自身に合っているスタイルなのか、適性についてよく考える必要があるということです。他者を大いに参考にしながら、「自分の場合はこうしてみよう」というオリジナリティーを求めるのが良いのではないかと思います。
記録やパフォーマンスはいつか限界が来る
夢や目標を持ち、自分の理想のパフォーマンスを目指し、アスリートは励みます。その志が高ければ高いほど難易度もおのずと高くなります。若く、競技経験が少ない伸び盛りのアスリートにとっては、記録が一気に伸びていく「楽しさ」を感じることができると思います。しかし、ある程度自分の持っている実力を出し切ると、今度はパフォーマンスの伸び率が横ばいになり、停滞する時期が訪れます。これは、いわゆる「スランプ」とは、また別のことだと思います。
この時、これまでと同じような、あるいはそれ以上の頑張りや努力があっても、わずかしかパフォーマンスが伸びない状況に陥ってしまうことが多々あります。その時の「全てを出し切った」「伸ばし切った」状況から、更にパフォーマンスや記録を伸ばすことは、本当に難しいことです。成績に 繋 がらない期間は、モチベーションも低下し、精神衛生的な面にも影響を及ぼし、萎えることが非常に多くあります。これは、自己分析と自己評価の仕方で随分捉え方がかわるのですが、また別の機会に書いてみたいと思います。
自己の限界とスランプは異なる
自分にとって、最高の成績や記録を出せたとします。好成績を出し切った後、「どうやってそれ以上の記録を出せるのか?」ということに悩むケースは大変多く見られます。
私の経験を少し紹介したいと思います。私は、1999年、22歳にはじめて円盤投げの日本記録(当時56m68)を樹立しました。ハンマー投げは27歳、2004年アテネオリンピックの年に、2度更新しました(67m77)。いずれも、日本記録を出した時、即座に思ったことは「これ以上の成績を出すにはどうしたらいいのか?」でした。好記録を出した喜びは一瞬で、すぐに不安感に陥りました。記録を目指したのだけれど、実際に達成した時が一番苦しいと感じられました。
その後、円盤投げは自己記録(=日本記録)を更新するのに、実に8年という長い歳月を過ごしました(2007年:58m62)。通常の実力よりパフォーマンスが低下することがスランプですが、私の場合、実力自体はコンスタントに出し続けていた8年間でした。つまり、自分の限界と向き合った年月になります。
この期間、総合的に見て、トレーニングの質や精度は向上していました。しかし、円盤投げやハンマー投げの記録自体は伸びなかったことで、思い描く理想の境地に 辿 り着けない、もどかしい日々の繰り返しでした。そのもどかしさをのみ込みながら歩む時間はとても長く感じられ、自分の競技の才能まで疑うこともありました。
ない感覚は、一から作ればいい
たとえば、登れない険しい岩場や山があるとします。そこを登りたいのなら、自分が登れるだけの 梯子 を用意する必要があります。梯子は誰が作るわけでもなく、自身にしか作れません。自分が上りやすい間隔で、そして頑丈なものを作れば、安心して上ることができます。一度かけた梯子は何度も使うため、一つずつ丁寧に作る必要があります。最終的には、いくつもその梯子を作り、絶妙な配置を成し、そこを上っていくことが重要だと感じられます。
私は、自分の専門スポーツにおける技術を獲得するために、身体の機能性(腕の上げ下ろし、しゃがみ込むなどの動作)など、実に細かい基礎的なところにも注目して梯子をかけました。私の心の中でいつもあったキャッチワードは、「ない感覚は、作ればいい」でした。これを、何度も飽きずに繰り返すことがとても大切で、その過程こそがスポーツをする 醍醐味 だともいえます。
限界の先を行く挑戦は、スポーツ以外の世界にも大きく繋がり、その感覚や意識的なものはおそらく共有できるのではないかと思います。生きていれば、日常の中でトレーニングすることは、本当にたくさんあると思います。自分の中の感覚や感性を大切にしながら、オリジナルの梯子作りの方法、皆さんもぜひ探してみてくださいね。
それでは、また次回のカフェでお会いしましょう!
(引用・参考文献)
1)結城和香子. (2004). オリンピック物語: 古代ギリシャから現代まで. 中央公論新社, 200.
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