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虹色百話~性的マイノリティーへの招待

医療・健康・介護のコラム

第53話 「手術同意に同性パートナーも」…報道から考える、医療現場の支援策とは

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 「同性パートナーの前に、やはり親族に聞いてみなければ……」

ことほどさように病院の現場には、一般的に、親族優先が染み付いているのではないでしょうか。

 ところで、この混乱の始まりは、意識不明の人から手術同意書をとろうとしたとき、それをだれが代理(代行)できるのか、見解が定まっていないことにあります。

 しかし、定まっていないのも道理で、手術同意(あるいは医療行為の同意)は一身専属権であり、法的にはだれも代理ができないという見解があります。これは夫婦や親子であっても同じです。

 でも、「病院などでは実際には医師が家族に病状を説明し、治療について家族から同意を得て進めているではないか」とおっしゃるでしょう。それは家族や夫婦には同意の代理(代行)権が「法的にある」からではなく、「家族なら本人の医療についての意思をよく知っているだろう」「家族の話によれば、本人はきっと同意するだろう」という推測にもとづいた、あくまでもグレーな措置にすぎません。

 また、同意の前提である医療の内容説明では患者の病状などの個人情報を含み、本人の許諾なく第三者に開示することはできません(個人情報保護法)。しかし、相手が家族ならば本人はおそらく許諾するだろうという推測にもとづく、これまたグレーな措置にすぎません。家族といえども法律上は第三者ですから。

 だとすると、グレーな措置の範囲内で本人の意思を推測するのに、日頃から生活をともにしている同性パートナーと、たんに血族というだけの、日頃は遠方にいたり、場合によったら関係がよくなかったりする親族とでは、どちらに依拠するのがより合理的なのか――言わずとも明らかでしょう。

 もっとも私は、法的にこんな危ない橋を渡るまえに、同性カップルは万一に備える医療行為の同意に関する意思表示書の作成や、救急等からの連絡を呼び込む緊急連絡先カードの携帯を、と呼びかけています。

 なお余談を言えば、同意書を入れなければ手術はしてもらえないのでしょうか。代理で署名する人がいない単身者の人が意識不明に陥ったときは、どうするというのでしょう。

 手術の同意書には、法的にはなんの意味もありません。まさかサインをした場合、医療過誤があっても訴えません、という一札なのでしょうか。医師と患者(素人)の情報格差の観点からいって、これは対等な契約でも同意でもなく、医師の気休めにしかすぎないでしょう。

 私は手術の同意書なるものを廃止していいと思うし、少なくとも必要以上に重視しないことを提案します。

なにが権利の前進か、見極める目を

 昨今の「LGBTブーム」のなかで、性的マイノリティー支援をうたい文句にする施策やサービスが、諸方面から打ち出されています。ネットニュースとSNSの発達で、それらはどんどん拡散し、広く知られるところとなります。日頃から存在を無視されたり曲解されたりしている性的マイノリティーとしては、こうした社会の動きがあるとつい (うれ) しくなり、「いいね!」とクリックしたくなるものです。

 しかし、報道される横須賀市立2病院の指針は、性的少数者を「支援」といいつつ、当事者の目で検討すると、いくつか問題をはらんでいるように私には思われました。

 そうしたとき、たんに批判するだけでなく、多少の 瑕疵(かし) があっても感謝や歓迎の声を届けるほうが「社会を変える」ことにつながると提唱する活動家もいます。そのことは否定しませんが、今回、条件の運用が厳格だった場合、その域を超えている気もします。

 「LGBTフレンドリー」というお題目だけでは、実際的な支援にならないこともある。当事者の側も、なにが事態の前進となるのか、見極める目をもつ時期に来ているのではないでしょうか。

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永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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2件 のコメント

当事者より

くりすけ

僕自身は法的制約で戸籍上は女です。性同一性障害で約15年女性と一緒に暮らしています。娘が今月出産しまし。娘は僕たちの関係について必要だと思ってい...

僕自身は法的制約で戸籍上は女です。性同一性障害で約15年女性と一緒に暮らしています。娘が今月出産しまし。娘は僕たちの関係について必要だと思っている一方で世間から見て変な家族と思われるのが嫌で14歳から5年間施設で育ちました。
息子は卒論のテーマに性同一性障害を選び学問的思考で現状を理解しようと頑張っています。
僕はダブルワークで2社ともカミングアウトしていますが、実際に偏見があるのは事実です。僕自身構わなくても娘に続き孫の代も世間の偏見で家族の絆が壊れてしまうのではないかと不安に思っています。
付け焼き刃的な施策ではなく、一日も早く国を挙げて性的マイノリティーの生きる権利を保障して欲しいと願っています。

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カイカタ

同意を拒否されてしまったら?

拒否をして亡くなられたら拒否した人の責任? また同意して手術に失敗したらどうなるとか、知っておく必要がありますね。

拒否をして亡くなられたら拒否した人の責任? また同意して手術に失敗したらどうなるとか、知っておく必要がありますね。

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