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虹色百話~性的マイノリティーへの招待

コラム

第53話 「手術同意に同性パートナーも」…報道から考える、医療現場の支援策とは

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同性パートナーは3年共住や親族確認が条件?

「手術同意に同性パートナーも」…報道から考える、医療現場の支援策とは

 神奈川県横須賀市の市立2病院が、手術同意で同性パートナーも可能にする独自の指針を定めたと、8月10日、神奈川新聞が報じています(ウェブ版もあり)。

 同紙によれば、昨年末に改定した横須賀市立2病院の指針に、意識不明などで判断能力のない患者の手術の同意書の署名者として、同性パートナーも認めることを盛り込んだとのことです。夫婦や親族とおなじように同性パートナーを扱うことが明文化されるのは県内でも珍しく、記事でも「市立病院で性的少数者を支援する取り組みを進めている」と報じています。

 しかし、記事によれば、こうした同意書の署名者として認められるのは「3年ほど一緒に過ごし、周囲からパートナーとして認められていること」が条件であり、その関係性は患者の家族に電話などで確認を取る、とのことです。

 みなさんはこれをどう感じるでしょうか。

 私はニュースが報じられた日、自分のツイッターで、相手方親族にも確認するとなると、同意書の署名をしない当事者もいるだろうと書きました。確認されると、カミングアウトになるからです。また、同意書がなければ手術ができないわけではありません。そうでないと、単身者は手術しないで放り出されてしまいます。

 病院側が、同性パートナーも家族だと認識することは、一歩前進でしょう。しかし、3年間の共住や周囲の承認を条件とし、家族・親族へ確認までする意図とはなんでしょうか?

 ことの善しあしは別として、同性カップルの多くは周囲に関係を悟られることを気にし、部屋の出入りさえ気にするのが現実です(参照:第46話 性的マイノリティーの「家探しはつらいよ」)。親族へのカミングアウトができない、あるいは、しない人も少なくないでしょう。

 そういった状況で、そういう人が急病で倒れ、交通事故に遭い、意識不明で市立病院へ搬送されてくることがあるのです。そのとき、自分が患者のパートナーであると言っても、「では、ご親族に確認します」と言われるのでは、いったいだれが申し出るというのでしょう。

 実際の場面を想像すればするほど、指針があっても、実際の運用で「これ、使えないわ」となります。これが「性的少数者を支援する取り組み」なのか、疑問を感じます。

 この報道に、本件の実質上の提案者である藤野英明・横須賀市議が、ツイッターでこう書いています(抜粋)。

▽この件を議会で提案して、「ついに良い成果が出ました」と市立病院担当課から市長・議会に対して報告を受けたのですが、その書類は僕の提案通り、本人の意思を尊重して同性パートナーとの申告があれば無条件で認めるものだったのです。

▽同居3年とか親族同意は、市長にも議会にも全く説明がありませんでしたので、本当に不快の極みです。

 藤野市議のブログ( http://www.hide-fujino.com/blog/2016/02/22/39844 )には、2015年以来、議会質問による働きかけ、市立2病院の指定管理者側での検討など、時間をかけたやり取りが進められ、患者本人に意識がない場合の手術同意者として無条件で「配偶者に相当する内縁のパートナー(同性パートナーを含む)」と明記する指針が出るところまでこぎつけたいきさつが記されています。 

家族主義と医療行為の同意権をめぐる混乱

 市立病院担当課の報告とも 齟齬(そご) があるこの報道内容。その真偽や経緯は、藤野市議ら関係者の調査や報告を待ちたいと思いますが、ここで私は一般的に、病院などにおける家族優先主義と医療行為の同意権をめぐって理解が 錯綜(さくそう) していることについて、あらためて考えてみたいと思います。

 もし市立病院の指針が実際に運用され、条件が必要となった場面を想像してみてください。「いま、同性パートナーさんという方が手術の同意書に署名するというのですが、ご親族の方は同性パートナーさんが署名することでよろしいですか?」と電話で聞くというのです。親族へ関係をバラしていることはいうまでもないですが、これでは電話の向こうの親族が署名するのを代行するだけで、結局は同性パートナーの存在を認めていないのと同じではないでしょうか。

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永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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2件 のコメント

当事者より

くりすけ

僕自身は法的制約で戸籍上は女です。性同一性障害で約15年女性と一緒に暮らしています。娘が今月出産しまし。娘は僕たちの関係について必要だと思ってい...

僕自身は法的制約で戸籍上は女です。性同一性障害で約15年女性と一緒に暮らしています。娘が今月出産しまし。娘は僕たちの関係について必要だと思っている一方で世間から見て変な家族と思われるのが嫌で14歳から5年間施設で育ちました。
息子は卒論のテーマに性同一性障害を選び学問的思考で現状を理解しようと頑張っています。
僕はダブルワークで2社ともカミングアウトしていますが、実際に偏見があるのは事実です。僕自身構わなくても娘に続き孫の代も世間の偏見で家族の絆が壊れてしまうのではないかと不安に思っています。
付け焼き刃的な施策ではなく、一日も早く国を挙げて性的マイノリティーの生きる権利を保障して欲しいと願っています。

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カイカタ

同意を拒否されてしまったら?

拒否をして亡くなられたら拒否した人の責任? また同意して手術に失敗したらどうなるとか、知っておく必要がありますね。

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